ステータスは脳内にアクセスして確認してください

 光のトンネルを抜けると。

 そこは、草原地帯。

 日差しは温かで、吹き抜ける風が心地よい。


 これは。

 まずい。


 見渡す限りの大草原。

 当然、人の姿を確認できるはずもない。

 異世界転生って、最初、小さい町かなんかからスタートするもんじゃないの?

 そこで、装備とか揃えて、ギルド的なサービスに登録して。


 丸裸なの?防御力的に。


 その思考の答えは、取説のある部分と関連することに、ここで気づく。


・ステータスは脳内にアクセスして確認してください


 脳内にアクセスって、どうすんの?

 首に有線プラグかなんか付けんの?


 ・・・


 とりあえず・・・。

 『今の装備が知りたいです』、と願う。


・武器:吸魔の包丁(FAT 120、MAT 30)

・防具:安物のエプロン (FDF 2、MDF 0)

・補助:なし


 ・・・


 数値まで出た!

 ちなみに、ここで、


・FAT:物理攻撃力

・MAT:魔法攻撃力

・FDF:物理防御力

・MDF:魔法防御力


 である。

 これも、取説に書いていた。


 吸魔の包丁とは、いつのまにか自分が右手に持っている、この包丁のことだろう。

 そして『吸魔』とは、『スキルを吸収』の意味なのだと推測。

 それが正しいのなら、契約通りの武器を入手できたことになる。


 そして防具。

 包丁の攻撃力120に対して、防御力『2』って、あんた。

 もしダメージの計算方法が、単純な、『ダメージ = 攻撃力 - 防御力』なら、ほぼ裸と同じやないの。

 その一方で、こんなただの布切れに、『防御力』という力が込められている、そう考えると不思議なものである。

 このエプロンは『おまけ特典』という枠らしい。

 選んだ転生特典に関連するちょっとしたアイテムや能力が付与されることもある。

 と取説に書いていた。


 ちなみに、エプロン以外にもちゃんと服を着ている。

 ボロ切れの上下ではあるが。


 裸エプロンじゃ、ないんですからね!


 ・・・


 さて、次・・・。

 『今のステータスが知りたいです』、と念じる。


・Lv:1

・FAT:16 (+120)

・FDF:14 (+2)

・MAT:20 (+30)

・MDF:16


 Lv1。

 まあ、そりゃそうですよね。


 ちなみにレベル上限は存在しないので、いきなりLv256からスタート。

 なんて夢を見るところだが。

 取説には、


・転生時、レベルは必ず1からスタートする


 と記載されていた。

 まあ、そりゃあ、そうだ。




 とにかく、俺が今やるべきこと、それは。

 『町を探す』。


 ここで旅人が来るのを待つか。

 適当に彷徨さまようか。

 北か、南か、西か、東か。

 どっちが北か、わからないのだが。


 ・・・


 俺は、武器の包丁を地面に軽く刺した。

 この包丁は柄が長く、包丁と刀の中間程度のサイズ。

 でっかい刺身包丁のように、細長い包丁である。


 包丁は、南西(仮)の方向に倒れた。

 よし!出発!


 俺は、異世界での第一歩を踏み出した!





 踏み出したかった。

 踏み出したかったのである。

 しかし、それは叶わなかった。

 南西の方向から、何か、何かしらの物体が接近してくることを確認。

 その物体が何かはわからなくても、わかる。

 なぜならば。

 その接近スピードが、人間が出せるソレから乖離かいりしているからである。


「モンスター、キター!!!!」


 相手の顔を確認する前に、勝手に口が動いた。


「シェルター!」


 その瞬間、現れたのは巨大なコンテナ。

 白いペイントがされた、新品のコンテナ。

 すぐに扉を開閉し、中へ退避。

 その中は。

 温かかった。


「冷蔵?だったのでは」


 しかし、すぐに気づく。

 扉の先に、まだ扉がある。


「ひんやりー」


 その扉を開けると、冷風。

 なるほど、冷蔵室の前に『前室』をもうけてくれていたのだ。

 たしかに、籠城戦になった場合に、冷蔵室の中の待機だと、体温が奪われてゲームオーバーになってしまう。

 そのあたりを、天使さんが考慮してくれていたようだ。

 ありがとう、美人の天使さん。


 冷蔵室は2畳程度の敷地。

 そして中が空であることを確認したのち、その先にある扉をオープン。


「ちべた!」


 その扉を開けると、身も凍る寒さ。

 そう、ここが冷凍室だ。

 こちらも2畳程度の敷地。

 冷凍室の中も当然、空。

 その事実だけ確認して、俺は前室に戻った。


 改めて、前室の構造を確認。

 とはいっても、確認すべきオブジェクトは2箇所だけ。


 1つは『簡易調理場』。

 まきで火をおこすタイプのコンロ、水道とシンク、カッティングスペース、まな板。

 なるほど。

 このシェルターだけで、料理ができるようにしてくれてるのだな。

 これも転生おまけ特典のようだ。

 もし水が無限に出るのなら、籠城には本当にありがたい。

 

 そしてもう1つのオブジェクト。

 それは窓。

 田の字の枠を持った、横に引いて開閉するタイプの窓だった。

 これはありがたい。

 この窓から外の様子をうかがえるぞ。

 そして、俺は窓から外界を。

 ゆっくりと、覗き見た。


<<ガウガウガァァァッァァァァァァァァァ>>


「ギャーーーーーーーーーーー!!」

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