第一章 己が地獄

【登場人物】


白波 冬哉(しらなみ とうや):男性


本作の主人公。中学3年生。心にとあるトラウマを抱えている引きこもり。この章にて、冬哉が引きこもりになった原因が明かされる。そして冬哉に『その時』が訪れる・・・。




冬哉の母親:女性


文字通り冬哉の母親。独白・冬哉の記憶にて登場。




冬哉の父親:男性


文字通り冬哉の父親。独白にて登場。




猫:性別不詳


冬哉の前に現れる謎の猫。不思議な雰囲気に包まれているが・・・?




謎の異形(今章では咆哮のみ):性別不詳


冬哉が耳にした異形の咆哮。




【本編】

【冬哉の独白】


冬哉「思い出したくも無い。でも、は俺の脳裏に焼き付いている。俺は中一の時、言葉の暴力いじめを受けて心に傷を負い引きこもり、つまり不登校になってしまった。」


【回想・冬哉がいじめを両親に打ち明ける】


母親「・・・どうして、どうしてもっと早く母さんを頼らなかったの・・・?」


冬哉「・・・。」


母親「貴方を責めはしない。でも、もっと・・・もっと早く・・・。(涙ぐむ)」


冬哉「・・・。」


父親「やめろ。今本当に泣きたいのは冬哉のほうだろう?」


冬哉「・・・。(少し涙ぐみ、俯く)」


母親「・・・そうね。(自分の涙を拭い、冬哉の頭を撫でる)冬哉、よく頑張ったね。」


父親「もう、大丈夫だからな。(冬哉の肩に手を乗せる)」


冬哉「・・・うわあああああっ!(感情が溢れ出し、号泣)」


【回想が終わり、再び冬哉の独白】


冬哉「あの時、俺と両親は『時間が傷を治してくれる』と高を括っていたが、その時の俺は俺自身に刺さった凶器ことばの恐ろしさを知らなかった。悪夢を見たり、普通に生活していても突然、過去という名のナイフが心に突き刺さる。そして、俺はそんな日常を生きる中、ふと過去を自発的に思い出し、こう思うことがある。」


冬哉「『俺はあの時、あの場所で、何か悪いことをしたのだろうか?』と。」


【独白終了、冬哉が自分の部屋でパソコンをいじっている】


冬哉「・・・あっ、マウスの電池、切れた・・・。」


冬哉「・・・そういや、母さんが」


母親『電池、なくなったら自分で買ってきてね。家にもうないから。一応、電池用のお金、置いとくからね〜』


冬哉「って言ってたな・・・。(ため息)、面倒くさいな・・・。仕方ない、行くか。」


【外に出た。真夏の日差しが容赦なく冬哉を照らし出す。道には先日降った雨の水溜りが所々にあった。】


冬哉「にしても、暑すぎる・・・。なんでこんな日に外を出歩かなきゃならないんだ・・・。コンビニが家の近くにあって良かった。」


【自分の不運を呪いながら歩き、ようやくコンビニ前まで辿り着いた】


【・・・が、冬哉の視界にが映った】


冬哉「あれは・・・猫? にしては変だな。俺の耳には・・・」


冬哉「・・・人の声が聞こえる」


冬哉「周りには誰も居ないし・・・どうなってんだ?」


猫(?)「・・・こっちへ」


【猫はそう言い残し、コンビニの横の路地裏へと消えていった】


冬哉「・・・。(しばらく考え込む) よし、行ってみるか。」


【冬哉、猫が入っていった路地裏へと進む】


【冬哉は猫を見つけると、猫は何かを咥えて座っていた】


冬哉「何咥えてるんだ・・・?(猫に近づく)これは、鳥の羽・・・? なんでこんな物咥えてるんだよ。(羽を手に取り、その辺に捨てる)」


猫(?)「ダメだ、お前が持っていろ。(羽を咥え直し、冬哉に取るよう促す)」


冬哉「なんでなんだよ・・・。(渋々羽を手に取り、服のポケットに入れる) てかこれは夢の続きか?猫が流暢に人の言葉話してるし。」


猫(?)「これは夢などではない。紛れもない現実だ。」


冬哉「マジかよ・・・。」


猫(?)「・・・お前は、過去を見つめ直さなければならない。」


冬哉「・・・急にどうした?」


猫(?)「お前が何故過去に囚われ続けるのかを。」


冬哉「・・・ッ!(何を言っているのかを察し、顔を強張らせる)」


猫(?)「お前は心の中に潜む怪物を断ち切らなければならない。お前には 『』が訪れた。」


冬哉「その、時・・・。」


猫(?)「さあ、振り返れ。おのが地獄を自らの手で救済するのだ。」


【猫が光に包まれ、少しずつ消えてゆく】


冬哉「おいっ!待てッ!(手を伸ばすが、届かず)」


冬哉「・・・くそッ!」


【ふと来た道を振り返り、その光景に冬哉、絶句】


冬哉「・・・は?」


【空は血塗られたように赤くなっており、黒い雲が漂っている。まるで世界の終焉おわりを表しているかのようだ。】


冬哉「一体・・・どうなってんだよ・・・?空が真っ赤に・・・。それに人も、走り去る車もない・・・。」


【その時、冬哉の通っている学校方面から何かの叫びが轟く】


異形「(咆哮)」


冬哉「うわっ!(咆哮が聞こえ、思わず腰を抜かす)」


【冬哉、ゆっくりと立ち上がり状況を考える】


冬哉「これが、あの猫が言ってた『己が地獄』ってやつか?まさしく地獄って感じだしな・・・。まさか、嫌な予感がこんな形で的中しちまうなんて・・・。」


冬哉「・・・でも、一つだけはっきりとわかることがある。」


冬哉「この世界じごくは、間違いなくヤバいってことだ・・・!」

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