第8話 告白

 雫は由依を改札前まで送り届けた。


「由依ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう! 帰り、気を付けてね」


 無理やり笑顔を作って言葉を並べる。


(やっぱり恋愛なんてするもんじゃないな。よし、クラブ行こ。今日は二人くらい頑張るか)


 あまりの脈のなさに、雫はどこかスッキリとしていた。

 LIMEの段階では正直イケるかもと思っていたが、今日の様子を見るに、それは勘違いだったんだろう。


「じゃーね!」

「――雫さん!」


 由依に背中を向けて一歩踏み出した瞬間、後ろから声が聞こえてきた。

 振り向くと、由依が俯いている。


「どうしたの?」

「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」


 そう言った直後、由依は両目を手で覆った。同時に鼻をすする音が聞こえてくる。

 泣いているのだ。


「――えっ!? ちょ、ど、どうしたの!?」


 雫にはその涙の意味が全くわからない。

 そのため、由依の行動にひどく慌てふためいた。


「わ、私……。き、緊張しちゃって……雫さんがかっこよすぎて……」


 由依は涙混じりの声でそう伝えてくる。


「え、えっと……」

「素っ気ない態度……取ってしまって……ごめんなさい。私なんかに付き合わせて……ごめんなさい……。つまらない時間を……過ごさせてしまってごめん……なさい」


 途切れ途切れに話す由依の言葉を聞き、雫はようやく自分のおろかさに気が付いた。

 彼女はただ緊張していただけなのだと。脈なしなんかではなかったのだと。


「ふぇ……?」


 それから雫はつい由依を抱きしめてしまった。

 耳元から驚いたような声が聞こえる。


「由依ちゃん……ごめん。俺、緊張しちゃって。由依ちゃんのことが好きなんだ」

「……えっ?」


 雫は由依から離れ、目を見つめながら口を動かした。


「由依ちゃん、初めて見た時から好きです。よければ俺と……付き合ってください」


 由依は突然の告白に目を白黒させた。口もぽかーんと開いている。


 やがてハッと気が付いたかのように手で涙を拭うと、満面の笑みで言うのだった。


「……はい、喜んでっ!」

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