第2話 ナイトクラブへ

 店から出て、十分ほどが経った頃。

 二人はナイトクラブ――ビーサイドに辿り着いた。


「年齢を確認できるものお願いしやーす」


 雫は入口に立っている大柄でぶっきらぼうな男に免許証を手渡す。


「うぃー。そんじゃあどーぞー」


 別の男が扉を開くと、中から鳴り響く重低音が心臓を揺らす。


 この瞬間がたまらない。

 さあやるぞ! と気合いが入る。


 ……いつもであれば。


 そのまま中へ足を踏み入れ、これまた不愛想な受付の男に雫は千円札を渡した。

 入場料である。


 雫はその受付の店員から、中でドリンクと交換できるチケットを受け取り、フロアーに入っていった。

 まだ二十一時にもなっていないためか人はまばらだ。

 男はともかく、お目当ての女性客は数えるほどしかいない。


「さすがにスカスカだな。まあ、とりあえず乾杯しようぜ」


 一歩遅れてフロアーにやってきた拓也が、雫に耳打ちするようにして伝える。

 普通に話していては爆音にかき消され、会話が全く聞こえないためだ。


 雫たちはバーカウンターに移動し、クラブでお馴染みのカクテル――ウォッカのエナジードリンク割りを注文。

 そうしてドリンクが作られるのをぼーっと見ていると、後ろから背中をツンツンと突かれる。


 振り返ると、ミルクティー色の髪をした小柄な女性が立っていた。


「お兄さん、めっちゃイケメンですねっ!」


 その女性は耳打ちするようにそう言ってきた。

 逆ナンである。それもタイプではないものの、中々にかわいい娘から。


 これはラッキーだ。クラブに入ってからものの数分で、お持ち帰りの目星が付いてしまった。


 しかし、なぜか素直に喜べない。何だか気分が乗らないのだ。


「そう? ありがとっ!」


 雫はとりあえず言葉を返しつつ、横にいる拓也のほうへ目を向ける。


 すると拓也は黒髪と金髪、二人の女性と会話していた。

 金髪の女性は、同時に雫が話している女性とも親しげに話している。

 どうやら三人組のようだ。


 やがて拓也は自身の右耳を触り始めた。


 これは二人が事前に決めたハンドサインの一つ――「イケそうだから、この娘たちにしよう」である。


 拓也は今日のターゲットをこの三人組に定めたようだ。


(……何かやる気がしないから、今日はサポートだけでいいや)


 雫と拓也はドリンクを受け取り、女性たちと話に花を咲かせた。




 それから一時間ほどが過ぎ、徐々に客が増えてきた頃。

 気が付けば、二人で話していた拓也と金髪の女性の姿が見えなくなっていた。


 雫はポケットからスマホを取り出し、通知を確認。

 すると案の定、拓也から『お先~』というLIMEのメッセージが届いていた。


 どうやら無事にお持ち帰りできたようだ。それを確認した雫は、自身が話していた黒髪とミルクティー色の髪の女性に告げる。


「ごめん、何か具合悪いから俺帰るね。後は楽しんで!」


 逆ナンしてきたミルクティー色の髪の女性から、「えー!」という言葉が返ってくる。持ち帰られるつもりでいたのだろう。


 しかし、どうも今日は気が乗らない。

 居酒屋の女性店員を見た時から何かがおかしい。あの娘のことが気になって仕方がない。

 昔の知り合いか何かだろうか。


 雫は二人の女性と別れ、クラブを出てはそのまま帰路へと就いた。

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