チャラ男がマジ恋した結果
白水廉
第1話 出会い
繁華街にあるコンビニの前。
黒髪で
「ねえ、見て! あの人、めっちゃイケメン!」
「んー? ほんとだ! いいなぁ、あんな彼氏欲しいなー」
「でもあれだけイケメンだと、女遊びしてるんだろなー」
「絶対そうだよ! あたしがあの人ならそうするもん!」
その青年の前を通りすがった二人の女性からそんな言葉が漏れる。
青年の名は
パッチリとした大きな目とスッと通った鼻筋で構成されたその顔は、まさに
「来ないな……」
手元のスマホに視線を落とし、ポツリと呟いた。
時刻は十九時半。待ち合わせ時間から三十分も過ぎているのに、連絡すら来やしない。
(もしかして何かあったのか?)
いつもは遅刻なんてしない奴だ。事故にでも遭ったのではないかと不安を覚え始める。
「――わりぃわりぃ、ちょっと仕事でトラブちってさ」
そんな零の元に、茶色い髪を長く伸ばしたホスト風の男が駆け寄りながら声を掛けてきた。
零の待ち合わせ相手である。
系統こそ違えど、彼も雫に負けず劣らずのイケメンだ。
「お疲れ。何かあったのかと焦ったよ。じゃ、行こうぜ」
「おう! 腹減ったわぁ」
二人は言葉を交わした後、コンビニの隣にある居酒屋へと入っていった。
そこで男の店員に注文を伝え終わった雫は、そのまま拓也に向かって口を開く。
「それで今日はどこにする? イーグル? ビーサイド?」
「んー、イーグルは昨日行ったしなー。ビーサイドでよくね? あ、ジールでもいいけど」
雫たちが決めているのは、これからどのナイトクラブに赴くか。
ナイトクラブとは、夜な夜な出会いを求めに男女が集う大人の社交場である。
そう、二人はこれからナンパへ繰り出そうとしているのだ。
「じゃあ、ビーサイドでいいか。――あ、どうも」
先ほどの男性店員がビールとお通しを運んできた。
二人は手に取ったジョッキを打ち付けてから、黄金色の液体で喉を
半分ほど飲み、ぷはーと言葉を漏らしたところで、拓也が言った。
「そういやLIMEで言ってたけど、昨日の
雫は昨日も拓也とクラブに足を運び、いつも通り女の子をお持ち帰りすることに成功した。
それなのにも関わらず、手を出さなかった。
理由は単純。
「ヤるなら付き合って」と言われてしまったから。
雫は確かにチャラい男だが、適当に付き合うと言っておいて後になってポイ捨てする――いわゆるヤり捨てだけは絶対にしない。
相手の女性を傷つけないため、後の面倒ごとを避けるため、そして何より彼女にするのは本当に好きな人だけと決めているためだ。
あくまで相手もその場限りと割り切っている時にしか、雫は行為に及ばない。
「『ヤるなら付き合って』って言われちゃったからさ。結局、話だけしてそのまま寝たよ」
「ああ、いつものやつな。それなら仕方ねえか」
「わかってくれるのはお前だけだよ、ほんと」
派手な見た目に反して、拓也も雫と同じである。この二人は女性の恋心を弄ぶような真似は絶対にしない紳士なのだ。
だからこそウマが合い、クラブで知り合ってから一年。こうして付き合いが続いている。
「じゃあ、今日こそはしっかりとビッチちゃん捕まえて、やることやらないとな!」
「だな……って、お前は昨日ヤッてるだろ!」
「俺は過去は振り返らねえっ! 待っているのは未来だけだ!」
拓也はそう言いつつ、テーブルにドンッと拳を打ち付けた。
「あはは、バカじゃねーの。漫画の主人公かよ」
「かっけーだろ? ははっ」
「お待たせいたしましたっ! 唐揚げとたこわさですっ!」
バカ話で盛り上がっていると、横から女性の声が聞こえてきた。
「あっ、ありがとうござ――」
何気なく、その女性をちらりと見た瞬間、雫の時間が停止した。
黒髪のミディアムヘアーに、クリクリとした丸くて大きいタレ目。加えてキュっと上がった口角が何とも愛くるしいタヌキ顔の女の子。
まだあどけなさが残るその表情は、太陽のように明るい。
とはいえ。
確かにかわいらしくはあるが、何も絶世の美女って訳ではない。
三日前に抱いたギャルのほうが断然ルックスがよかった。
それなのにも関わらず、雫はその女性に目を奪われていた。
「では、ごゆっくりどうぞ!」
その女性店員は料理を置いた後、ニコッと微笑んでから去っていった。
「――い。おいっ!」
「……ん? どうした?」
「『どうした』はこっちのセリフだよ! いきなりボーっとして。もう酔いが回ったのか?」
「いや、別に……」
「ふーん、変な奴。まあいいや。じゃ、食おうぜ」
二人は料理をつまみつつ、話に花を咲かせた。
それから数十分。
「――よし、そろそろ行くか」
拓也は立ち上がり、伝票を手に取って入口へと歩いていく。その後を零も追い、レジに置かれた呼び出し鈴を押す。
「はい、お会計ですね! えーっと、全部で――」
最初に注文を取りに来た男性店員がやってきた。
その瞬間、雫はなぜかガッカリしたかのような気分を覚える。
しかし、その理由がわからない。
「じゃあ、これで。今日は俺が出すわ。待たせちったしな」
拓也は店員に五千円札を手渡した後、振り向いてそう言った。
「あ、ああ。わりいな。ご馳走様」
「おう! よし、それじゃあ行くか」
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