第3話 強者

「了解しました。すぐに憲兵を派遣させます。ご報告ありがとうございます」


 一人の憲兵がフィレアさんの報告を受けて、対応している様子を離れた位置から僕は見ていた。


「それじゃあ、アルバくんは剣士になるためにフィーロに?」

「あっ、はい」


 フィレアさんと僕は少し離れた場所にいた。

 フィレアさんは憲兵に報告をすませると一人で街の中へと歩いていってしまった。

 本当なら一緒に街の中に入りたかったが、僕の身元を確認するために憲兵と話していた。

 前に来た時は父さんたちと来たから大丈夫だったが、今回はフィレアさんがいるとはいえ、実際には一人でフィーロに訪れているのも同義のため、軽い審査のようなものが行われていた。

 街にみすみす今日出会った野盗のような罪人を入れないために行われる身元の確認。あと、街に訪れた理由などを簡単に聞かれる。


「それじゃあ、身分を表すものを提示してもらえるかな」

「少し待ってください」


 カバンの中から身分証を憲兵の人へ差し出す。


「アーリスって、君はあそこの村の住人なのか」

「知っているんですか?」

「もちろん。君の村の人が持ってくる果物なんかはこの街でも人気だからね」

「そうなんですか」

「よし。もう大丈夫だよ。フィーロへようこそ。頑張って剣士になれよ!」

「はい。がんばります!」


 憲兵から身分証を受け取り、街の中へと入ることができた。

 街へ入ると、目の前には先に街の中へ入っていたフィレアさんが待ってくれていた。


「もう大丈夫?」

「はい! ここまでありがとうございました」

「お礼されるほどのことはしてない」

「そんなことありません。フィレアさんがいなければ今頃あそこでやられていましたから……」


 野盗に襲われたことを思い出しながら、懐に携えている剣にそっと触れる。


「これからどうするの?」

「そうですね。とりあえず新しい剣を手に入れないことには剣士になることはできませんから。まずは新しい剣を探すところからですかね……」

「なら、いい店知っているけど。行く?」

「い、いいんですか?」

「いい。あの人もきっと喜ぶ」

「じゃあ、よろしくお願いします」


 フィレアさんに対して、頭を深く下げてお礼を言う。

 フィレアさんが歩み始めたのに合わせるように後についていく。


「あの、ずっと気になっていたことがあるんですけど。聞いてもいいですか?」

「なに?」


 野盗を倒すフィレアさんの姿を見てからずっと感じていたこと。

 そして、腰につけた刀の意味を聞かずにはいられなかった。


「フィレアさんって剣士ですよね?」

「まぁ、そうだけど?」

「しかも、かなりすごい……」

「すごいかはわからない」

「大会で優勝したことって……」

「あるけど」

「それってどんな大会ですか!?」

「グラントリノで一回。グランターレで三回。グラントで一回」


 僕の質問に対し、フィレアさんはさらっと答えたがその内容は決して軽いものではなかった。

 剣士などを志した者の誰しもが憧れる大会。それがグラントリノの大会だ。そして、そのグラントリノに出るために毎年のように星の数ほどの剣士たちが切磋琢磨するがその大会に出られる剣士は、ものの数パーセントしかいない。

 そんな選ばれた最強の人たち中で勝ち進み、頂点に立つということは並大抵のことではない。なぜなら、その人たちは少なくとも下のクラスであるグランターレで優勝しているだけの強者なのだから。


 また、フィレアさんだからこそすごいことでもある。

 グラントリノというクラスに立てる人が数パーセント。さらに、その頂点に立つということは、そのわずかな人数の中のたった一人なのだ。

 剣士などの戦う者の生涯において一度でもグラントリノの舞台で勝てたら、とても名誉なことなのである。

 グラントリノの舞台で勝てば一気に世界に名が知れ渡る。その大会があった街だけでなく、別の街でもその名が知れ渡っているなんてことは珍しいことではない。それだけすごいことをフィレアさんは僕とほとんど変わらない年齢でやってのけているのだ。


「年齢って聞いても大丈夫ですか……?」

「別に構わない。歳は十九」

「じゅ、じゅうきゅう……」


 ちらりとフィレアさんの方へ視線を移す。

 黒く長い髪を風になびかせながら歩き、服装はとても軽く、金属でできた防具は見受けられない。また、隣を歩いているはずなのに足音はほとんど聞こえてこない。

 そして、一番目がいってしまうのはその容姿であろう。

 華奢なその佇まい。ただそれだけなら美人な女性で終わっていたのだろうが、その見た目でグラントリノの舞台で優勝しているのだ。

 人は見かけによらないとはまさにこのことだろう。

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