掌編(R18)

酒は飲んでも飲まれるな

R18BL | 寅彦×ユキ


 寅彦は混乱していた。一応自分は囚人という立場で、さらにここはそんな自分たちを収監しつつ更生させるための学校である。生徒はみんな未成年で、ここに入ってからは持ち物検査なども頻繁に行われていたし寅彦の大好きなゲームだって慎重に少しずつ揃えた。それなのに今目の前に広がっているこの惨状は何なのか。

 りんりん先輩に凭れてコップを握り締めるあっくん先輩に、そんなあっくん先輩の頭をぐいぐいと蹴りながらりんりん先輩の膝の上に座るチカ。そしてぐっすり眠り込んでいる莉音先輩の頭を膝に乗せたまことの腰にはユキちゃん先輩がしがみつき、狭い部屋の中には独特の匂いが充満していた。

 間違いない、これは酒の匂いだ。酒屋の息子である寅彦にとってそれは実家を思い起こさせる懐かしい匂いではあったが、それがどうしてこの部屋に広がっているのか。


「と、とら……ごめんね急に呼びつけて」

「それはいいんだけどこれ、何?どうなってんの?」

「その、莉音先輩が……」


 唯一素面であるまことによれば、事の発端はまことの膝枕で気持ちよさそうに寝息を立てている小さなマッドサイエンティストの思い付きらしかった。

 娯楽が少ないこの学校内で密造酒を流通させれば個人的な研究費用が稼げるのではないか。そんな閃きによって密造された酒はどぶろくから果実酒まで様々で、驚くべきことにその全ての材料は学食のメニューから調達されたという。そしてその効能を確かめるために選ばれたのがあっくん先輩とチカとユキちゃん先輩。

 元々あまり飲み慣れていなかった三人にとっかえひっかえ飲ませてみた結果あっという間に酔っ払いたちができあがり、つられて飲まされた莉音先輩は調整のための徹夜が響いてすぐに意識を手放した。しばらくすると中々戻ってこないあっくん先輩とチカ先輩を探しにりんりん先輩が現れあれよあれよという間に酔っ払い三人に捕まる。そして莉音先輩に頼まれていた薬を持ったまことが部屋を訪れた頃には、りんりん先輩は部屋に満ちた酒の匂いで酔ってしまってすっかりダウンしていたらしい。


「すまないな、二人とも」

「わ、もう大丈夫なんスか?」

「子津に薬をもらって大分楽にはなった。もう少し休んだら二人を部屋まで運ぶ」


 「兄ちゃんから離れろ!」「うるせえお前の兄ちゃんじゃねえだろ」と舌足らずな言い合いを続けるチカとあっくん先輩を収めようと身体を起こすりんりん先輩。チカがりんりん先輩に懐いているのは知っていたが、まさかあっくん先輩が張り合うとは。これはなかなか見られない光景なのかもしれない。りんりん先輩には災難でしかないんだけど。


「よろしくお願いします。流石にこれ見つかるとヤバいんでありがたいッス」

「とらには伊波先輩を任せていい? 僕この部屋掃除して莉音先輩なんとかするから」

「分かっ」

「いやあ! ユキはまこちゃんと一緒がいいの!」


そ の場に響いた聞きなれない声。確かにその声の主は「ユキ」と言ったし、声だってまことの腰にしがみついているピンク頭から聞こえて来た。しかしそれは寅彦の知っているユキの声よりもずっと低くて掠れた、そう、言うなれば実に「男らしい」声で。


「……ユキちゃん先輩?」

「なによう、寅彦? 邪魔しないでよう」

「……伊波先輩、酒焼けしたみたいで」

「伊波先輩じゃなくって名前で呼んでよう~~~ユキでもこの際幸介でもいいから~~~」

「あの、ユキちゃん先輩」

「寅彦じゃない! まこちゃんにお願いしてんの!」


 潤んだ瞳に上気した頬で上目遣いにキッと此方を睨み付けようとしている姿はどこからどう見ても酒に呑まれた女の子。それなのに一体どうしたことだろうか。この拭いきれないオカマバー感は。


「伊な……幸介兄さん、今日はもう遅いからとらと一緒に部屋に戻ってくれませんか?」

「まこちゃ……! わかった! まこちゃんのお願いならユキ戻るねえ! 行くよ寅彦!」

「ユキちゃん先輩大丈夫? 色んな意味で明日辛くなんない?」

「寅彦はやく! ユキあるけない! 抱っこして!」


 別にユキのことは嫌いではないし歩けないのならば運んで行こうと思っていたが、野太い声で「抱っこ!」と強請られると少しばかり複雑な気持ちになる。いや、声が高かろうが野太かろうがもユキちゃん先輩の性別は紛れも無い男なんだけど。


「じゃあねまこちゃん! またあしたねえ!」

「おやすみなさい、幸介兄さん。寅、ありがとう。よろしくね」

「ん。まことも適当に片付けて早めに休めよ」


 酒を飲むと本性が現れると言うが、自分の首にしがみついてまことに向かってヘラヘラ笑っているこの先輩は酔うとかなり面倒なタイプのようだ。


「とらひこ~~~」

「ちょっとユキちゃん先輩静かにして!」

「ふえ……とらひこ怒った……」

「怒ってないから、ね? ユキちゃん先輩、って、うわ!今鼻水拭いた!?」

「とらひこおこった~~~」


 この野郎ここに捨てていってやろうか。泣きべそをかきながら人の肩口で顔を拭くユキに、寅彦は一瞬そう思ってぐっと思いとどまる。まことに頼まれたんだ。この任務はちゃんと遂行しなくてはならない。しかし黙る様子のないこの先輩を担いで三階まで上がるのはリスクが高すぎる。夜間エレベーターを使えるのは専用のキーを持った教員たちだけ。確かそろそろ見回りの時間だ。静夜が部屋にいるか分からない今はここから近い俺の部屋に連れて行くのが一番安全か。

 寅彦は暗闇で盛大に溜め息を吐くと、もう一度ユキを抱え直して静かに二階へと続く階段を登りはじめた。




「あーーー重てえ」

「ユキ重たくないもん」

「ハイハイ、ほらユキちゃん先輩お水飲んで寝ましょ?」

「とらひこ開けて」


 冷蔵庫から取り出したペットボトルを手渡せば、手のかかる子供のような反応が返って来て寅彦は思わず苦笑する。仕方なくペットボトルのキャップを開けて手元に差し出してやれば、ユキはにへらと笑って美味しそうに水を飲んだ。


「ほら、消灯」


 運んだ上にベッドまで譲るのは納得がいかないが、明日の朝目覚めたときにユキを床で寝かせたことがバレたら確実に明日の寅彦の命はない。ベッドの上に寝転ぶユキに布団をかけてベッドサイドの明かりを消そうと立ち上がった寅彦は、突然強い力に腕を引かれてベッドの上へと倒れ込んだ。


「やだ」

「やだじゃなくて」


 暗闇でよく目が見えないが、どうやら自分は顔面からユキに突っ込んだらしい。


「いかないで」

「俺そこで寝るからどこにも行」

「とらひこ、置いてかないでえ」


 涙交じりの声でそう呟いて、挙句の果てにめそめそと泣き出してしまったユキ。誰かを泣かせている姿は何度も見てきたがユキが泣いているのを見るのは初めてで、寅彦は少し動揺しながら背中に腕を回してあやすように撫でた。


「寝るまでここにいるから、」


 そんな台詞を言い終わる前に、ぐるりと反転する寅彦の視界。暗闇に慣れてきた目に映るのは自分に馬乗りになってこちらを見下ろすユキの姿で、しばし呆然としたまま見つめあう。


「とらひこいっしょにねよ?」

「ちょ、ユキちゃん先輩!?」


 トロンとした目で寅彦を見つめながらスルスルと寅彦のネクタイを外すユキに焦って身体を起こそうとすると、その手はそのネクタイによって絡めとられてヘッドボードに括り付けられてしまう。さらに寅彦がなんとかネクタイを外そうともがいている間にユキは楽しそうに寅彦のベルトに手を掛け、躊躇することなくそれを外すとそのまま制服のズボンを脱がせ始めてしまった。


「ど、どこにも行かないから、ほら、これ外して早く寝ましょ?」

「とらひこはユキきらい?」

「いや、嫌いじゃないけどそういう問題じゃなくて」

「ユキはとらひこすきだよ?」


 ぞくり。さっきまでオカマバーのママにしか聞こえなかったはずの声は上手い具合に掠れ、その中に含まれた甘い響きに寅彦はごくりと唾を飲んだ。ユキはそのまま寅彦のズボンのチャックを咥えると、寅彦を見つめつつゆっくりとそれを下ろしていく。


「っ、」


 下着越しにかかるユキの熱い息と目の前の扇情的な光景に寅彦は下半身にじわじわと熱が集まるのを感じ小さく息を漏らした。ユキは数秒じっとその様子を眺めていたが、躊躇することなく下着の上から寅彦のソレを口に含んで舌で刺激し始める。その間にユキの腕はスルスルと寅彦のシャツの中へと忍び込み、脇腹から臀部にかけてを優しく撫で上げた。


「っちょ、マジ、」


 止まることの無いユキの動きにより確実に下着の中で大きさを増していくモノに焦りを覚えた寅彦が思わず身を捩ると、ユキは寅彦の下着に手を伸ばしそれを膝までずり下げた。そしてユキは一気に外気に晒された屹立を手に取ると愛おしそうにその裏筋をチロチロと舐め上げ先端を口に含んだ。


「ク、ソ……ッ、」

「とらひこ、きもちい?」


 苦しげな表情を浮かべながらも口の中いっぱいに寅彦のモノを咥えるユキは、伸びをする猫のように腰を高く上げて自身の下着を膝まで下ろし始める。そしてベトベトに濡れた手をユキ自身の後孔へ伸ばすとくちゅくちゅと音を立てながら自らの手で解し始めた。


「……ッ!」


 絶え間ない刺激と、いつも寅彦を見ると必ずと言っていいほど攻撃を仕掛けてきたりつらつらと文句を言ってくるあのユキが一生懸命寅彦のモノを咥えている目の前の光景に、寅彦の我慢はもう限界だった。


「……っ、げほっ」

「わ、ごめん、俺、」

「だいじょうぶ。ちょっとまって」


 無意識のうちに腰を動かしたことで喉の奥を強く突かれたユキがげほげほと咳き込む。その姿にハッと我に返った寅彦が慌てて謝ると、ユキは涙目のまま困ったような笑顔を浮かべた。


「とらひこ、あんまりいれられたことないでしょ?」

「え、挿れるって」

「だいじょうぶ、ユキがやるから」


 フラフラと膝立ちになったユキの下肢に目をやると短いスカートをの中でユキのモノがゆるゆると勃ちあがり始めているのが見える。やっぱりついているのか。何故か少し感慨深げな気持ちになったのも束の間、ユキが勃ちあがった寅彦の先端を自身の後孔に宛がいゆっくりと腰を下ろしてそんな余裕は吹き飛んだ。


「っ、中、狭っ」

「ッあ、とらひこ、うごいちゃだめ、」


 苦しそうに顔を歪めたユキに申し訳ないと思いながらも、壁が絡みついてくるようなユキの締め付けに寅彦の腰は自然と揺れる。そのまま寅彦が奥まで腰を穿つと、ユキは自身のスカートの裾をぎゅっと握り締めゆっくり腰を上下に動かし始めた。


「っ、やあ、とらひこ、」


 掠れた声が耳を擽り、背中をピンと反らして快感に耐えるユキの額を汗が伝う。


「んっ……ああっ、や、」


 吐息のような声を漏らしたユキが身体を震わせ倒れ込んでくるのと同時に、寅彦もユキの中へと精を放った。


「とらひこぉ」


 震える身体でユキが寅彦のモノを引き抜くと、ドロリとした熱い精がユキの太腿を伝って流れ出てくる。それは寅彦の腹部に放たれたユキのものと混ざりあい、汗と混ざって独特の香りを辺りに漂わせた。


「ユキちゃん先輩、」

「とらひこおやすみ」


 バタン。死んだように眠るというのはまさにこういうことなんだろう。寅彦の身体の上に抱き付くように倒れたユキは、次の瞬間にはスースーと寝息を立てて深い眠りについた。後に残された寅彦は、痺れはじめた腕と肌を刺激するユキの吐息に再び集まり始める熱を抱えたまま、もう二度と酔っ払いの世話なんてするもんかと心に誓った。























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