12:ハプニング! 白猫からの強制召喚!

 突然とつぜん、私たち五人のコントローラーが同時に振動しんどうし始めた。


「えっ、なに」

「お知らせじゃね?」

「あっそうかも」


 プレイヤー全員に送られたものだろうか。私はうで時計の横のボタンをして、『!』がついたお知らせのらんを見た。私たちはその送り主に目を疑う。


「何でコートから?」

「コートってだれやっけ?」

「ラックスだよ。白猫しろねこの」

「そうやった」


 律歌りっかがコートのことを忘れていたのはさておき、コート名義で知らせてきたということは、状況じょうきょうが進んだということだろう。


『キミたちに直接伝えたいことがあって、このメールを書いているよ。このメールを開いた一分後に、キミたちをこちらに召喚しょうかんする』


 ……とのこと。


「い、一分後! あと何秒?」

「……あと四十秒くらい」

「断りもなく、一方的にこういうのが来るんだね」

「ホント、今日弦斗げんとん家でよかったわ」


 あわてているのは私だけで、あとの四人は「はいはい」というようになぜか落ち着いている。


「もうそろそろか」


 かべにかかる時計の秒針を見ていた志音しおんが告げる。


「さぁて、どうなったんやか」

「「ねー」」


 私と琴音ことねがうなずくと、Aボタンの『決定』をした時の音が流れ、私たちの体が飛ばされた。






 今日もどこかのうす暗い部屋の中だった。だが、コートことラックスの装いは前回とはちがかった。フード付きの黒いコートで全身、あしまでもおおいつくし、しっぽは黒くなっている。


「急に呼び出してごめんね。どうやら五人とも集まっていたようだから」

「いきなりすぎて、おとがびっくりしてたわ」


 律歌に親指で指され、ちょっと照れる私。

 早速本題を切り出してみる。


「私たちを呼び出したってことは、状況が進んだっていうことだよね?」

「そう、もちろん」


 コートは自信ありげにフンッと鼻を鳴らす。


「まず何から話そうか。じゃあみんなに前提として覚えておいてほしいことがある。この間のような犯人は、一人でああいうことをしてるんじゃなくて、だれかに命令されてしていたんだ」


 誰かに命令されて……悪い人たちに言われて、この前のようなことを……。


「その『誰か』っていうのは、どういう人なん?」

「まだ分かってないことも多いけど、命令しているのは複数人で、ブラックリストみたいなものから選んで事件を起こさせるようだね」


 ブラックリストからっていうことは、そこに入っている人たちはみんな『やばい人』ってことだよね。


「……そのブラックリストって、どういう人が入ってるの。何か基準があるはずだけど」


 やはり弦斗は的確な質問をしてくれる。犯人の特徴とくちょうにもつながる話だ。


「ボクがぬすみ聞きした限りだと、心がねじ曲がったアバターがリスト入りするらしい。指示する人には、どうやらアバターから出る『負のオーラ』が見えるんだって。それで判断してる」

「……負のオーラが見えるのか」


 近未来な雰囲気ふんいきの『オルビス』の世界に似合わない、スピリチュアルな言葉が出てきた。


「そしてリストから選ばれたアバターは、その人たちに呼び出されて、お金をもらうのを条件に事件を起こしている」


 お金……お金もらえるならやろうっていう人、いるよね。お金に目がくらんで、悪いことをしちゃう人。


「ということは、犯人には負のオーラがあるんだね。私たちにも見えるものなの?」

「それが見えないんだ。指示する人たちは何か道具を使って見るそうなんだ」


 それなら『オーラを見る機械』として、この雰囲気に合ってるかも。いや、それどころじゃない。


「何で指示する人たちは、自分で事件を起こすんじゃなくて、代わりに起こしてもらってるのかなぁ」


 それは確かに。こっちゃん、いい質問。


「うーん、ボクの推測に過ぎないけど、自分の手をよごさずにしたいんじゃないかな。事件を起こして自分がつかまったら消されるかもしれない。でも代わりにしてもらえれば消されずに済む」


 そっか……ていうか、そもそも何で事件起こしてるんだろ?


「ねぇ、何で事件を起こしてるのかな」

「あぁ、そもそもな」


 私には理解できない。一人でやってるなら「誰かを殺してみたかった」っていう理由は通るけど。


「それがものすごくおそろしいことなんだ……」


 コートが目をせて身震みぶるいする。そこまでのものかと私たちは身構えた。


「指示する人たちは、そういうブラックリストの中から、自分たちの理想に合うプレイヤーを探しているらしい。理想っていうのは……『欲望のままに動き、欲望がぶつかり合い、その争いに勝ったアバターが治める世界』なんだ」


 ……えぇっと、ちょっと待って。言葉が難しい。


「……わがままなヤツが、わがままなヤツ同士で戦って、勝った最強のわがままなヤツが、オルビスの王様になるってことか」


 弦斗くん、めっちゃ分かりやすい! ということは。


「わがままな人でオルビスの世界があふれ返るってこと?」

「そういうこと。あいつらは『最強のわがままな人が世界を支配すれば、世界は最強のわがままな人のために動くので、うまくいく』と言っているんだ」


 うわぁ……コートの前置きのおかげで大丈夫だいじょうぶだったけど、明らかに『やばい』ことしか言ってないよ。目まいがする。


「そしてあいつらは、最強のわがままな人を育てた恩恵おんけいとして、うまく立ち回ろうとしているんだ」


 自分たちはひいきしてもらえばいいんだ……。さっきから頭の中に『やばい』しかかばない。


「ちょっと、コート。何でそれをオルビスの人にたのまんの? 何でうちらみたいな子供に頼むん? こんだけたくさんプレイヤーがいるなら、誰かコートの考えに賛成してくれる人もおるよ」


 正論を言われたコートはしばらくだまりこんでしまった。ただ、言い訳を考えているようではない。


「確かに賛成してくれて、一緒いっしょに動いてくれた人もいたんだ。でもいざ事件が起きると、その人はげてしまったんだ。だから、ボクはオルビスの人に頼み事ができなくなった」


 これは遠回しに「事件が起きても逃げないで、ちゃんと戦ってほしい」って言われてる?


「だから、オルビスの人じゃない、現実世界の人間に頼んだわけか。約束したのにそれを破るのはダメやなぁ」

「もし指示する人たちを放っておいたら、オルビスで遊べなくなりそうだし」


 志音はあくまで自分の利益のためらしい。ただ、コートとの利害は一致いっちしている。


「そういう理由でもいいよ。だから、ボクと一緒にオルビスを救ってほしい」


 私たちがコートの言葉に満場一致したところで、コートはそでをまくって、かくれていた腕時計を出した。


「みんなのところにもデータを送るね。ボクたち五人と一ぴきのスペシャルスキンだよ」


 ブーッと腕時計が振動し、『プレイヤーネーム:Coat からプレゼントを受け取りました!』と、腕時計の液晶えきしょう画面に表示された。


「さっそく着えてみて」


 催促さいそくされたので、横のボタンを押して半透明とうめいのパネルを展開する。『プレイヤー』、『スキン』とアイコンを押していき、『NEW』のマークがついたものを見つけた。


「これか!」


 着がえてみた。

 全身をぴっちりと包む白いタイツを着たと思いきや、ふんだんにレースがあしらわれたピンクのベストや、いピンクのかぼちゃパンツ、ひざ下たけの赤いブーツ、赤い手袋と、どんどん装飾そうしょくが増えていく。


 最後に、背中に武器らしきものを背負った。やはりオルビスの世界なのでじゅう……と言いたいところだが、何か違う。


 取り出してみると、銃とサックスがミックスされたようなものだったのだ。意味が分からないかもしれないが、そう言うしかない。


「めっちゃかわいいスキンだけど……何これ?」

「思ってたよりも、かなり個性的なものができあがったな」


 と、コート。


 志音は大きなえりのマントが目立つ、緑を基調としたスーツのようなもの。

 琴音は私と同じような格好で、黄色やオレンジが基調となっているが、大きく広がるスカートが目を引く。

 弦斗も志音と色違いのマントとスーツで、むらさきがテーマになっている。

 律歌はかたからかかるやわらかい生地の青いマントと、私と琴音と色違いのベストに、ショートパンツとショートブーツ。私より白いタイツの面積が多い。


「これはみんなの好みが反映される、ボクたちの特別なスキンだ。武器はみんなの特技が反映されたものなんだが……」


 私のはどう見てもサックスだ。特技がサックスだと認識されたらしい。

 志音のはこしのベルトにハンドガンが二丁ついている。


「すげぇ、連結するとサックスになる!」


 ……らしい、って、連結できるの! すごっ!


「……ぼくのはベースかな?」


 ギターのような形をしているが、本人によるとげんが四本なので、これは銃型のエレキベースらしい。


「私のはないの?」

「うちのもないわ」


 自分の体の周りをキョロキョロ見回すが、どこにも銃らしきものはついていない。


「二人は『そういうタイプ』か。じゃあ腕時計のボタンを押してみて」


 琴音と律歌は言われるがままに、腕を構えてボタンを押した。

 なんと、琴音の周りに、光るピアノの鍵盤けんばんが現れたのだ。律歌にも、周りを囲むようにドラムセットが現れ、浮かんでいる。おまけにドラムをたたくスティックもついていた。


「なんやこれ! 出てくるタイプか!」

「すごい! 銃じゃなくてこういうのもいいね」


 二人とも気に入ったようだ。


「武器が出てきたところで分かってると思うけど、キミたち、いや、ボクたちはこの前のような事件の現場に出くわしたら、犯人とこれで戦わなければならない」


 コートの顔が険しくなり、私たちも真剣しんけんに聞く。


「ただ、犯人の体はなるべく傷つけちゃいけない」

「何で?」

「そこで傷つけたり消してしまったら、犯人を反省させられないからね」


 そうそう、コートの目的の一つでもあるしね。


「この武器を使うのは、犯人から負のオーラを引きはなしてから。負のオーラを離すと、それが怪物かいぶつの姿になるらしい」

「うわぁ……負のオーラが怪物になるとか気色悪い」


 あからさまに志音がいやそうな顔をする。でも、今になっては断ることもできないでしょうが。


「犯人から負のオーラを引き離すにはどうしたらいいの?」


 そして肝心かんじんの、犯人を傷つけずにする方法を琴音が聞いた。


「それが……誰も負のオーラを引き離したことがなくて、分からないんだ」

「じゃあ、引き離すと怪物になるっていうのは?」

「なるらしいって、あいつらが言っていただけ」


 またまた私たちはズッこける。そこ重要でしょ!


「負のオーラはプレイヤーの心の中から生まれている。だから……心をうばえば……たぶん」

「たぶんって!」

「コート、そこ聞かんことには、うちら何もできへんよ」

「次呼ぶ時には、ちゃんと調べてくるから……」


 果たして、表では案内猫という仕事をしておきながら、この猫は本当に大丈夫なのだろうか。

 私はため息をつき、やれやれと何もない天井を見上げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る