13:クエスト3 完了

 現実世界にもどってきた私たちは、まずだれも私たち以外に弦斗げんとの家にいないことを確認してから、同時にため息をついた。


「あのねこたよりになるんだかならないんだか」

「……少なくとも、五割は頼りにならない」

律歌りっかとか弦斗くんが、結構するどい質問するからね。うろたえてたよ」

「前回もそうだけど、そこ重要なところだから! って思うわ」


 コートに半分失望しているみんなを元気づけようと、私はスペシャルスキンのことを話してみる。


「コートのことはしょうがないにして、もらったスキン、めっちゃよかったよね!」

「それな! おとと琴音ことねはかわいいし、男子二人はかっこいいし」


 律歌が乗ってくれたので、うまく気をらすことができたようだ。


「律歌のはかっこかわいい感じだったよね」

「そうやな。うち、おととか琴音のような、あそこまでかわいいのは求めてないんよ。ほら、いつものスキンもそうでしょ」


 確かに、私のようなかわいさ優先ではなく、スポッティーな印象だ。ラフではあるが、初期スキンのような安っぽいものではない。


「今のその格好もそうだよね。えっと、男子二人はただの色ちがい?」


 周りが暗かったので、そこまで差があるようには見えなかった。


「まぁ、マントはおんなじやつだと思うけど、中に着てるやつは色が全然違かった」

「そうなんだ!」


 マントの主張が強くて、中まで目がいかなかったんだよね。


「弦斗のやつは、マントはむらさきだったけど、中に着てるスーツはほとんど黒だったな」

「……そう、大体黒」

おれのはマントも緑で、スーツの上が緑で、ズボンが白。全然違うだろ?」

「それじゃあ全然違うね」

くつも違うな。俺は短いブーツで、弦斗が長いブーツ。どっちも黒」


 志音しおんって、あんまり細かいところまで見るような性格ではなかったはずだけど。まぁいいや。


「……ぼくはあの格好気に入った」

「俺も、アバターが大人のやつであの格好だから、ちょっと大人になった気分だな」


 男子二人も気に入っているようだ。


「私のはいてたズボンは、かぼちゃパンツっていうやつかな?」

「そうだと思うよ。あれ、ふんわりしててかわいいよね」


 あんなのはいたことなかったから、思わずさわっちゃったよ。なんか、高級そうな肌触はだざわりだった。


「でも私はズボンよりスカートの方が好きだから、私はスカートでよかったよ」

「体育の時以外、ズボン履かないもんね」


 くせっ毛のこっちゃんには、ズボンもいいけどスカートがお似合いだよねーと思っていた。


「……あっ、母さんから、みんなにおやつも出してって言われてたんだった」

「あっ、私も弦斗くんに出すの忘れてた」


 おかげで思い出した私は、二種類の味のしっとりクッキーが二十個入っている大袋を取り出した。


「それ、私大好き! バニラの方食べていい?」

「うん、今開けるから」


 袋をつまんで思いっきり力をこめて開け、琴音にバニラ味の方をわたした。私はココア味の方が好きである。

 弦斗はポテトチップスを持ってきた。リビングはお菓子かしにおいに包まれる。


 律歌も琴音も持ち寄ったお菓子の袋を開ける。五人ではあっという間にお菓子がなくなりそうだが、お菓子パーティーが始まった。






 このあと、コートからまたメールが届いた。


『せっかく結成したから、ボクたちのグループの名前を決めたいんだ。あと、ボクはあくまでも補佐だから、誰がリーダーなのかも決めたい。五人で話し合って、リーダーの人がボクに返信してほしい』


 という内容だった。


「これはやっぱりねー」

「「「GROSKだよね」」」

「……それだな」


 はい、全員の賛成でそく決定。


「リーダーは、やっぱり……」

音葉おとは」「音葉ちゃん」「おとでしょ」

「……同じでいいよ」


 と、これもすぐに決まってしまった。これも私がリーダーかぁ。


「戦い方は弦斗くんの方が分かってそうだけど」


 少しでも弦斗の方に、流れを持っていこうとするが、


「……ボクはそんなに運動はできないから。ゲームとベースしかできない」


 と言われて、やんわり断られてしまった。


「なに弦斗に任せようとしてるん? おとは運動神経もいいんでしょ」

「まぁまぁね。この前言ったけど、体力テストでAかBかのどっちかだけど」

「じゃあおとが適任やな」


 うぐぅ、やっぱりムリかぁ。


「じゃあ、私がコートに返信しておくよ」


 もがくのはあきらめ、私はメールの一番下の『↪︎返信』の文字をした。






 夕方のチャイムが鳴る十分前。

 ゲームの中でもグループを組んだことにより、律歌からの提案で、ゲーム内の名前を統一しようという話になった。


「弦斗くんのBeatビートっていう名前いいよね。私もそういう名前にしてみようかな」


 私たちはニュー・オルビスシティーのシティーホールで、プレイヤー名の変更へんこうをしている。

 これに関係ない弦斗は、ソロプレイのオンラインマッチをして、ひまつぶしをしている。いかにも弦斗らしい。


「そうやなぁ、うちは……『リズム』にしようか。ドラム叩いて、リズムを作るっていうことで。リズムって英語でどう書くん?」


 律歌はサッと決めて、スマホで調べ始めてしまった。


「私は『ハーモニー』にしようかな。楽器一つで同時にたくさんの和音を出せるし」


 琴音もすぐに決めて、スマホを取り出す。

 えっ、二人とも早くない⁉︎


「何にしようかな」


 リーダーになったし、バンドのGROSKの方は私がメロディーだし。


「じゃあ、私は『メロディー』にする。律歌、代わりに私のも調べてくれる?」

「オッケー。メロディーは……M-e-l-o-d-y」

「M-e-l-o-d-y、ありがとう!」


 よしよし、私は無事に決まった。こういう、他の人はサッと決めちゃって待たせてる時って、いつもだったらなかなか決められないけど。今日はできてよかった!


「志音はどうする?」

「誰か音楽用語詳しい人、対旋律たいせんりつって『オブリガート』で合ってるか?」

「何でそんな難しそうなやつを」

「だってそれしかなくね? よくあるやつは他の四人に取られちまったしよ」


 あぁ……確かにそうだ。メロディー、ハーモニー、ビート、リズムと来ているので、もうないに等しい。

 誰も知らなさそうだったので、律歌が調べてくれた。


「志音、合っとるよ。オブリガートを英語にすると、O-b-b-l-i-g-a-t-oや」

「これにする。というか、これしか思いつかなかった」


 志音も名前の変更が終わると、ソロプレイをしている弦斗に声をかけた。


「弦斗、みんな終わったから、シティーホールの前に集合」

「……うん。あともう一人を倒してから……あっ、終わった」


 私たちはシティーホールを出て、弦斗――ビートが来るのを待つ。


「……おぉ、なかなか見慣れないな」


 プレイヤーの頭の上に表示されている名前、全てが英語になっている。

 MelodyメロディーObbligatoオブリガートHarmonyハーモニーBeatビートRhythmリズム。ここまで統一されているのは確かに見慣れない。


「すぐに慣れるだろ、これからコートのお願いに応えなくちゃならねんだから」


 二、三日すれば大丈夫だよね。

 すると、キリの良いところで夕方のチャイムが鳴り始めた。


「今日はここまでかー」

「じゃあまた来週〜」


 次みんなが会う時は、おそらく水曜日のレッスンだろう。

 私はスイッチをしまい、「おじゃましました」と言って弦斗の家を後にした。

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