七十一話 世界の在り方
海で遊んだり、浩介から江利香の自己領域が妖精の楽園になってると知らされて大はしゃぎしながらも15ヶ所のポータルゲート予定地を回り終わった。
アメリカ・ロシア・中国・ヨーロッパ・アフリカ・インド・オーストラリア・北米・南米と世界中を飛び回って疲れた。
とりあえず遠隔地同士をポータルで繋げて物流を促進させるのと、経済的に強い先進国や重要な資源がある国や人口が多い国にポータルゲートを設置するらしい。戦争中の中東や麻薬カルテルによって内紛状態になってるメキシコ、経済的に破綻して政情不安定になってるベネゼエラと危険な国も多いんでポータルゲート設置国は慎重に選ばなくちゃならないが。ベネゼエラに関しちゃ国際情勢に巻き込まれた面もあるからちょっと可哀想だけどな。
石油産出国なんかの資源大国は工夫しないでも貿易で巨額の金が手に入るから工業化や産業育成せず逆に経済成長しなかったりする。これを資源の呪いって言うんだが重要な資源がある国がピンポイントで駄目になりやすいんで国際的に影響を受けてしまったりするんだ。日本でもオイルショックでトイレットペーパーの買い占めとか起こってたしな。それが原因で戦後高度経済成長が終わったりしてるし。
まあオイルショックはアラブ諸国の中東戦争に関与してくる先進国に対する意図的な攻撃、石油戦略なんで微妙に事情が違うか。
二度のオイルショックの結果、省エネ化と生産コストの高いアラスカや北海油田が開発されたりサウジアラビアが石油価格の調整役の役割を放棄して増産を開始したりして原油価格は暴落してる。これがベネゼエラの経済破綻の遠因だったりするのだ。
俺のポータルゲートも石油レベルの大きな影響力を世界経済に与えるだろうし、場合によっちゃ戦争の侵攻ルートにされかねない。気を付けないと。
ヨーロッパとかあんなに近いのにイギリス・フランス・ドイツと三つもポータルゲートを設置する羽目になったしな。政治的に設置するしかなかったみたいだが。
フリーメイソンやブルーブラッドも国家を完全に無碍(むげ)にすることは出来ない。そもそもの支配構造が国家を裏から支配するって形なんだ。余程の理由がない限り国に喧嘩を売ったりはしない。場合によっちゃ暗殺合戦が起こるしな。イルミナティが根切りにされた事を忘れちゃいないだろう。
「国家に気を遣った面もありますがフリーメイソンの内部派閥的にもヨーロッパの国々は無碍に出来ないんですよ」
「ああ、国による派閥の違いとかあるんだ」
「国家というより歴史的、いえ宗教的な断絶がありまして」
簡単に言えば至高存在を崇める義務があるかないかでフリーメイソンの組織は真っ二つに大きく割れてるらしい。
どんな宗教でも良いのでフリーメイソンの会員になるには信仰が必要だってのがイギリス系メイソン。そんな義務は必要ないってのがフランス系メイソン。
1877年に公式の関係を断絶してから今に到るまでずっと争い続けているんだとか。
これ単なる宗教闘争じゃねえな。神々の実在に関する何かがあっただろ。俺の直感をえらく刺激する。
いや、これが啓示って奴か。
「ユカリの派閥はどっちに付いてる」
「そこまで深刻な顔をされるほど重要な話なのですね。私はイギリス系です。フリーメイソン内ではそちらの方が主流なので在籍してるだけで信仰心はそれほどありませんが。これからお会いになるブルーブラッドの方もイギリス系ですが問題となりますか?」
「正直わからん。俺はオーディンの使徒みたいなもんだしな」
一般的日本人のように神々を信じていないから無宗教だってのと、神の実在を知ってて尚も無宗教でいるってのは意味が大きく違う。
信仰は現神の力となるからな。それを禁じはしないまでも必要ないと断じるって事は潜在的な敵だと見てるって事かもしれん。
それならイギリス系の方が安心できるはずだが、何の宗教でも良いってのがな。何処に地雷があるか分からない。
会ってみなくちゃ判断できんとユカリに案内されてイギリスの郊外にある秘密の会合場所へと乗り込んだ。ミサキとタラコ唇さんは同席していない。
何でもユカリさえ案内し終わったら室外で待機するんだとか。部屋に入室するまで黒服のSPと思われる男達と会ったんだが彼らも部屋から追い出されたらしい。
こりゃいよいよヤバいぞ。フリーメイソン内にすら知られたくない話をするって事だ。
「失礼します」
覚悟を決めて部屋をノックして入室する。お偉いさんの前に出る時ってのは何でこんなに嫌な気分になるんだか。
「やあ、よくおいでなさった。戦死者を選ぶ乙女よ。お会い出来て光栄の至り」
中には白髪の老人が澄んだ眼差しで椅子に腰掛けていた。この人がブルーブラッド、現代の貴族か。
普通の好々爺に見えるな。秘密結社の幹部にもフィクションによく登場する欲深い貴族にも見えない。
「こちらこそ、世界の支配者の一人に会えて光栄ですよ」
「なぁに。単なる金持ちの老人に過ぎんよ」
「そりゃ嘘だ」
直感の囁くままに思わず声を上げてしまった。ほうっと興味深そうにこちらを見る老人に俺は続きの言葉を言った。
「何だその目は」
普通の青い瞳だ。透き通った綺麗な色をした人間のような眼球。
そこに異常性を感じているのは俺くらいなんだろうな。何かを誤魔化している。
「やれやれ。ここまで筒抜けでは隠し事は最初から無理でしたな。人払いをしておいて良かった」
老人の目が、青い瞳が人でない者の目へと変質していく。
黒い瞳孔は縦に細長く虹彩(こうさい)は白目を覆うほどに大きくなり黄金色へ変色する。まるで爬虫類のような目だな。
いやそうか、爬虫類なんだ。聞いたことがある。
「噂は本当だったのか。古代より人類を支配しているというヒト型爬虫類、レプティリアン。宇宙人の末裔」
陰謀論の一つ。地球は宇宙人によって支配されているという……いや、違う。
そうじゃない。直感が否定する。彼は宇宙人ではない。
「違う。宇宙人ではない。人間。神の奉仕者。蛇人間。邪神イグの崇拝者か!」
クトゥルフ神話に登場する異星から訪れた蛇の神、イグ。
イグの子供があらゆる蛇の祖先や蛇人間の先祖になったとクトゥルフ神話では語られている、比較的に温厚な邪神だ。
直感、いや啓示によって宇宙人が祖先であることは否定されているから、オーディンと同じく邪神コスプレをした神が背後に居るものと思われる。
「よりにもよって私を邪神の奉仕者と語りますか。否定はしませんが貴女は少し思い違いをしている」
蛇の目をした老人はにこやかに語る。
「クトゥルフ神話になぞらえて表現するのならば、こう言うべきですな」
恐るべき真実を。
「地球人類は邪神イグの奉仕種族であると」
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