四十五話 面接という名の罰ゲーム
「は、初めまして。姫様の配信は毎回見てます!」
「おお。ありがとね」
「いえ! お姉ちゃんとしては当然のことです!」
「あ、そっちの立ち位置なんだ」
ワンダーランド所属Vtuber募集の面接会場での話である。
書類選考を突破してこうしてたまに面接まで進む人もいるんだが、リスナーから募集してるだけにアリス姫や他の配信者のファンなことが多い。
いやむしろ、一目でいいから生のVtuberが見たくて応募してきてる節がある。うーん、本当はVの素顔とか晒さない方が良いのかもしれないな。そういう配信の仕方をしてる人はいるし面白いんだけど、俺達の芸風じゃないんだよな。
かといって人事担当の面接官を雇える程の余裕は俺達にはないし、こうしてVtuberと裏方の一部が頑張るしかない。
すると声で誰なのか丸わかりなわけで。
面接なんだから余計な質問をするなと突っぱねる訳にもいかない。合格したら同僚になるわけだし、不合格になったらリスナーに戻るわけなんだから心証を悪くして良いことなんか一つもない。
むしろ何故、世の面接はあんなに圧迫面接が多いんだろうか。普段はやり過ぎなくらいにお客様第一を掲げているのに従業員候補なんて大事な相手にする態度じゃないと思うんだが。不合格にしても就活生は顧客に戻るんだから心証を損ねると自社のイメージがダウンするよな?
実際にやってみて分かったんだが、面接は日取りを決めてマンションでやるわけにもいかないから貸しビルの一室を借りてと、手間と金が掛かる。
そこまで労力を割いて自社のイメージダウンに繋がるような圧迫面接をやるとか一利もないと思うんだけど……。
「3番。佐藤江利香(さとうえりか)、入ります」
「はい、どうぞ……あっ」
余計な思考が混ざりながらも真剣に面接をしていると何処かで見た顔が現れた。
向こうも驚愕した顔をしている。
「え、魔女……さん?」
浩介の妹だ。この娘には大学のサークル仲間だと説明してたんだっけな。どうするべ。
「ねえ、今どんな気持ち? 俺を本物の魔女だと信じて魔術書まで購入してたのに只のホラ話だって知らされて、どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ちなの?」
「アンタって人わァァーっ!!」
嘘を吐いて誤魔化すには妹さんは賢すぎたので全面的に真実を話すことにした。
後、チート所持者は嘘だろうと指導することで他者の魂を覚醒させることが出来るので、妹さんの自分だけの現実を粉微塵にする為に煽ったけど、これは一種のコラテラルダメージだ。ウィッチという言葉の印象が悪すぎてウィッカと改名して現代に復活した欧州古代の多神教的信仰ならともかく、キリスト教的概念のガチ悪魔崇拝者とか生み出すわけにはいかないし、仕方ない仕方ない。俺も断腸の思いだった。
ちょっと楽しかったのは否定しないが。
まあ案の定、拗れたので後々の事になるがチートを渡す約束をしたのとワンダーランドのVtuberに採用することを条件に許して貰った。
怒声を聞いたのかドアの外にいた次の面接者が凄いオドオドと道を譲ったのを見て妹さんも冷静になったようだし、良かった。
結果論だが、妹さんも念願のVtuberになれた上にチートが貰えてハッピー、俺達も期待の新人Vtuberが加入した上にエインヘリヤル候補が増えてハッピーとウィンウィンだったんじゃないだろうか。
本人が納得するかはともかく。
ちなみに妹さんが俺のリスナーだったのとVtuberになりたかったのは兄の件とは一切関係がない。完全に偶然だ。逆にすげぇ。
しっかし、リスナーに広く募集したのにも関わらず身内ばっかり採用していってる気がするな。ピンと来た人間を採用しているだけなんだけど。
縁故採用みたいで妙な気分だが、江利香と浩介の絡みは絶対に面白くなると思うんだよ。
でもな、もう一人の新人Vtuberとして採用したサキュバスのミサキも前々から繋がりがあったしな。こっちも身内枠みたいなもんだ。
新しい風が一人は欲しいんだが。
「5番、穂村雫(ほむらしずく)です。元はリリエットで茜ヨモギという名で活動をしていました」
目力の強いその女性を見た時、これは!という期待感とこれは?という不安感が同時に押し寄せてきた。
カンは鋭い方なんだよな。
風俗店でサキュバスを増やしたのも最終的にはプラスになってるし、直感は大事にしてるんだが。
理性で考えるとワンダーランドは俺も含めてVtuberとしての経歴が浅い。ここで一人くらいはベテランを入れた方が上手くいくんじゃないかって思う。
だけど。
「最初に聞いておきたいのですが、ワンダーランドでのVtuberの給料はどうなっているのでしょうか。収益化前は小遣いのようなものと配信で仰っていましたが、その後は? スパチャの手取り割合は幾らほどで?」
君、まだ採用するって言ってないから。そこら辺の繊細な話を根掘り葉掘り聞くのは止めて。
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