四十四話 絶対命令権
念の為にアイドルマインドとエインヘリヤルの絶対命令権の仕様を調査することになった。
歌唱トレーナーが来るまでの暇つぶしも兼ねてな。そんな長時間、検証できないけど。
それでも出るわ出るわ把握してなかったチートの詳細情報と落とし穴。
まずエインヘリヤルの絶対命令権からいこう。
こちらは命令対象はエインヘリヤル限定だが本人に命令の拒否権はなく可能な事ならば即座に実行しなければならない。何らかのエネルギー消費もないな。
また空を飛べなんて実行不可能な事は無理だが、一時的にリンクを解除した浩介に全力疾走しろと命じると普通に走るよりも明らかに早くランニングしたことから脳のリミッターを解除した疑いがある。
ゲームで例えると命令による能力バフが掛かってる感じだ。有用な情報だな。
落とし穴は絶対命令権に時間制限があること。
何と現状では5分間しか命令が有効じゃないのだ。絶対命令権を何度も使用してる内に6分に伸びたので成長はするようだが。
長期的な命令は無理とか暗殺してくださいと言ってるようなものだ。調子に乗らなくて良かった。
次にアイドルマインドによる絶対命令権。
こちらは命令対象は選ばず誰にでも行使可能だが、意思で命令に抗うことが出来るしアイドル力の消費が必須だ。
でも、被験者になった浩介によると命令を遂行することが凄まじく魅力的に思えてしまうらしい。しかもアイドル力を消費するほど命令の強制力は上がるし、一度に多人数に命令することも長期間の命令をすることも容易いのだという。
流石は政治家とアイドルの覚醒するチート能力だ。
何というか、エインヘリヤルは上司に命令されて従う他にないって感じの命令で、アイドルマインドは洗脳されて自ら進んで実行する感じの命令だな。
使いようによってはアイドルマインドの絶対命令権は命令されたのだと気付くことすら出来ないあたり、マジで洗脳っぽい。
むしろ強制的に命令するんじゃなくて洗脳して信者にするのが正規の使用法なんじゃないだろうか。
「アイドルマインドってリアルに薄い本で登場しそうな能力だな……」
「エインヘリヤルの命令も相当だったですけどね。抗いようがない命令とか肉体だけを支配して奉仕させるエロ本まんまじゃないっすか」
「ちょっと、モロホシさんだっているんだから自重しなさいって。あの顔見なさいよ」
生真面目な陽子の指摘にモロホシを見ると頬が羞恥で仄かに赤くなっている。マジか。このくらいの猥談も駄目なの?
そりゃ中学生から世俗と切り離された生活をしてるんだから箱入り娘みたいなものだろうけど、パソコンは使ってたろうに。ネットサーフィンしてりゃむしろ耳年増になりそうなもんだが。
「い、いえ。パソコン越しに文字で色々と言われるのは平気なんですけど、生身の人のそういう話は……。あの、私、タラコ唇様の顔も知っているので、その」
モジモジと狼狽えるモロホシを見て察した。これはあれだな。俺とタラコ唇さんのエッチシーンを想像したな。
確かにヤってるけど、別に命令して強制とかしてないからな?
いやプレイなら……。
「姫様、美少女がしちゃいけない顔をしてますよ」
「うわぁ、身の危険を感じるんだけど。死後の魂、預けるの早まったかな」
うるせえな。色ボケ扱いすんじゃない。
これでも人間関係には死ぬほど気を遣ってるんだぞ。生前はそれで地獄を見たから。
「あ、すいません。皆さんお集まりのとこ悪いっすけど、歌唱トレーナーは来ませんよ」
ガチャっと歌教室のドアを開けてポン太が顔を出す。
何故、ポン太がいるかというと引き出し屋の件が終わってからマネージャーとして雇ったからだ。こいつも実はフリーターで金に困っていたんだとか。
それを聞いて弘文が凄まじく葛藤した顔をしていたが今のところ仕事を辞めてはいない。まあ、限界が来たら弘文も雇ってやろうか。ノイローゼになりそうな職場の苦痛は俺にもよく分かる。
「何か予定変更の知らせでもあったのか?」
「いやー、実はレッスン予約を忘れちゃってて」
「お前のせいかよ!」
時々こういうポンコツ振りを発揮するので皆、ポンコツのポン太として覚えて本名は誰にも呼ばれない。
まあ藤原史郎(ふじわらしろう)って名前は何か立派すぎて呼ぶ気になれないって感情は理解できる。
「ええー、私なんてバイトを休んでまでレッスン入れたのにぃ」
「でもレッスン費用は姫様のポケットマネーからですよね?」
「ガチで感謝してます!」
「あの、どうして事務所はレッスンの面倒を見てくれないんですか? アイドル事務所って普通は……」
「お願いだから聞かないで。私は六年も芽が出ないままくすぶってるんだ。察して」
「ああ、そうなんですね……」
何やら世知辛い話をしてるようだが、モロホシ、その憐憫の表情は止めてやれ。余計、哀しい気持ちになるだろうから。
何処の業界も底辺には厳しい。もうちょっと、どうにかならんものかね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます