幕間 警視庁本部より
日本国東京都警視庁。世界の経済大国第3位に君臨する日本の首都の治安を維持する組織である。
1千万を超える人口を擁する大型都市を守護するということは一つの国の守護を担うということに等しい。
諸事情により軍隊を持てないこの国で、常に監視され容易くは動かせない自衛隊の代わりに動かすことの出来る国家の懐刀だ。
凶悪犯に最初に対峙するのは彼らであり実際に年間10人の殉職者を出し続けている。
陳腐な物言いになってしまうが職業として確立された正義の味方と言い換えてもいいのではないだろうか。
だが、警察はあくまで組織であり、上意下達が基本である。
そのため。
「納得できないですよ、渡辺さん!」
「落ち着け森田」
上の意向に下が逆らうことは不可能とは言わないが相当な困難だ。
たとえ組織的に動いている凶悪犯罪グループの構成員の一人を確保したとしても上が調査打ち切りを通達して来たのなら調査はそこまでだ。
「人が死んでるんですよ!? それも未成年に薬物か何かを投与して食い殺させるなんて猟奇的な事件だ!」
他に誰もいない部屋の一室で、まだ若い警察官の青年が壮年の警察官に食って掛かっている。
彼らは殺人や強盗、暴行、傷害、誘拐、放火などの凶悪犯罪を担当する捜査第一課に所属している刑事だ。
事件現場は福岡県なので本来なら福岡県警の担当なのだが犯罪グループが東京に潜伏してると思われるので合同捜査をしていた。
「それだけじゃない! 佐藤家は嫡男の遺体を葬儀屋にも連絡せずに隠蔽して黙っているし、被害者の身内は変な新興宗教を起こして権力者の子供を取り込んだ! 重要参考人の少女は十階のマンションから死ぬかもしれないのに躊躇せずに飛び降りた! 急いで落下地点を探しても遺体はない! こんな状態で捜査を打ち切る!? 何者かが上から圧力を掛けてきたに決まってるじゃないですか!!」
「森田っ!」
壮年の警察官が若い警察官の胸ぐらを掴んで無理矢理に黙らせる。
「このヤマはお前が思ってる以上にデカい。消されたくなきゃ従順に従った振りをしておけ」
「でも、おやっさん……」
「耐えるんだ。絶対に今日のことを忘れるな。証拠を密かに集めて敵を炙り出すんだ」
色々なものを飲み込んで青年はコクりと頷くと部屋を出て行った。何処かで一人、泣くのだろう。
壮年の警察官にも覚えがある。そんな苦い思い出の記憶が。
懐から幾つか所持している使い捨て用のスマホの一つを取り出すと秘匿番号へ通話を掛ける。通話記録を探られても時間が稼げるように毎回、連絡先は変更している。
国内の通話内容を傍受し続けているような組織が彼ら以外にも存在する可能性は否定できない。実際にアメリカのNSAは国際的監視網を構築していたのだ。油断は出来ない。
「エスよりオブケへ。ホシはサクラダモンにイヌを放ってる模様。これより独自捜査に移行する」
【了承した。奮闘を期待する】
短い通話を終えて壮年の警察官の目がギラギラと光る。それは獲物を狩る猟犬の目だ。
「刑事の時間は仕舞いだ。ここからは公安の領分だ」
公安警察。公共の安全と秩序の維持こそが至上命題の組織。
対テロを主眼に置いた部門で監視対象は自衛隊や同じ警察官にも及ぶ。
メンバーは秘匿されており、スパイの獲得や運営などの協力者獲得工作を取り仕切るゼロと呼ばれる極秘の中央指揮命令センターの指揮下にある。県警本部長、所属長でさえ、ゼロの任務やオペレーションを知らされていないとされる。
「キチガイ共が。日本の治安機構をなめるなよ」
日本で最もエリートでイリーガルな組織が今、動き出す。
――――――
エス=組織内の内通者・スパイ、オブケ=警部、ホシ=犯人・容疑者、サクラダモン=警視庁、イヌ=捜査機関に侵入するスパイ
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