二十八話 スリーハンドレッド

 情報戦では完敗だったが、チートを配れるのはこの世で俺だけだ。

 利用価値は高位サキュバスだとうそぶいた時よりも上がっているはず。騙したことを恨んでいなければ。


「それにしてもサキュバスに吸血鬼ですか。あまりにもイメージ通りの力で本気にしちゃったじゃないですか」

「ふん。俺は単に魂の力を引き出しているだけだからな。歴史に登場したサキュバスってのはエナジードレインに覚醒した人間かもしれないぜ?」

「なるほど。昔からチート能力は実在していたと」


 ユカリは机を挟んで対面の席に座り話し掛けてくる。一見、穏やかに話し合おうとしてるように見えるがナチュラルに出口を押さえられているんだよな。

 既に周囲はユカリの手勢に囲まれていてもおかしくない。今の俺じゃまだ銃で撃たれるだけでアウトだからな。ピンチだ。


「口調も疑問に思わないくらいずっと盗聴されてたか。やれやれだ」

「ふふふ。今の方がイキイキしていて魅力的ですよ」


 エインヘリヤルの話題は普通にしていたから死後の魂を詐欺って確保したことはバレてるよな。それにしちゃ怒ってるようには見えないが。

 ユカリも俺と同じく普通に死んだ後、どうなるかわからん魂に執着してるわけじゃないのかも。下手すりゃ地獄でいたぶられる可能性すらあるけど。


「サキュバスが嘘だってのは言わない方が良いぞ。チートが育ちづらくなる」

「自分だけの現実ですか。実際、私以外のサキュバスは精気の吸収速度が速くなったりと成長していますからね」

「やはりそうか。確信が持てて有り難い」


 死後の魂が来訪理由じゃないとすると、やはり現世利益を追求してることになるよな。

 俺に自分の指定した人物にチートを与えるように要求するあたりか?

 サキュバスを増やすくらいならともかく、チートを好き放題与えるのは無しだな。最悪、国が崩壊するような危機に陥るかもしれん。


「それじゃ面倒な前置きはここまでにしておこうか。何の目的で来た」

「うーん。私はただ姫様が国家権力に捕まってチート能力の情報が拡散することを防ぎたかっただけなのですけどね。それじゃ納得しないでしょうし」


 まあ、不老不死を実現できるサキュバスとかバレたら狙われるからな。そっちの理由も嘘じゃないだろう。

 でもこいつ、防ぎたいっつーことは警察をどうにか出来るってことだぞ。そこまで行くとフィクションの黒幕レベルの存在なんだが。

 それか単に匿おうとしてるだけか。どっちだ?


「ここは私の最終目標を明かしましょうか」


 ポンと手を合わせてユカリは何でもないことのように言った。


「世界征服をしてみたいんですよね。私」




 現代社会で世界を動かしているのは誰だろうか。

 国家元首、宗教のトップ、会社の社長、芸能人、はたまた一人一人の労働者。

 各々で答えは違うだろう。でも、地球を支配しているような存在は誰かという問いに正確に答えられるものは少ない。

 そんな存在はいないって? 漫画の読み過ぎだって?

 確かに陰謀論者と馬鹿にされる程度には荒唐無稽な話だ。この現代になってまで貴族や王様のような支配者がいるなんていう考えは。

 だが。

 確かにいるのだ。地球の支配者を名乗れるだけの存在は。現実に実在している。

 人数にして、わずか300人。

 アメリカ大統領でさえ、その意向に従わざるを得ない絶対権力者。


 青き血を引く高貴なるもの。純血貴族の末裔。現代社会のヒエラルキートップ層。

 彼らを人はブルーブラッドと呼んだ。




「有名所ですとロスチャイルドやロックフェラーといった世界的財閥がこのブルーブラッドになります」

「世界で最も金持ちな奴らか」

「お金というより利権ですかね。石油に金、各種宝石にメディアに銀行と人が暮らしていく上で絶対に必要な利権を押さえています。たとえ、どのような状況になっても彼らが潰れることはあり得ないですよ。そのように世界のシステムを組んでいますから」

「なるほど。インフラの大本のようなものか」


 地球の支配者というから何だと思ったら、つまり現代社会の基盤、経済を支配してるってことか。

 まあ、確かにそう言えなくもないけど何だかな。結局は普通の富豪じゃね?


「ブルーブラッドを甘く見てますね。アメリカで起きた歴史に残る大事件、ケネディー大統領の暗殺。あれが起きたのがFRBから金融の利権を国家に戻そうとした時だと言ったら少しは脅威がわかりますか?」

「マジで?」

「ただの仮説の一つに過ぎませんが。現在でも金融の利権はアメリカ国家に戻っていないんですよ」


 ただの金持ちならともかく、そこに武力がともなうのか。

 アサシンを差し向ける絶対権力者とかフィクションの世界だな。


「そもそもフィクションのモデルが彼らなのではないでしょうか。秘密結社として有名なイルミナティにフリーメイソン。その所属メンバーは貴族・富豪・政治家・著名人だと判明しているじゃないですか」

「世界の裏で歴史を操ってきたと言われる秘密結社か。彼らが実はブルーブラッドの仲間だったと?」

「さて、どうでしょうか。普通なら陰謀論だと馬鹿にされる話ですね」


 だがアメリカ大統領は実際に死んでいる。

 頭が痛くなってきたな。現実は何時からこんなにフィクションめいていたんだ?

 それとも最初から現実とはこうだったのか。


「それでユカリはブルーブラッドの一員になりたいと」

「ええ。不可能ではないと思いますよ。サキュバスは寿命を延ばせますからね。実際に若さを取り引き材料に何人かの政治家や高官はこちらの陣営となりました」


 世界で最も有名なハリウッドスターになろうと国家でトップの政治家になろうと宗教の法王になろうと、それでも支配階級ではビジネスクラスと呼ばれブルーブラッドには数えられない。

 ちなみにビジネスクラスの下にミドルクラスがあり、有名企業の経営者やスポーツ選手などが該当する。

 残りの世界人口80パーセントがワーカー、労働者階級だ。年収10億の社長だろうと身分はワーカーでしかないらしい。

 それを一代で覆そうとしてるのか。風俗嬢の一人に過ぎない身で。

 何というか、それは。


「お前、面白いな」

「そうですか?」

「ああ。思っていたより何倍も面白い」


 いいね。この化物が何処まで行けるのか、見てみたくなった。

 リスクを考えれば愚行でしかない。だけど。

 死の淵から蘇ってから俺は馬鹿に生きるって決めてるんだ。



※フィクションです。私は本文が事実であるという一切の保証をしません。

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