二十三話 秘密組織が結成されてた件
「それで拓巳の弟子みたいな形になってんのか」
【ああ。死体がないとはいえ人を殺めたかのような状況だったからな。事情を知らない者は恐れて近付こうともしない】
久しぶりに姉ちゃんと電話で話してるんだが、コックリさん事件は結構な爪痕を残したらしい。
狐憑きになって拓巳を生きたまま貪った四人は人殺しの食人鬼として地元で恐れられているそうだ。
四人の中にお偉いさんの子供が混じっていたらしく直接的な被害はないんだが、事件の異様さも相まって本格的に避けられている。
このままでは自殺者が出かねないと判断した拓巳は事件の真相を四人にゲロったらしい。
未だに憑かれていた狐を祓うのも兼ねて。
結果としてまるで新興宗教のような組織が結成されてしまった、と。
【私もエナジードレインを披露せざるを得なくてな。親御さんに被験者となって貰った】
「マジか。大丈夫なのか?」
【気功だと説明したから心配するな。疲労回復程度の効果しか発揮してない】
さすが俺の姉だけあって、すらすら適当な嘘設定を口にする。後で辻褄が合わなくなって更なる嘘を吐くのが定番なんだよな。
でも俺のことを隠す為に吐いた嘘だ。拓巳も生まれつきの異能だと言ってるらしいし、有り難い。
【私の方は太極拳を教えることで誤魔化しているが、拓巳の方は本格的に霊能力が発現しないか試しているようだ】
姉は中国武術の太極拳を修めている。日本で広く伝わった護身術や健康促進の為の拳法で、九州にも結構な数の道場がある。
何やら秘伝とされる拳法は一部の流派にしか伝承されないとか言われているロマン溢れる武術だ。中二病経験者ならば一度は入門してみようか迷うんじゃないか?
そこで躊躇せずに突撃した行動力溢れる中二病が姉ちゃんだ。中々の腕前なんだとか。
「まあ、霊障はシャレにならんしな。少しでも効果があるなら試してみる価値はあると思うぞ」
【幽霊の脅威は証明されてしまったからな。そっちには有効な対抗策はないのか?】
「んー、ブレイブソルジャーのキャラがアークビショップだから有効な魔法はあるんだがな……」
ホーリーバーストの魔法だ。ゾンビや幽霊などのアンデッド特攻の魔法だから、忠実に再現されてるならリアル幽霊にも効果があることになる。
実際に掌に浮かべた破邪魔法にタラコ唇さんが指を突っ込んだらピリピリと痛んだというからダメージはあるんだろう。
つーか、エインヘリヤルにも効くのかよ。しかもフレンドリーファイアあり。気を付けないとな。
「俺には霊感がないから幽霊なんて見えんのだ」
【ちっ使えない】
「しょうがなくね?」
ブレイブソルジャーだと幽霊なんて見えて当然の雑魚モンスターだからな。見えるようにする魔法なんてものもない。
エインヘリヤルも霊体化されたら視認できないし。繋がりがあるから居場所はわかるけど。
遠方との念話なんて機能もないから目に見える範囲から出られたら大雑把な方角しか分からないし命令も出来ない。
絶対服従とは言うが、物理的に命令できないんじゃ無意味。隠れて命を狙われたり耳栓するだけでエインヘリヤルでも十分に主殺しが可能だな。
調子に乗ったチート転生者が足下を掬われて死ぬのが見える見える。
「そこは事前に禁止事項として周知しておけばいいんじゃないかなぁ」
「変な奴がエインヘリヤルになる可能性も十分あるだろうし必要なことかと」
【単なる不注意で死ぬ馬鹿だぞ、それは】
懸念を伝えただけでマジレスの嵐。確かにそうだけどさぁ。
「でも俺はお前を信用してないって明言してるみたいで気分悪くない?」
今のところは別にエインヘリヤルの命令権なんて使ったことないし、暫くはこのままでいいんじゃねえかな。
「お姫ちんはそういう優しい所が魅力なんだけど、なんかフラグ染みていて怖いよぅ」
「これって絶対後半で後悔する奴ですよね」
【昔から懐に入れた奴には甘いからな。普段は利己主義の自分本位なくせに。これだからコミュ障の童貞は……】
うるせえ。コミュ障童貞の陰キャの何が悪いんだ。ピュアと呼べ。
命令して生存権を確保することは悪くもない当然の権利かもしれんが、窮屈で肩が凝るんだよ。
疑心暗鬼になって自滅するくらいなら暗殺の可能性を残してでも好きに生きるね。
傍にいる腹心すら信用ならないってんなら、そいつはもう詰んでんだ。
チート転生者として選ばれた特別な人間だってんなら、我儘くらい貫かせろ。そういう生き方をしたいから、この世に再び舞い戻ったんだ。
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