二十二話 Vtuberとは最新技術の結晶である

 ツイッターを開設してユーチューブにもアカウントを作って、最初の自己紹介動画を投稿したことで何とかVtuberとしての第一歩を踏み出せた。

 マシュマロという匿名でVtuberに色々な文章を送れる質問メッセージ機能も稼働したし、一安心だ。


 掲示板と同じく匿名で投稿できるマシュマロは、セクハラや嫌がらせの温床になって演者に精神ダメージを負わせて引退に追い込む一因になってるから賛否両論なんだが、Vtuber界隈での文化の一端になってるから採用した。

 まあ、誰にもバレない匿名投稿とかゴミ箱より酷い汚物塗れになるのは当然なんだけどな。掲示板で常に雑談スレの管理人をやるようなもんだ。

 Vtuberの中にはマシュマロでの投稿に自重とマナーを呼びかける演者も多いが、無駄無駄。荒しをするなと注意をして素直に言うことを聞く2ちゃんねらーが存在しないのと一緒だ。

 書き込んでくる相手は数千数万の顔の見えない群衆なのだ。何の罰則も用いずに統制するのはヒトラーが民主政治で合法的に独裁者へとなったようなある種の偉業が必要になる。常人に可能な所業ではないのだ。


「まあ、それでも口出ししたくなる気持ちは分かる」


 Vtuberはパソコンに周辺機器、配信環境に2D3Dモデリングと凝れば凝るほど金が掛かる。大手の企業だと一人のVtuberの為に6千万近くも投資をしたという話を聞く。質を考慮しなければ無料で始められるというが、それでもパソコンにゲーム配信に必要な機材なんかを用立てる必要はあるから個人勢でも最低、数十万は初期費用として持ち出していると思う。

 それにも関わらずリスナーから返ってくる反応は無関心か悪意のある書き込みだ。そりゃ心も折れる。


 企業勢は企業勢でオーディションに合格して契約を結んでるから選ばれたという自負があるだろうし、他の所属Vtuberの足を引っ張ってはいけないというプレッシャーも相当なものだ。有名なVtuber企業はブランド価値もあるから周囲の視線はより厳しくなる。他愛ない一言で簡単に炎上して狼狽えているのは離れて見ているから面白いのであって、本人は内心、死にそうになっているんじゃあるまいか。

 こちらもマシュマロの投稿を便所の落書きだと笑って受け流す余裕はなさそうだな。ある程度、慣れるまでは。


 俺達の場合はタラコ唇さんがVtuberの技術者であること、タラコ唇さんの過去の3Dモデルがあるから基礎は改変して流用できたこと、風俗店から4千万の資金調達が出来たことで資金的な余裕があること、オマケにそれなりのスタートダッシュが決められたことで心の余裕がある。幾つかの機材は新しく購入することになったけど、タラコ唇さんのお古もまだまだ動いてくれたし。

 個人勢が開幕から企業勢並とは言わんが高クオリティの3Dモデルを活用してるのは珍しいだろうし、ちょっとは話題になってくれるといいんだが。


「歌に雑談にゲーム実況とVtuberの活動に3Dモデルが有効利用されることって少ないけどね」

「確かに。2Dで十分だよな」


 それでもVtuberは揃って3D化を目指す。やはり最初に有名になったVtuber達が3Dだったからだろうか。

 あそこまでの3Dモデルは最先端技術の結晶で少なくとも数百万、いや1千万以上かかってると思うんだが。ポリゴン数がヤバいのだ。

 2DでVtuberの大手の一角にまで成長した企業も、3Dモデルを作成する際は自然に魅せる為に2千万くらいの機材を導入したとかいうし。

 タラコ唇さんの頑張った3Dモデルも十分凄いんだが、流石に頂点のVtuber陣と比べてはいけない。


「最終的に大事なのは中身だよ。技術じゃ人は魅了できない」

「暗い顔しないの。時代が追いついていなかっただけで真帆さんは魅力的な女の子だよ」


 女性として魅力的なことと、エンターテイメント的な魅力はイコールじゃないが、タラコ唇さんも企業に所属してグループとして活動していたらバズった可能性は十分にある。Vtuberは個性の殴り合いでアイドル界隈とはまた違った要素を要求される。

 たとえばタラコ唇さんのロリコン的なキモさはアイドルとしては短所だが、Vtuberとしては長所となる。

 アイドルが世間に受け入れられるような究極的な凡人ならば、Vtuberは世間に驚愕されるような究極的な奇人の集合体なのだ。


 テレビ側もVtuberに採用されるような奇人は注目を得られるから採用したいとは思うんだけどね。週刊誌にすっぱ抜かれて非難されて潰れるから、無難な性格でも光り輝くような究極の凡人を選ぶ他ないのだ。それか奇人に凡人を装わせるか。


「それ褒めてないよぉ」

「いや、誉めてるよ。少なくとも俺は好きだ」

「ううっ……」


 真っ赤な顔になったタラコ唇さんはチョロくて可愛い。誰にも注目されなかった過去がトラウマとなって承認欲求が高いのか、褒められるとくにゃっとなる。

 エッチの時とかに耳元で可愛いと囁くと良い声で鳴いてくれるから燃える。


「はいはい、ご飯が出来ましたよ。アリス姫、イチャイチャするのもいいけど、俺がいるのを忘れて盛り上がらないで下さいね」

「たまたまエッチしてんの目撃して喜んでたじゃんか。このムッツリめ」

「そ、それは男なんだから仕方ないじゃないですか」


 エプロンを着けた赤毛のロリ娘がメイドみたいに食事の準備が出来たと呼びに来た。

 このロリは新しくエインヘリヤルに加わった佐藤浩介が、リンクのチート能力で変身したBSのサブキャラアバター姿だ。

 12歳くらいの年齢でポニーテールの髪型をした小麦色の肌のエキゾチックなキャラで炎のような瞳が印象的な少女。良い趣味をしている。

 ちなみに俺もタラコ唇さんも料理が出来ないので、浩介が来るまではコンビニ飯で済ませていた。

 家で食事当番をローテーションで熟していた浩介の飯は中々の腕前で大変ありがたい。メイド姿が板に付いてる。


「恥ずかしいけど、アカリちゃんだしいいかな……」

「タラコ唇さん! 浩介は男だからね!? ロリじゃないからね!? 浮気しないでよっ!?」


 なんか満更でもなさそうなタラコ唇さんに危機感を抱く。似非ロリなのは俺もそうだけど、そうなんだけど、待って?

 寝取られの趣味とか俺、ないから。マジで勘弁。

 浩介、もといアカリは色事に耐性がないのか真っ赤になっている。そういうとこが余計にロリっぽくてタラコ唇さんの琴線に触れるのだろう。


「お姫ちんこそ、浮気してるくせに……。知ってるんだからね。ミサキちゃんと連絡を取り合ってるの」

「それはサキュバス達の近況報告を聞くためで。もう店には行ってないから許して」


 拗ねた顔をタラコ唇さんはしてるけど、本気ではないようでホッとした。

 意外と俺って恋人になると束縛が強いタイプだったのか。自分でもビックリだ。



――――――

3Dモデルは本当に色々な情報が出てて幾らくらいが適正価格なのかは不明です。

無料で作れるアプリがあるとか、業者に150万以上請求されたとか。

ポリゴン数を多くしたりして感情表現を多彩にトレースできるようにしたら高くなるのは間違いないんだが……技術ってのは値段を付けるのが難しい。

本作ではタラコ唇さんが頑張ったので何とかなったとふんわりと考えて下さい。

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