浅野三郎さんは売れない漫画家?
浅野治郎、それがクッキーのお父さんの名前のはず。
でも目の前の浅野治郎さんそっくりの人は、自分の事を浅野三郎って言ってる。
「父さん、どうして今日はこんなに早く帰って来たの」
「まあね、たまにはお前たちと遊びたくてね。よし、今日はお友達といっしょになんかやろうじゃないか」
「ババ抜きしましょうよババ抜き!」
「トランプあるの?」
「以前見かけた、ボクの記憶に誤りがなければ……」
「おっ、新太郎君は頭がいいね、じゃあちょっと取って来るよ」
そしてぼくがポカンとしている間に、クッキーたちとその浅野三郎さんはどんどん会話を進めて行く。どうなってるの?
「なんだよヨッシー、お前はやらないのか?」
「いや……」
「じゃやろうよ」
クッキーまで乗り気になってる。ぼくだけがおきざりになってて何かかなしい。
しょうがないので、ぼくもババ抜きに付き合う事にする。
「お前さー、もうなんていうかさー」
「まるでジョーカーを引いた事も隠そうとせず、その上あからさまにジョーカーを見つめるその有様!どうしても負けたかったのか?」
「はっきり言いすぎよ、でもその通りだけどね」
「どうしたんだ、おじさんも手を抜こうかと思ったけれどあまりあからさますぎてちょっとねえ」
いきなりジョーカーを渡されたのはしょうがないけれど、それからもうずーっと浅野三郎さんの事ばかり見ていてババ抜きにまるで集中できなかった。
目をそらそうとすると今度は手元のジョーカーばかり見ちゃう。そんなんだから、ぼくはババ抜きに4連敗した。
「クッキー……」
「何かあったの?何かさっきからめちゃくちゃボーっとしててさ」
それでクッキーさえもこれ。まるで何があったのと言いたそうにぼくの事を見てばかり。他の3人はなおさら。
やっぱりなんかのかんちがいなのかなあ。
「うん……少し遊び過ぎてつかれちゃったみたいで……ぼくは帰ります」
「何だよノリのわるいやつだなあ」
「それぞれの都合がある、仕方がない」
そういう訳で、ぼくは一人で早めに家に帰る事にした。ぼくがいなくなっても、4人と浅野三郎さんは楽しそうにババ抜きをしていた。
あれはいったい誰なんだろう。
ぼくの知ってる浅野治郎さんと似ているようで似ていないあのおじさん。双子なんだろうか?
でもクッキーから、お父さんに双子のおじさんがいるだなんて話を聞いた事はない。ましてや、あんなにそっくりだったなんて。
「ただいま、おやつはクッキー?」
「……うん」
「ちゃんとお礼言った?」
「もちろん」
お母さんにいつも言われているように、くつをきちんと脱いで手を洗ってうがいして、それからお母さんにウソをついてベッドの上にねころんだ。
クッキーんちからぼくんちまで、いつも歩いて15分ぐらいのはずだ。
でも、時計の針は2時40分を差している。ババ抜きが終わったのが2時10分ぐらいだから、ぼくは30分近くかけてやっと家に帰った事になる。
寄り道なんか何にもしていないのに、どうしてこうなったんだろう。いつも通りの道のりを、安全に気を付けて歩いた結果なんだろうか。横断歩道の信号もちゃんと守ったし、お父さんの言いつけに従って右側を歩いたし……。
やはり、あの浅野三郎さんのせいなんだろう。
あの人はいったいだれなんだろうって考えたり、クッキーたちがどうして平然としてるんだろうかって考えたりすると足が止まっちゃう。
それでおっとこういう考え事をする時とかは横によけて他の人にめいわくがかからないようにしなきゃいけないと言うのはわかってるけど、それをくりかえしたからこんなに時間がかかっちゃったんだろうか。
お母さんに、クッキーのお父さんに双子の弟がいるだなんて言って信じてくれるだろうか。ぼくらがなかよしであるように、ぼくのお母さんとクッキーのお母さんもなかよしだ。そんな人がいれば、お母さんはとっくに知っているはずだ。
それを知らないって事は、やっぱりあんな人はいないんだろうか。それとも、別にぼくに教えなくてもいいかなってお母さんが思ったって事なんだろうか。
クッキーはぼくの友だちだ。
クッキーだけじゃない、新太郎君も大木君も俊恵ちゃんも。
でも4人とも何にもうたがってなかった。ぼくだけがかんちがいしてるんだろうか。
そうだよね、クッキーがひとりっこでもクッキーのお父さんに兄弟がいてもおかしくないもんね。気にしすぎだね、まったくぼくは何をやってたんだろう。
でも次の日は日曜日だけど、外に出る気にはならなかった。宿題を片付けなきゃならないのもあったけど、それ以上になんかクッキーたちといっしょに遊ぶ気になれなかった。
「どうしたの」
「最近、あんまり勉強してないなーって思って、それでさ……」
「ならいいんだけど」
と言ってお母さんを言いくるめたけど、どうしてもぼくの頭の中から浅野三郎さんの事がはなれない。
実際、宿題以外勉強してたのは漢字の書き取りぐらい。今机に向かい合っているのはただのうまくもないお絵かき。
浅野治郎さんの顔をよく覚えているわけじゃないけど、ぼくのいんしょうだとけっこうクッキーに似ている。クッキーが大人になるとああなるんだって顔。そんな感じ。
でも、浅野三郎さんの顔ってのは……やっぱりそんな感じ。
ちょっとでも似てなさそうな所があればすぐに気づきそうな物なのに、それがまるで見つからない。
って言うか、治郎さんの弟だから三郎さんだなんてあまりにもかんたんすぎない?
それに治郎さんの治ってのは数字の二じゃない。それはクッキーのおじいさんとおばあさんに聞いてみないとわからないけど、治って言う字がそんなにいい字なんだろうか。
「おはよう」
「おはよう……」
5月15日、月曜日。結局ひとばん考えてもすっきりできないまま朝をむかえた。いつも通りのあいさつがなぜかワンテンポおくれちゃう。
「……ム?何やらあったのか?」
「新太郎君の言う通りよ、小堺君ちょっと変よ」
「実はその、昨日午後9時までゲームしててさ」
「やりすぎはダメだぞ」
この言い訳は半分ほどウソだけど、半分ほど本当だ。
実際、そのぐらいの時間までずっと三郎さんの事を考えてたから。ゲームで気をまぎらわそうとしたのは7時半ぐらいまでなんだけど、まあ許して欲しいなあ。
これまでにも何十回もババ抜きをした事はある。でもたいてい一番弱いのは大木君、それから順番としてはクッキー、ぼく、俊恵ちゃん。
それで新太郎君はめちゃくちゃに強い、一番にならないとしても負けたのを見た事がない。
なぜこんな順位になるかと言うと、大木君はジョーカーを引くとすぐぼくらの方を見ようとする。一方で新太郎君はどんな時でも顔がぜんぜん変わらない。
後は……ツイてるツイてないの差しかないと思うけど、まあ大木君が弱くて新太郎君が強いってのはまちがいないはずだ。
でも昨日はちがった。ぼくだけがずっとこんらんしてて、三郎さんをふくむ5人はみんなれいせいだった。
大木君さえも、てきとうにしゃべりながらふつうにやってた。新太郎君なんてもう言うまでもない。テレビゲームっぽいって言うのとはまたちがう、本当にいつも通りにやっていた。楽しくやっているのはまちがいないはずなんだけど、なんか不自然って言う感じ。
「はぁ………………」
どうなってるんだろうなって思ってぼくがため息をつこうとしたその直前、新太郎君がかなり大きなため息をついた。
「何だよおいはらしん」
「いやいや、昨日塾で出された宿題の量にいささか閉口して……」
「いつまで出せばいいの」
「十日後に……」
「まったく、何を心配してるんだか、そんな先の日の事を……」
「ゆえに、今度の土曜日はキミたちと遊ぶ時はないやもしれぬ……どうかあしからず」
じゅくにも宿題があるんだなって、ぼくは知らなかった。
後から具体的にどれだけなのって聞いてみたら、学校の宿題の2倍近い量だって。
しかも中学三年生レベルの。
できなくてもいいからやれと言われているらしいけど、にしたってその量はつらそうだ。自分が昨日一日で終わらせられた宿題の量しか出されなかった事に感謝しながら、いつもの席に座った。
「さて今日からしばらくは
一時間目は国語の授業だ。今日から新しい場所をやる事になるけど、まあ初日だしたいした事はないと思っていた。
予想通り、今日はどうやら朗読だけっぽい。まず別の子が読み、次にぼくの番が来た。
「高田さん名は何と言うべな」「高田、さ、三郎です」「わあ、うまい、そりゃ、やっぱり又、三郎だぁ」
高田三郎。その名前がどうしてもすっと言えない。
って言うか、三郎って言えない。
三郎って文字を見ると、昨日ぼくの目の前にいた浅野三郎さんの顔が浮かんでくる。先生が浅野三郎さんに見えて来た、浅野三郎さんよりたぶんずっと年上のはずの先生が。
「どうしたんですか小堺君」
その後もきちんと読んだつもりだけど、どうしても三郎と言う単語の部分でつっかえる。いつもこんな事はないはずなのに。
「次は周防さん」
「はい」
その後に指名された俊恵ちゃんがすらすら読んでいるのを見て、もう何だか自分がいやになって来た。いったいあの日、何をぼくは見たんだろう。
「不可解、実に不可解……」
「熱でもあるんじゃない?」
「ないよ、人間誰だって失敗するでしょ!」
休み時間、自分のなさけなさにイライラしているぼくの席に新太郎君とクッキーがやって来た。お友達に八つ当たりをしちゃいけないんだろうけど、それでもさっきのいら立ちをついぶつけてしまった。
「失敗……うーむ……実は先週、塾の時間を間違え一時間早く来て棒立ちになった……」
「それは大変だったね、たいくつだったでしょ」
「実に退屈な時間だった……」
「ほらそういう風にさあ、誰だって失敗はあるの。引きずっちゃダメだよ。お父さんからもそう言われたし」
クッキーが言うお父さんって、誰の事なんだろう。
もちろん治郎さんのはずだ。
でもこの前、クッキーは三郎さんの事を父さんと呼んでた。
まさか、いつの間にかクッキーのお母さんが治郎さんと別れて、それとそっくりな三郎さんって人とけっこんしたって言うんだろうか。
ああもう、よけいに訳が分からなくなった!
放課後、ぼくはランドセルを投げ捨ててクッキーの家へ走った。
あの人はいったい誰なんだろうか。
その事がどうしても頭からはなれなくて給食をまともなスピードで食べられずお昼休みもまともに外で遊べなかった。
このままじゃ明日も同じ事になりそうだと思うと、いてもたってもいられなかった。
「どうしたの小堺君」
「ああクッキーのお母さん、三郎さんは」
「今日も家で売れない漫画描いてるわ、あれでもお客様にはそこそこ人気あるらしいけどね。悠太には見せられないような物だって」
クッキーのお母さんはいきなりやって来たぼくをやさしくむかえてくれた。
三郎さんはそういう事をしているらしい、それもそれでお仕事なんだと思う。
でも、浅野治郎さんってクッキーを作っているメーカーの会社員だよねえ!?
「あの、クッキーのお父さんって、何人兄弟なんです?ちなみにぼくのお父さんは下に妹さんがひとりいます」
「一人っ子よ。まあ私は男兄弟にはさまれてるけど」
浅野三郎さんって人は、浅野治郎さんの双子の兄弟とかじゃないらしい。でもそうだとしたらどうして一緒にくらしてるんだろう。
「そう、ですか………………あの、お母さんの」
「小堺君なら知ってるでしょ、お父さんから聞いてないの?結婚するとね、多くの女の人は姓が変わるの。まあ男の人が変わる場合もあるけどね、私の所は治郎さんの姓の方が変わったの。昔は浅野治郎じゃなくて、中村治郎って名前だったの。そういう事なの。もう、初めて見た時はびっくりしちゃったんだから、弟そっくりで」
そう聞こうとしたら、クッキーのお母さんはぼくのりょうほうのかたに手をのせてやさしそうな顔でぼくのことを見つめながらそんな事を話して来た。
ああそうか、なるほど…………。
そこでぼくはただいまもまともに言わないで出て来た事にようやく気付いて家へと走り出した。
「ちょっと、ランドセルを放り出して今までどうしてたの」
「ねえ母さん、母さんの名前は生まれてからずっと今までそのまんまなの?」
「いいや、父さんと結婚する時に小堺って姓になったのよ。
それまでは久保って名前だったけどね、普通すぎてあんまり好きじゃなかったかもしれないわ。今の小堺って姓は個人的にちょっと気に入ってるのよ。ねえ良晴、そんな事急に聞いてどうしたの」
「えっと、クッキーの所はお父さんの方が変わったんだって」
「そうなの、珍しいわね。でもそれで気はすんだでしょ。ちゃんとランドセルを片付けなさい」
ぼくは転がっているランドセルを部屋にもどし、教科書を取り出して明日の用意を始めた。
あまりおこられなかったのはいいけど、気が付くともう3時を過ぎてる。今さらおやつなんかもらえないよね、あーあがっかり。ぼくはすきっぱらをごまかすように、明日の用意をととのえた。宿題は……ない。
今日はもうつかれちゃった、マンガでも読んでゆっくりしよう。
良かった事があるとすれば、今日は仏滅でお父さんが早めに帰って来たって事だ。カルボナーラって言うスパゲッティを口にはこびながらお父さんとゆっくり話せる。
「最近じゃ夫婦別姓も真剣に議論されてるけどな、うちでやるカップルもそうしたいってのが結構いるんだよ」
「それもそれで面倒な気がするけどね」
「まあ大人でも意見が分かれるからな、こういう問題は。良晴、外でむやみやたらにそういう話をしちゃいけないぞ。それで人様の家の事をよそに話すのもやめなさい」
「大木君たちにも?」
「やめておきなさい。浅野君が自分で言うのを止める事はしなくてもいいけどな」
ぼくがクッキーの家の事を言うと、お父さんが夫婦べっせいとか言う言葉を言い出した。それについて、大人たちもけっこうしんけんに話し合ってるらしい。
ぼくらじゃとてもわからない問題なんだろうか。
「マンガ家って言ってるけど、どんなのかいてるのかな」
「人気があるんならお前も知ってるだろ、いくらお前のような小学生が対象じゃないからと言っても人気があるなら勝手に取り上げられるもんだ。そうならないって事はそういう事なんだろうな」
いずれぼくもこの家を出て行かなければならない、でもあのおじさんはいまだにそれができていない。
人気がある、つまりお金をかせげているのならばすでにいなくなっているはずだ。大人の世界ってのはきびしいんだなと思う。
「ふーん、でもさあ、お父さんとお母さんはどうやって出会ったの?」
「職場恋愛って言うものよ。十五年前、お父さんが勤めてる結婚式場に私は就職したの。そこでいろいろ慣れなくて困ってた私をお父さんがね」
「言っちゃ悪いけど手のかかる社員でな、それの面倒を見てたらいつのまにか」
「あなたったらもう、いくら自分で言った事だからって。まあそうやって誠実な人だからこそ一緒になったんだけどね」
「アッハッハッハ!」
そこから弟にそっくりな人に出会ってけっこんするなんて事があるのって聞こうとしたつもりだったんだけど、お父さんもお母さんもやけに楽しそうに出会ったころの事を話すもんだから何も言えなかった。
とりあえずスパゲッティはおいしかったけれど。
ぼくのお父さんは44才、お母さんは38才。クッキーのお母さんが何才なのかはわからないけど、ぼくのお母さんと同じだとすればクッキーのお母さんの弟だって言うあの三郎さんって人は、大木君のお父さんと同じ33才ぐらいだろうか。
新太郎君のお兄さんは新太郎君よりいつつ上で、大木君の弟は大木君よりいつつ下。それ以上はなれたきょうだいもいるんだろうけどあまりピンと来ない。
って言うか、そんなにねんれいがはなれているのに顔がそっくりになるだなんて事があるんだろうか。それとも、クッキーのお父さんって実は大木君のお父さんと同じぐらい若いのか?
ぼくのお父さんはお仕事の時もほとんどが建物の中、そしてクッキーのお父さんも同じ。でも大木君のお父さんはずっとお外にいるお仕事。雨が降ると建物の中って事も多いけどそういう天気の時はあんまり役に立てないってがっかりしてるそうだ。
ぼくらがみんなちがうように、お父さんたちもちがうんだろう。同じ33才だって、いろんな人生ってのがあるはずだ。テレビのニュース番組で、いろんな事故なんかで33才にもならない内に死んじゃう人がたくさんいる事をぼくは知っている。
でも、33才にもなって家から独立出来ないような人を見て、かっこいいと思うだろうか。お父さんやクッキーのお母さんの言う事を考えると、あんまり人気があるようにも思えないし。
そんな人の顔とそっくりな人を見たら、果たして好きになるだろうか。
ぼくにはまだそういうふうに顔を見るだけでいやだなって思うような人はいないけど、たぶんそういう存在ができたらぼくは同じ顔や性格の人を好きになれる自信はない。
やっぱり、どうにも不自然だ。
まあ、クッキーのお母さんが治郎さんと出会ったのはもっと前のはずで、その時は何でもなかったのかもしれないけれど。
でも、でも確かにこの前の土曜日、クッキーは「父さん」と三郎さんの事を呼んでいた。いくらそっくりだからってお父さんとおじさんの事をまちがえるだろうか。
クッキーのお母さんの言葉だとずっと家にいるからその分ふれ合う時間も長くなるのかもしれないけど。
なんだか浅野治郎さんがかわいそうだ。お仕事ばかりでなかなかクッキーとふれあえなくて、このままじゃ三郎さんに負けちゃうかもしれない。
「クッキー、お父さんの事は大事にしなきゃダメだよ!」
「わ、わかってるよ……!」
次の日の朝、クッキーの顔を見るなりぼくは思わずそう言いながらクッキーをだきしめた。クッキーは一体どうしちゃったのと言いたそうにしてるかんじだったけど、ぼくの方が多分もっとおかしくなってたと思う。
「おいヨッシー、はらしんがひどい顔になってるぞ」
「えっ」
そこで大木君に言われてぼくがふっと新太郎君の方を見ると、大木君の言う通り本当にひどい顔をしてた。苦しいとかいたいとかじゃなくて、がっかりって言うかとんでもない失敗しちゃったって言うか情けないって言うか、そんな感じ。
ぼくがあまりにもどうようしていて、それをしずめられないから情けなくて仕方がない、ってかんたんに思うには正直どうかと思うぐらいにはひどい顔だった。
「新太郎君!」
「すまぬ、つい………………昨日、母に
「何やらかしたんだ?」
「塾の宿題をあわてて片付けようとして、気が付くとすでに夜の10時……ああ、眠い……」
新太郎君は生あくびをしながら右のほおをつねった。目がたるんでいて本当につらそうな顔をしている。多分相当きびしくしかられたんだろう。
勉強をしてしかられるなんてめずらしいかもしれない。いっぺんそれぐらいやってみたいかも。
「本当にー?」
「本当だ!噓偽りを述べて何の利益がある!?」
「やましい事が多いと口数が多くなるんだよねー、何か知ってるんでしょ、言いなさいよ新太郎君。本当に塾の宿題のせいなの?私たちの事を」
「じゃあお前はずーっとやましい事があるのかしゅん」
「うっさいわね!」
新太郎君は昨日も落ち込んでた。何となく大変な時期なのかもしれない。
ぼくだって大変な事もある、でも新太郎君やクッキーに何かあっても、大木君と俊恵ちゃんはいつも通りだった。そういう所、ちょっとホッとできるかもしれない。
学校の帰り道も、楽しかった。それでいいじゃないか、またいっしょに遊ぼう。
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