命と永久2

 命がスリランカに買い付け旅行に行き、帰ってきた日のお話。

 命さんが慣れ親しんだ我が家の敷居を跨いだ所で、声をかける。


「おかえりなさい。命さん」

「ただいま。永久」


 命さんはトランクケースという重そうな物を持っていた。今永久は狐耳と尻尾を持ったあやかしの姿、普通の人間には見えない。

 けれどここには人目はないのだからいいだろうと、そっと荷物を取り上げる。


「これ、僕が運ぶよ」

「ありがとう」


 今はもう、沓己の娘だからとか、関係なしに、僕は命さん・・・が好きだ。だから命さんの喜ぶことをしたい。

 家の中に荷物を運びこむ。命さんがトランクケースを開ける。嬉しそうに袋を取り出した。


「じゃーん。新茶よ。買い付けた茶葉のほとんどは、船便で送ってもらうけど、手荷物で持ち帰れる分だけ、持って帰ってきたわ」

「これが新しいお茶?」

「そう。ウヴァの新茶よ。試飲したけどとても美味しかったわ」

「それは僕も飲んでみたいな」


 命さんがお茶を淹れて、買ってきた食べ物と一緒に、縁側に持っていって座る。

 千葉の成田という所に空の玄関があって、命さんはそこから帰ってきた。その途中の駅でいくつか食べ物を買ってきたようだ。

 最初に命さんが取り出したのは、パテドカンパーニュという肉と野菜を挟んだサンドイッチ。バゲットというパンを使っているらしい。


「日本に帰ってきたら、日本食が恋しくなるかと思ったよ」

「そうね。スリランカはカレーの国だから、カレーばかり食べて過ごしたのよ」

「かれー。ああ、あの辛いのだね」

「ホテルのビュッフェにはパンもあるけど、バリエーションが少ないし、美味しいパンが恋しかったの」


 命さんが大きな口を開けて、美味しそうに食べ始めるので、一緒に食べた。

 バゲットはパリッと硬めで噛み締めると旨味のあるパンだった。ほどよい塩気と脂が乗ったお肉と、さっぱりとした野菜の組み合わせが美味しい。

 命さんが淹れた紅茶を一緒に飲む。お茶と交互に食べると、パンに紅茶が染みてまた美味しい。


「あの、すーっとした香りのウヴァではないのですね」

「それも買ったわ。船で送ったから、後から届くの」

「船でお茶を運ぶのですか?」

「そう。飛行機で運んだ方が早いけど高いから。船の方が時間はかかるけど、安上がりにたくさん運べるのよ」

「……なるほど」


 買い付けというのは、現地で味見をして選んだ茶葉を購入する所まで。実際に運ぶのはまた別の話らしい。

 そんなお茶の話をしながら食べていたら、あっという間にサンドイッチは消えた。食後に命さんはデザートを取り出す。


「乗り換えの時に駅ナカで売ってた、卵プリンよ」

「卵の殻に入ったぷりんですか?」


 卵の殻の上だけ空いており、中にぷりんが入っていた。卵の殻にスプーンを入れて、ぷりんをすくいあげた命さんは嬉しそうに頬張る。


「卵の味が濃いわね。カラメルも強いし、これはミルクティーでもあいそう」

「これはこれで美味しいけれど、やっぱり命さんが作るぷりんの方がいいな」

「それはまた明日ね。今日ぐらいは何もせずに過ごしたい」

「そうだね。改めて、おかえり」


 おかえり。僕の家へ。必ず帰ってくるとわかっていたから待っていたよ。


「……おかえりってくすぐったいけど、良いわね」

「そう。これから何度でも言うよ。この家に命さんが帰ってきてくれるならね」

帰ってきてくれる・・・・・・・・? ここ、私の家だし、帰ってくるわよ」

「引越したりしない?」

「今の所、引っ越す理由がないわね」

「なら、よかった」


 僕の体は奥多摩から出られないから、命さんには永遠にここへ止まってほしい。

 人の命は儚く、ほんの瞬きするような間かもしれない。それでも命さんの命の尽きる日まで、家族でいたい。

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