第49話 宣戦布告
青空の下、私は小さな女の子と話をしている。この飯島あかりと言う少女は気が弱いながらも言いたい事はハッキリと言えるタイプの子の様だ。
私と大野君の関係を、根掘り葉掘り聞いて来た。
「……あかりちゃんは、大野君の事が好きなの?」
「え!?」
どうして分かったのかと言う風な驚いた顔をするあかりちゃん。
これだけでも答えが出ている様なものだが、
「……う、うん……好き……」
続けてあかりちゃんは俯きながら真っ赤な顔でそう呟いた。
よく感情が顔に出る子だ。
「そっか、大野君カッコいいもんね」
私はあかりちゃん向かってそう言う。
しかし、彼女は首を横に振った。
「ううん、違うの」
「え?」
あかりちゃんから否定の言葉が出る。大野君は顔が整っている方だと私は思っているのだが……
「カッコいいのもあるけど、蓮くんは、ちゃんとあたしを見てくれよるから……」
あかりちゃんは顔をさらに真っ赤にして、そう呟いた。
「見てくれる?」
「……うん。あたし、とろいから、ユウ君とショウ君と遊んどると……置いてかれる事があるんよ。……でも蓮くんは、ちゃんとあたしの事を待っちょってくれるから……好き……」
あかりちゃんは独白する様にぽつりぽつりと、大野君への想いを口にする。
さっきの面倒見の良い様子からして、あかりちゃんのことも大野君はしっかりと見ているのだろう。
必死に自分の想いを述べる姿は、応援したいとさえ思える気持ちになる。
あかりちゃんの言葉は紛れもなく本心なのが分かる。しかしその純粋さは、私には眩し過ぎた。
これほど純粋に、私は大野君を好きになっているのだろうか?
「……そっか、大野君はあかりちゃんに想われて幸せだねー」
そんな自分の気持ちを誤魔化すかの様に私は笑顔を貼りつけてあかりちゃんにそう言う。
内心ではこの子の純粋さが羨ましかった。
「お姉ちゃんは、蓮くんが好きじゃないん?」
すると、今度はあかりちゃんからそう聞かれた。
心臓がドキリと跳ねる。
「わ、私?」
「うん、お姉ちゃん"まだ"恋人じゃないって言うとったじゃろ?それに、さっきの会話見とったら、お姉ちゃんも蓮くんの事好きなんかなって……」
……本当に洞察力の高い子だ。気弱な女の子なだけと思っていたが、良く人の事を見ている。
これは将来とんでもない女に化けるかも知れない。
「……私も、大野君が好きかな」
私は自分の気持ちを包み隠さずにそう言う。
ここまで本心を曝け出してくれるあかりちゃんに対して、自分だけ仮面を被るのは、フェアでは無いと思ったのだ。
「や、やっぱり……!!」
すると、あかりちゃんは再びあたふたし始めた。
無理もない。恋のライバルが登場したのだ。私が言った事は紛れもなく宣戦布告。
恐らくあかりちゃんの純粋な想いに影響を受けたのもあると思う。
だからこそ、私も真っ向からあかりちゃんに向かって自分の想いを打ち明けたのだ。
10歳近く離れた小さな恋のライバルではあるが、彼女の大野君に対する想いは本物だ。
「あかりちゃんには、負けられないなあ」
「あ、あたしも負けんよ!」
私が揶揄う様にそう言うと、あかりちゃんも負けじと返して来る。
彼女の大野君に対する想いが恋愛的なものなのか、親愛的なものなのか、この際どうでもいい。
8歳の少女に対して大人気ないとも、自分でも思う。
しかし、私は純粋なこの子に、嘘は吐きたくなかったのだ。
「……因みに、あかりちゃは大野君のどこが好きなの?」
「!!、カッコいいところ……!!!」
その後は、本人には絶対に聞かされない様な、大野君についての話題に花を咲かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます