第50話 帰り支度
その後、日が暮れるまで遊んだ子供達は日差しで肌が真っ赤になるまで遊び、男の子2人は疲れきった様子でパラソルに戻ってきた。
「あー、しんど。久々にはしゃいだわ」
それは大野君も同じで、肌を真っ赤にしてそう言いながら雄介君と翔太君の後に続いて戻って来る。
「すまんのう、東條さん。一人で待たしてもうて」
「ううん、退屈はしなかったかな?……あかりちゃんも居たし」
私がそう言うと、隣で体育座りをしていたあかりちゃんは肩を大きく震わせる。
あの後、あかりちゃんは海で泳ぐ事はなく、私と一緒に大野君の良いところについて話が盛り上がっていた。
「ほういや、あかりは途中で抜けて東條さんと喋っとったのう。何の話をしよったんじゃ?」
どうやら大野君も遊びながら遠目で私とあかりちゃんが会話をしているのを確認していたらしいが、内容までは把握してない様だ。
「え?、な、、内緒っ!!!」
大野君の質問にあたふたしながらそう返すあかりちゃん。顔は真っ赤で大野君を直視できていない様子だ。
無理もない。先程まで好きな人の良いところを言いまくっていたのだ。私だって内心ドキドキしている。
「ふふっ、女の子同士の話は秘密だらけなんだよ?」
そんなあかりちゃんを見て、私はフォローを入れる様にそう言う。ライバルと言っても私は年上。こう言うフォローはしっかりとしておかなければ。
「ねー、あかりちゃん」
「う、うん!秘密なんよ!!」
あかりちゃんは私に同意する様に勢いよく頷く。すると、大野君は頭の後ろに手を当て、申し訳無さそうな顔をした。
「あー、すまんのう。ちょっと失礼じゃったな」
バツの悪そうな顔をする大野君。対して、あかりちゃんはそんな事ないと、再び慌てた顔で彼の顔を見やる。
「う、ううん!大丈夫!平気!」
あまりにも必死な顔で言うもので、大野君も面を食らう。
今日だけでどれほどのあかりちゃんの表情のバリエーションを見ただろうか?
「ほ、ほうか、あかりはエラいのぅ」
すると、大野君はそう言いながら右手であかりちゃんの頭を撫で始めた。こう言うところは子供の特権と言うものだろうか。あかりちゃんはされるがまま、気持ち良さそうな顔をしている。
………羨ましいなぁ………
大野君は優しく、慣れた手つきであかりちゃんの頭を撫でる。それだけでも大野君が彼女を大切にしている事が伝わった。
「?、東條さん?」
子供なので仕方が無いと言えばそうなのだが、何も私に見せつける様に撫でなくても良いだろうに。
でも大野君からすれば妹を可愛がる事と同じなのだろう。
「おーい?」
と言うかそもそも私はまだ大野君と手すら繋いだ事ないのに、頭を撫でられるなんて羨まし過ぎる。
年少だと油断していたが、かなり強力なライバルかもしれない。これは対策を考えねば………
「東條さん!」
「えぁ!?、は、はい!?!?」
突然、大野君に名前を叫ばれて変な声が出てしまった。
「どうしたんね?ボーッとしよってからに」
不思議そうな顔をして私を覗き込んでくる大野君。……落ち着け東條京香。ここで大野君に悟られてはいけない。あくまで冷静に。平静を装うのだ。いつも通りに。
「……ううん、ちょっと暑さにやられちゃったかな?あはは」
いつもの様に冗談っぽく私はそう返す。大丈夫だろうか?悟られてはいないだろうか?
顔は赤くなっていないだろうか?
「無理はせんでよ。もう帰るけど歩けそうかいな?」
「大丈夫、もう治ったから」
心配そうにそう聞いてくる大野君。どうやら大丈夫な様だ。
すると、それを見たあかりちゃんが大野君の袖を引っ張った。
「?、どしたん、あかり?」
「え、えっとね?お姉ちゃん、私と遊んどる時に一回気分が悪うなってな?ほいじゃけえそのな?えっと……」
あかりちゃんは拙いながらも大野君に何かを伝えようと必死に言葉を紡ぐ。あかりちゃんは次の言葉を言おうか言わまいか躊躇している様だが、一つ深呼吸すると、意を決した様に口を開いた。
「レン君、お姉ちゃんをおんぶして送ってってくれん?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます