第47話 子守り②


 よく晴れた空の下、海辺では3人の子供達がはしゃいでいる。

 それを見ながら私と大野くんは彼が用意したパラソルの下で隣同士に座っている。

 少し自分の心臓の鼓動の速度が速くなっている気がする。


 あの花火大会での彼の姿がチラついた。意識をし始めると、どうも緊張をしてしまう。

 

 「大野くんは泳がないの?」


 私はそんな緊張を誤魔化すために、適当な話題を振った。


 「ん?ああ、僕はこれやらにゃいけんけえな」

 

 すると、大野くんは持ってきたバッグの中から、スケッチブックを取り出した。

 

 「へえ、熱心だねー。ここでも描くんだ」


 「子守りのついでじゃ」


 苦笑いになって大野くんはそう返してきた。

 私は彼が絵を描いている姿が大好きなので、内心はかなり喜んでいる。

 

 「じゃあ、いつも通り見学させて貰おうかな?」


 しかし、私は"ついで"と言う様な感じを出してそう言ってしまった。

 意識をし始めると、妙に平静を保とうとしてしまって、いつも通りを意識しすぎてどうも淡白になってしまう。


 本当は彼の側に居られる理由が出来て喜びをもっと表に出したいのだが、何故だかそれが恥ずかしい。


 「ははっ、そりゃいつも通りじゃんけ」


 大野くんはリラックスした様子でそう返す。

 どうやら普段通りの会話が出来ている様だ。


 しかし、私のもどかしさは拭いきれなかった。


 「今日は砂浜の絵を描くの?」


 「うん、アイツらも一緒にのう」


 大野くんは遊んでいるあの子達をスケッチするらしい。

 面倒も見れて、なおかつ絵も描けるので一石二鳥と言うところだろう。

 すると、ある事が私の中で気になった。


 「ふーん、そう言えばあの子達って、雄介君以外も昔から知ってるの?」


 私はあの子供達について聞いてみる。ユウスケ君は赤ちゃんの頃から知っていると話していたが、他の二人はどうなのだろうか?


 「もちろん、あの二人も昔から知っちょる。もう一人の男の方は高井翔太たかいしょうた言うて、これがまたアホを具現化した様なガキンチョなんよ」


 「あはは、確かにそんな感じだったかも……」


 初対面で私に"他所もんじゃー!!"と叫んで来た子だ。元気いっぱいなのは良いが、少し考え無しなところがある子だなと思った。


 「女の子の方は飯島いいじまあかり言うんじゃけど、これがまたあのアホ二人に比べたら相当大人しい子でのう、いっつもあの二人に振り回されちょる」


 「でも、結構しっかりしてそうな子だったよ?」


 もう一人の女の子は、気が弱そうではあったが、元気のあり過ぎるあの二人にちゃんと注意するなどの常識も持ち合わせている様だった。


 「あかりはホンマええ子じゃけんなあ。昔は僕の後ろにばっかり付いて来よったんじゃけど、最近はどうしてかあの二人に積極的に注意する様になっていったんよ」


 「女の子の成長は早いんですよー」


 「ははっ、そう言うもんかのう」


 心地の良い距離感の会話を続ける。そんな会話を続けながら大野君はスケッチブックとあの子達を見ながら、白い画用紙に鉛筆を走らせていった。


 私が一番好きな、彼との時間だ。




________


 

 「おーい!!蓮くーん!!こっち来て泳ごうやー!!」



 しばらくすると、海の方から雄介君にそう呼ばれた。


 「えー?たいぎいよー!!」


 しかし大野くんは面倒くさそうにそう言う。まだスケッチブックに絵を描いてる途中だ。

 だがそんな事はお構い無しにと、3人の子供達は走ってこっちにやってきた。

 

 「ええから、行こうやー!」


 「行こうやー!!」


 雄介君と翔太君に両手を引っ張られて、大野くんは無理矢理立たされる。

 子供とはいえ、結構な力がある様だった。


 「分かった分かった!ほいじゃけえそんな引っ張んな!!」


 手を引っ張られてバランスを崩しそうになった大野くんは困った様にそう言う。

 この子達に振り回されるのは、大野くんも同じな様だ。


 「水着になるけえ、ちょっと待っとき」


 そう言うと大野くんは上着を脱いで、海の方へと向かっていった。


 ……どうやら大野くんも、下は水着だったらしい。言葉では面倒臭がっていたが、泳ぐ気は満々だったと言う事だ。


 そんな少し子供っぽいところもなんだか可愛くて軽く笑ってしまう。


 「すまんのー!!東條さん!!ちょいと泳いでくるわ!!」


 「うん!気をつけてねー!!」


 「暇じゃったらスケッチブックに落書きでもしちょいてくれー!!」


 「分かったー!!」



 大野くんはそれだけ言い残すと、子供達と一緒に海の方へと飛び込んでいった。

 

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