第45話 子供達


 由美ちゃんは弓道部で、週に3回は部活動に出ているらしい。

 今日はまさにその日で、他に遊ぶ人間も居ない私は家の中でゴロゴロしている。


 「……暇だあ……」


 時計を何回も確認するが、一向に針が進む気配はない。

 このままだと暇疲れを起こしそうだった。


 「……よいしょっと」


 なので私は外に出る事にした。立ち上がって外に出る為の身支度を整える。


 特に何処かに行く予定もない。ただの散歩だ。

 家の中で無為に時間を過ごすよりかは、島を少し探検してみようと言う、子供みたいな好奇心もあった。


 「……やっぱ暑い」


 外は、むわっとした空気が漂っていて、外に出ようとする私を億劫にさせた。


 しかし、東京の様な息苦しい暑さは無い。


 よく見える空と海の青色は、暑いながらに私に清涼感を与えてくれていた。


 今日は海の方へ行ってみようか。


 足取りは自然と、浜の方へと向かっていた。

 

 「こんにちは京香ちゃん。今日は暑いのう」


 「こんにちは。暑いですねー」


 途中、近所のおばちゃんに挨拶をされた。

 島では、すれ違う人全てに挨拶をされる。


 東京では無かった光景だ。

 

 島では私の名前は一瞬で覚えられた。

 元々人口が少ない上、島特有の身内意識があるらしく、最初は不安だった引っ越しも、すぐに受け入れられた。

 1週間もすれば近所の殆どの人は、私の名前を知っていたのだ。


 「今日は何処に行くん?」


 「ちょっと海まで散歩に……」


 その後、おばちゃんと少し他愛もない話をする。5分くらい話した後、私は再び海の方へ向かって歩く。



 道路に出て、浜まで後歩いて数分と言うところ。正面から子供達が3人、走って来た。


 「「「こんちはー!!」」」


 「こ、こんにちは」


 大き過ぎる声で挨拶されたので一瞬怯んでしまった。

 子供達は男の子が二人と女の子が一人。外でたくさん遊んでいるからだろうか、3人ともしっかりと日焼けをしていた。


 「お姉ちゃん誰じゃ?観光の人?」


 その内の一人の男の子が、間髪入れずに私にそう聞いて来た。

 普通は親に知らない人に声を掛けてはいけませんと教わるはずなのだが、この少年には全く警戒心が無い様だった。

 

 「他所よそもんじゃー!!」


 もう一人の男の子が私の事を指差して、楽しそうにそう言う。

 年相応のテンションを持ち合わせた様な子だ。


 「ショウくぅん、そんな悪口言っちゃあいけんよ?」

 

 対してただ一人の少女は気が弱いのか、困った顔でそう言った。


 「さ、最近引っ越して来たの。だから他所もんじゃ無いかな?」


 突然に話しかけられたので、多少面を喰らったが、私は諭すようにそう返す。この子達の年齢は見た目からして8、9歳ぐらいだろうか?元々子供は嫌いでは無いし、このくらいのテンションなら対応も出来る。


 「引っ越し?ああー!!アンタがレンくんの言うとった女かいな!!」


 すると、最初に話しかけて来た、リーダー格っぽい男の子が驚いたリアクションをしてそう叫んだ。

 この歳の子供というのは何をするにもリアクションが大きい。

 

 「レンくん?それって、大野くんの事?」


 "レン"と言う名前に私は過敏に反応する。

 他にも同じ名前の人がいるかも知れないが、この島でレンと言う人間は、一人しか思い浮かばない。


 「ほうよ!!なんじゃ、お姉ちゃんも蓮くんの事を知っちょるんかいな!!」


 そしてその予想は、当たりだった様だ。私はリーダ格の少年のその言葉に頷く。


 「同じ学校だからね」


 「へー!!じゃあ、"友達"なんじゃね!!」


 「……うん、"友達"だよ」


 男の子の"友達"と言う言葉に私は少し考えたが、肯定をする。

 彼とは友達だ。お互いそんな確認はした事が無いが、同じ美術部員同士。そう言っても良いだろう。少なくとも、私はそう思っている。

 

 「ほいなら、今から海行こうで!!蓮くんもそこで待っちょる!!」


 「え?あ、ちょ、ちょっと!!」


 すると、男の子に手首を掴まれて、有無を言わせないまま、流される様に引っ張られる。

 今から行く場所に大野くんがいると言う事だろうか?

 私の了承も得ないまま、子供達は私の手を取って走り出す。


 「ちょっと!何処行くの!?」


 「じゃから、海じゃって!!」


 男の子はそんな事はお構いなし。結局海に着くまで私は炎天下の中、走り回されるのだった。

 

 

 


 

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