第12話 成果


 「コウちゃんパーンチ」


 「ぐえっ!!!」


 翌朝、教室で康介と顔を合わせるなり、軽く腹パンをされた。出会って早々、失礼が過ぎる。

 「朝のモンが出たらどうするんじゃ」

 「気色悪い事を朝から言うな。……お前昨日、東條さんと会ったんじゃろう?」

 相変わらず耳の早い事だ。相談には乗ってくれたが、出会えた事までは言っていない。何処からそんな情報仕入れて来たのか。

 「……ほうじゃけど?」

 「なら殴られとけ。嫉妬でこっちは狂いそうなんじゃ」

 どうもそんな感じでは無い。いつものテンションで、いつものように小突いて来る、いつも通りの友人だ。嫉妬というのは普通に冗談だろう。

 「ほいで、どうじゃった?」

 すると、今度は期待の眼差しで康介はそう聞いて来る。

 「……何が?」

 大体察しは付くのだが一応、トボけてみる。

 「トボけんな。東條さんじゃ。相談に乗ってやったんじゃけえ、いたあ教えい」

 そう言われると弱い。そもそも由美にメールを送るアイデアをくれたのも康介なので、正直、頭の上がらない存在なのだ。

 「……お互い、タメ口で話すようになった」

 「……そんだけ?」

 そんだけである。コクリと僕が頷くと、康介は大きく溜息を吐いた。

 「何しとんじゃこのボケ。せっかくまた会ったっちゅうんに、やった事がそんだけかいな?」

 「し、仕方が無いじゃろ……由美も一緒にったんじゃけえ……」

 僕としては大進歩なのだ。まず名前は完全に覚えてもらったし、何よりお互いタメ語で話すようになったのだ。

 昨日の夜は、中々寝られなかった。

 「はぁ……先が思いやられるわ。ほいで?一緒に帰ったりせんかったんか?」

 「出来るわけないじゃろうが。そんなんしたら興奮で5日は眠れんようになるわ」

 一緒に帰るなんて、滅相も無い。いや、ゆくゆくはそうしたいのだが、まだまだハードルが高い。レベルが低いのにボスに挑むほど、僕は馬鹿では無いのだ。

 「きっしょ。何でこう、お前はそんなに奥手なんよ?ただ一緒に帰るだけじゃろうが」

 康介のナチュラルな暴言にも屈しない。自分はこのペースで良いのだ。

 「それが出来たら苦労せんわ」

 自分でも引くぐらい奥手なのは分かっている。しかしともかく、第一歩目は成功だ。次はメールアドレスの交換を目標としている。その次に2人きりで帰る事が目標だ。

 「おーっす、始めるでー」

 すると、朝のHRをしに、担任の大内先生が教室に入って来た。

 「……次はメアドの交換でもしとけ」

 康介のアドバイスに無言で頷くと、それぞれ自分の席に戻る。

 席について窓の外を見ると、今にも降り出しそうな空模様だった。




 

 

 

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