第11話 屋上での再会②


 「へえ、幼馴染ですか。珍しいですね」

 そう言うと。東條さんは珍しそうに僕達を見る。

 「え?おるのが普通じゃないんか?」

 由美が驚いた様にそう言う。僕としてもリアクションは同じで、キョトンとして東條さんを見ていた。

 「東京にはそう言う人は居なかったですから。ちょっと羨ましいですね」

 少し悲しそうな顔をして東條さんはそう呟く。しかし僕は矛盾を感じた。

 「へえー。向こうは人がいっぱい居るのに、珍しいもんですね」

 だって東京ほどの大都会なら。人もたくさん居る。ならばその分、幼馴染も多く居るのでは無いかと思っていたからだ。


 「……人が多過ぎて、誰を幼馴染にして良いのか分からないんですよ」


 東條さんは困った様な笑顔でそう言う。僕は東京に住んだことも、行ったことも無いので、東條さんの感覚は分からない。

 しかし、それが良いものでは無い事は、彼女の表情を見ても分かった。

 「ほ、ほうですか……」

 そんな表情を見て、僕は何も言えなくなってしまう。

 「すみません、気持ちの良い話じゃ無くて……」

 東條さんも申し訳なさそうにそう言って来た。

 沈黙。気まずい空気が流れる。

 

 

 「……それより、なんでアンタらまだ敬語なん?」


 すると、重い空気になりそうなところで、由美の口からそんな言葉が出た。

 「なんでって……」

 渡し船で出会った頃からずっと敬語なのでそのままなだけだ。そもそも、東條さんとはやっと2回目の会話なのである。

 「同い年じゃろうに。何か敬語で喋っとったら気持ち悪いわ」

 まあ由美の言う通り、普通はそうなのだが渡し船の時は状況が状況だったのだ。いきなり見知らぬ美人さんと出会って、フランクにタメ語で話せと言う方が難しい。

 「京香ちゃんに蓮の事を話したら、渡し船でもう会っとる言うとったで。京香ちゃん、ずっと蓮にお礼が言いたいって……」

 「ちょ、ちょっと由美ちゃん!!」

 初めて聞いた東條さんの大声に僕はびっくりしてしまう。確かにあの時、色々あったがそれはもう終わった話だ。

 「えっと、もう一度ちゃんとお礼が言いたくて……迷惑でしたか?」

 申し訳なさそうに聞いて来る東條さんに、僕はブンブンと全力で首を横に振る。

 「い、いや!そんな、全然!!寧ろありがたいです!!」

 忘れられて居なかっただけでも大収穫だ。この事実だけで、あと1ヶ月は楽しく生きれると言うものである。

 「……また敬語になっちょる……何か他人と話しとるみたいで嫌じゃ、それ」

 すると、由美が顰めっ面になってそんな事を言う。そうは言うがまだ出会って2回目なのだ。順序というものがあるだろう。

 「ちゅーか、何で由美はタメ口なんか?もう仲良うなったん?」

 「ほうよ、野次馬どもから京香ちゃんを守ったんも、ウチなんじゃけぇ」

 どうやら4組の騒ぎが収まったのはコイツのお陰でもあるらしい。腰に手を当てて自慢げにそう言ってきた。

 「別にお互い嫌いなわけじゃ無いんじゃろう?ならお互い敬語は無しにしようや。ウチの為に」

 何故僕と東條さんがタメ口で話す事が、由美の為になるのだろうか?しかしいつものように上目遣いでそうお願いして来る由美に、僕は何も言えなくなってしまう。


 「……分かった。あー、その、東條…さんも。タメ口で話すけどええか?」


 顔を東條さんに向け一応確認をとる。流石に名前までは抵抗があったのでさん付けをする事にした。


 「え?あ、うん。い、良いよ。改めてこちらからもよろしくね?大野…くん」

 

 対する東條さんも距離感が掴めないのか、手探りの返事をする。

 再度の挨拶は、かなりぎこちなかった。

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