第10話 屋上での再会
「何はぶてとんね。ええ加減、機嫌直しいよ」
「……うっさいわ。バカタレ」
曇天の中、僕は由美に対して不貞腐れていた。好きな人の前で乱暴な言葉を使ってしまった。しかも広島弁で。
怯えた彼女の顔がフラッシュバックする。……絶対に怖がられた。僕は強面の方では無いが、それでもあの暴言は東京の人を萎縮させるには十分だっただろう。
「あ、あの……私は気にしてませんよ……?」
困った様な笑顔で東條さんはそう言う。どうやら気遣いも出来る人らしい。が、表情を見る限り、僕に恐怖心を持っている様に見えた。
「ほら、本人もこう言うとるんじゃけえ、シャキッとせえな!!」
すると、由美が同調して来る。……こいつ、自分が原因だと言う事を分かっているのだろうか?
「……誰のせいじゃ思うとるんか?」
僕は最大限に不機嫌な顔になって由美を睨みつける。しかし彼女はどこ吹く風。能天気に口笛なんざ吹いている。
「えー?だって、こうした方が面白いじゃろ?」
何も考えてない様な発言にまたカチンと来る。
それに、僕のメールを見ていたかの様な口ぶりだった。
「……メール、見とったんか?」
「うん、黙っとった方が面白い思うて」
「こんの、バカタレがぁ!!!」
「あだだだだ!!」
我慢出来なかった僕は、由美の両耳を両手で引っ張る。怒った時は、いつもこうしているのだ。
「見たんなら返事せぇや!!」
「あだだ!!ごめん!!ごめんて!!」
由美の口から謝罪の言葉を聞くと、ようやく両手を離す。少し涙目になっている様だった。
「……大丈夫?由美ちゃん?」
そんな由美を、東條さんは苦笑いで心配していた。
「おぉ……こりゃあDV、家庭内暴力じゃあ……昔はあんな優しかったんに、なしてこがいな事に……」
オーバーなリアクションをしてその場に倒れ込む由美。いつも通りの反応にフンと、僕は鼻を鳴らす。
「バカタレ、いっつもいっつも反省せんお前が悪い」
突き離す様に僕はそう吐き捨てる。こう言うドッキリの様な悪ふざけをするのは由美の悪い癖だ。
去年のバレンタインに大量のワサビが入ったチョコを渡されたのは、記憶に新しい。
「もうダメじゃあ。やっぱウチには京香ちゃんしかおらんわぁ。あんな暴力男、ウチはもう知らん!!」
すると、由美は東條さんの背中に隠れて僕に言いたい放題、文句を口にする。
「文句を言うんはええが、転校生の後ろに隠れて言うなや」
文句を言うなら僕の目の前で言って欲しいものである。
しかし結果的に、好きな人の前にいるのだが、緊張せずには済んでいる。
……恐らく由美は狙ってこれをやったわけでは無いだろうが、心の中で感謝をしておく。
絶対に口には出さないが。
「あの、お二人はどの様な関係で…?随分と仲が良さそうなので……」
すると、おずおずと東條さんがそんな事を聞いてきた。
「蓮とは昔からの付き合いよ。えーっと、幾つぐらいからじゃったかいね?」
由美は首を傾げて僕にそう尋ねる。
「4つの頃からじゃけえ、13年。まあ、腐れ縁みたいなもんです」
僕がそう言うと、東條さんは珍しそうな表情をした。
「へえ、幼馴染ですか。珍しいですね」
東條さんの言葉に、僕と由美は同時に首を傾げた。
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