第4話 待合所での出会い

 

 転校生が来てから数日後、4組の前の騒ぎも、いくらか静かになっていた。HRで先生があまり騒がない様に注意したからだろう。


 対して僕はいつも通りに渡し船を使って登校し、いつも通りに屋上で絵を描いて、いつも通りに夕方にまた渡し船で帰る。

 何も変わらない僕の日常だ。4組の騒がしさも収まり、戻ってきた日常に感謝し、今日とて晴れやかな気分で屋上へと向かう。


 正直、転校生のことなど、もう頭には無かった。


 空模様も、まだ晴れではあるが、天気予報ではあと3日も経てば梅雨入りしてしまうらしい。それまでに出来るだけ作品を進めておきたいのだが、完成までは至らないだろう。


 「今日までに何とか色付けたいのう」


 そんな独り言を呟いてから、屋上の扉を開けた。


 



 ___キーンコーン、カーンコーン___


 夕方のチャイムの音で、僕はもう下校の時間なのだと理解出来た。残念ながら色は付けられなかったが、だいぶ進んだ様に思える。 

 そんな満足感と共に画用紙をアルタートケースに入れて下校の準備をする。

 夜には渡し船は運航していないので、急ぐ必要があった。


 高校から坂道を下り、海に面した場所に渡し船の乗り場がある。掘建て小屋の様な外観の待合所。注意して見なければ見逃してしまいそうなほどの小さな待合所だ。

 木造のそれは、随分と年数が経っているのが見るからに分かり、簡素な屋根と小さな事務室が併設されているばかりの、古き良き昭和の建物と言う感じだった。

 その建物を抜けて、先の桟橋から船に乗るのである。

 いつものように自転車を待合所の前で降り、桟橋に向かおうとすると、待合所の屋根の下にあるベンチに人が座っていた。


 「……誰じゃ?」


 聞こえないように独り言を呟く。珍しい事もあるものだと思い近づいてみると、それは同じ学校の制服を着た、一人の少女だった。


 「っ!!」


 一瞬にして目が奪われる。横顔であるが、少女は驚くほどに端正な顔をしていた。

 白い肌に長い睫毛。長い髪は漆黒より黒く、腰まで伸ばしているのだが一切の癖がない。

 少女は僕の方に気づいたのか、顔をこっちに向けて、微笑んで軽く会釈をして来た。


 「…ちわっす」


 「こんにちは」


 緊張でぎこちない挨拶をしてしまったのだが、少女は自然に挨拶を返してくれた。

 ……本当に美人さんだ。目はパッチリとしていて、スタイルも良く、鼻も口も小ぶり。10人中、10人は美人と呼ぶほどの容姿だ。


 少女は暇なのか、ベンチに座り足をパタパタさせている。美人さん故にそんな行動も絵になっていた。しかし、船に乗る気は無いのだろうか?

 少女の隣を過ぎ、桟橋へと向かう。通り際、良い香りがした。


 「あの、すみません」


 すると、少女の方から声が掛かる。心臓が飛び出しそうになるのを抑えて、咄嗟に振り返った。


 「な、何でしょう?」


 なるべく自然体で居ようとするが、ぎこちなさが出てしまう。変にニヤついて居ないだろうか?

 すると、さらに少女は困った顔をしてこう言った。


 「船がいつまで経っても来ないんです。本当に運航してるんでしょうか?」


 

 

 

 

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