第2話 何年ぶりかの、転校生

 

 「……遅刻じゃった?」


 「いいや、ギリギリ許してもろうた」


 朝のHRが終わり、学校の教室で机に項垂れながら友人にそう返す。


 この友人の名前は芳賀康介はがこうすけ。短髪で少し日に焼けた肌が特徴的な、僕の友人。野球部であり、そのせいもあるのか、声が大きめだ。


 「まあ、お前が遅刻なんざ珍しいけえのう。大内先生も今回は多めに見てくれたんじゃろうな」


 時間的にはアウトだったのだが、日頃担任の機嫌を損ねない様にしていた努力が実ったのだろう。今回は見逃してもらえた。


 「ほうかのぅ……あー、もう、ぶち疲れたわ」


 そう言って僕はため息をつく。6月という衣替えの季節も相まって、少々汗をかいた。これから夕方まで授業を受けると思うと、急に気が滅入ってしまう。


 僕は顔を机に押し付ける様にして脱力した。


 「なんじゃ、もうお疲れかい」


 「全く船が出んかったんじゃ。船着き場からエライ急いだ」


 「はっ、間に合わん様に出たお前が悪い」


 「……遅刻魔のお前に言われとう無い」


 男友達特有の軽口を叩き合う。康介とは1年生でも同じクラスで席も隣だったため、この様に仲が良いのだ。


 「転校生が来るっちゅうんに、呑気なもんじゃのう」


 すると、康介にそんなことを言われて僕はゆっくりと顔を上げる。


 「ほういや今日じゃったのう、来るの。」


 そうだ。6月の初日、今日は転校生が来る日だと、最近はクラス中で話題となっていた。なんでも5年振りの転校生らしい。広島市内からの転校生だろうか?


 「ほいで?女?男?」


 僕がそう聞くと、康介はニンマリとした笑顔になる。


 「女じゃ。しかも県外、東京から来よったっちゅう話よ」


 それを聞いて僕は驚いた顔になる。


 「…東京から?なんで態々こんな地方の高校に転校しに来るんか?」


 僕らが通う学校。呉市の郊外に所在する宮浦高校は田舎とまでは行かないが、地方の学校だ。そんな場所に東京からの転校生が来るなんて想像もしてなかったし、理由も分からない。


 「大方、親の転勤とかじゃろう。呉には造船所もあるし自衛隊もある」


 康介はそう言うが、朝のHRでは先生の口から転校生のての字も出てこなかった。


 「……ホンマに転校生なんか来たんかのう?」


 僕は疑いを隠さずにそう言う。この学校に転校生が来ると言うのは、余りにも現実味が無いのだ。


 「さあ?ウチのクラスには来んかったけえのう。別のクラスかも知れん。またはホンマに唯の噂話じゃったとか」


 康介も同じ考えなのか、難しい顔をしてそう言う。そこまで会話をすると、一時限目を知らせるチャイムが鳴った。


 「……まあ、昼くらいになったら、学校の騒ぎで分かるじゃろう」


 康介はそう言うと、自分の席に戻って行った。

 

 


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