第734話 閑話・それが生まれた日
何かに駆り立てられるように足が動き出した。
薄暗い街を駆け抜ける。
走っていると同じように走る者たちがいて集まってきた。
競うように前へ前へと進む。
途中、何者かが目の前に立ち塞がったが、それを呑み込みさらに加速していく。
そして到着したのは階段で、そこを駆け上がった先にはまた街があった。
違うのは空。ここは先ほどいた場所よりも明るい。
光は毒だが、薄暗いお陰か負担をあまり感じない。
周囲を見回していると音が聞こえてきた。
音の方に向かうと仲間たちが何かと戦っている。
ああ、先ほど立ち塞がった者に似た井で立ちをしている。
その者たちを見ていると本能が訴えてくる。
殺せ、殺せ、殺せ! 全て破壊しろ、と。
それに従い体が動く。
手に持つのは武器。その刀身に移るのは白い自身の姿。
剣を振り上げたが躱された。
目の前の相手は反撃しようとしたが仲間たちが次々と襲い掛かり……音を漏らして倒れた。
地に伏したそれは動かず、地面を赤く染めていく。
それを見て力が湧き上がり、再び動き出す。
次々と立ち塞がる敵を襲い、同じようにしていく。
それが七度続いた時、周囲にいた仲間が倒された。
身を砕かれ、地面に転がる。
けどそれを無視して前に進む。
間合いに入ると剣を振り下ろしたが、それは弾かれ、逆に攻撃を受けた。
その一撃は剣を持つ手を砕き、さらに強い衝撃を受けた。
衝撃に押されるように後方に吹き飛ばされて地面に転がる。
痛みはないが、体が思うように動かない。
どうにか立ち上がろうともがいていると、次々と仲間たちが倒れていく。
強い。
顔を向けると視線が貫いた。
口元が歪み、一歩、二歩と近付いてくる。
それは消滅へのカウントダウンだ。
あれがここまで到着した時、全てが終わる。
それに対する恐怖はない。
むしろ破壊衝動の方が強い。
相手を殺せないことへの悔しさに支配される。
だからその衝動を吐き出すように足掻く。
残された腕を伸ばして武器を探す。
手に何かが触れた。
顔を向けるとそこには一本の棒があった。
違う、杖だ。
それを手に持ち立ち上がると、目の前の敵に攻撃を仕掛けた。
片腕がなくなりバランスが悪い。
それでも振り下ろした一撃は……簡単に躱された。
それどころか敵が差し出した足に引っ掛かりバランスを崩して再び地面に転倒した。
倒れた体を踏みつけられて、ギシギシと軋む音が鳴る。
痛みは感じないが、このままでは壊れて動けなくなる。
必死に逃れようとするけど体はビクとも動かない。
このまま終わるのか……。
不甲斐なさに怒りが湧き上がる。
何故私はこんなにも弱いのか……と。
そう思った時、背に感じていた重さがなくなった。
自由になった体を動かせば、そこには駆け付けた仲間と戦う敵の姿があった。
それを見た私は、グッと手に力を込めて駆け出した。
感情に支配されて、闇雲に戦っても負ける。
それを理解した。
だからここから離れるために体を動かす。
もっと、もっと強くならないと駄目だ。
それにはどうすればいい?
まずは生き残る必要がある。
そう決意した瞬間、殺しの衝動が消えた。
敵を見ても、先ほどまで聞こえていた『殺せ』という声が聞こえてこない。
その後私は混乱する人々と、戦う仲間たちを置いてそこから逃げ出した。
周囲には家がなくなり、森の中に飛び込んだ。
ただそれからも苦難は続いた。
世界が明るくなると体の調子が悪くなり、動くのが大変になった。
そのせいで暗くなるまでジッと身を潜めて、どうすれば強くなれるかを考えた。
明るい時間も、暗い時間も、ずっと意識のある私にとって、考える時間はたくさんあった。
自問自答の末、一つだけ思い当たる経験をしたことを思い出す。
あの時、目の前の敵が動かなくなった時に、僅かだけど体に力が注がれた。
その後も敵を殺すと同じことが起こった。
敵を殺せば強くなる?
その答えを確かめるべく、私は準備をすることにした。
何日か前に姿を見掛けた、緑色の肌をした小さき者を殺すための。
小さき者が姿を現した。
小さき者は周囲をキョロキョロ見回しながら、徐々にこちらに近付いてきた。
私の姿を見て首を傾げたが、左手を見て目を輝かせた。
私の左手は杖を握っている。
それがお宝に見えたようだ。
小さき者は鳴き声を上げなら手を伸ばした。
その目は杖に注がれて他が見えていない。
私はジッと待って機会をうかがう。
………………
…………
……
その時がきた!
小さき者が杖を握った瞬間、私は折れた右手を動かした。
折れた腕の先端は尖っていて、それを小さき者の首に突き刺した。
小さき者は何が起こったのか理解する前に、口から血を吐き出し倒れた。
吐き出された血を受けた私は、しばらくして激しい痛みに襲われた。
体がバラバラになってしまうかと思うほどのその痛みは、明るい日が三度訪れるまで続き、最後、私は意識を失った。
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