第733話 アヴィドダンジョン・8

 翌日。ダンジョンへ行こうと冒険者ギルドの前を通ったが、ギルド内は閑散としていた。

 中に入っていないけど、気配察知を使って調べた。

 ただそれはダンジョン内も同じで、利用者は少ない。

 入り口から近いところに数グループいるだけだった。

 そのお陰で俺たちが助かったこともある。


「楽でいいな」

「というかいいのかこれ?」


 馬車に乗るアルゴとギルフォードが言葉を交わしている。


「人がいるとさすがに目立つけど、いないから問題ないだろう」


 既に二階で使用したことがあると伝えたら、アルゴたちは苦笑していた。

 そもそも荷物を運ぶ用の手押し車みたいのを見掛けるわけだから、馬車が走っても問題ないはずだ。

 ただここは地面が平らなわけではないから、普通の馬車だと座っていてお尻を痛めそうだけど。

 その点改良した馬車は振動も少なく快適だ。


「ただゴーレムがこうも多いと面倒だな」


 その点はアルゴの言う通りだけど、ゴーレム馬車なら速度で引き離すことは可能だ。

 もっともゴーレムの魔石は珍しいから大通りにいるやつは倒した。

 アイアンゴーレムなら鉄も手に入るからね。

 鉄は溶かせば色々な用途で使い道がある。

 一つ残念なのは、ミスリルゴーレムがいなかった点か。


「よし、これで一階を突破だ。それじゃ二階に行くか」

「休まなくていいのか?」

「ゴーレムとは戦ったが、馬車で移動だからな。それに人が増えたら馬車が使えないだろう? なら今のうちに行く方が楽でいい」


 二階に行こうと言うアルゴに尋ねたら、そんな返事が返ってきた。

 二階が一階と同じとは限らないと思いながら二階に向かえば、一階と同じように人は少ない。

 入り口周辺に人の反応はあるが、少し奥に行くと全く人の反応がない。


「とりあえず人目のつかないところまでは歩く感じで」


 反対意見は上がらなかったからしばらく歩き、MAPと気配察知を使って周囲を確認し、人の反応がなくなったら馬車での移動を開始した。

 二階はさすがに広いため、食事休憩を挟んで進むことになったが、どうにかその日のうちに二階の扉を開くことに成功した。

 ゴーレムの反応は複数あったが、横道の奥の方にいるようで二階では戦闘が一度もなかった。

 それでも時間はかかったようで、外に出た時はすっかり日が落ちていた。


「明日は資料室か……」


 伸びをしながらアルゴが呟いた。

 その顔色は優れない。

 同じような顔色の人は何人かいる。

 読み物が苦手な人たちだ。


「別に全員で行く必要もないだろう。ヒカリたちは料理をしてダンジョン内で食べるものを増やしておいてもらっていいか?」

「ん、分かった。任せる。ルリカ姉、セラ姉。たくさん肉料理を作る!」


 ヒカリの言葉に二人も笑顔で頷いている。

 ジッとしているのが苦手だからな。


「ミア、面倒を頼めるか?」


 ルリカがいるから大丈夫だと思うが、それでも量を作るとなると三人では厳しい。


「うん、分かった」


 頼めばミアは快く応じてくれた。

 一応アルゴたちもギルフォードとリック以外が料理を手伝ってくれるようだ。

 味付けは無理でも野菜や肉を切ることは出来るとアルゴは豪語していた。

 ……そんなに資料調べが嫌なのか?



 翌朝。食事を終えた俺とクリス、ギルフォードとリックの四人は冒険者ギルドを訪れていた。

 相変わらずギルド内は閑散としていて、冒険者だけでなく、ギルド職員の姿も少ない。

 俺たちはそのまま資料室の部屋へと進み、そこで三階について書かれた資料に目を通す。

 三階はフィールド型で、荒野と水場のフィールドに分かれている。

 荒野には岩山が乱立して、そこで鉱石を採ることが出来る。

 荒野には魔物も出るが、その数は少ない。

 ただミスリルゴーレムなど、一階や二階では珍しいゴーレムが多く出るのが特徴だ。

 腕に自信があるなら問題ないが、戦えないと少し辛いか。

 それでも三階を選ぶ者がそれなりにいたのは、採掘する鉱石の質がいいからだ。

 水場に関しては複雑で、日時によって水位が変わるため、場所によっては水の中に完全に沈む場所も存在するそうだ。

 資料にはその個所もメモされているため参考になる。


「問題は水の中にいる魔物だな。向こうから勝手に襲ってきてくれる魔物はいいが、どうもそれだけじゃないみたいだ」

「確かに」


 ギルフォードとリックはため息を吐いた。

 それは二人の言う通りだ。

 そうなると水中でも動けるようなスキルが必要になる?


「その辺りは水位の変化を利用するみたいですね」


 悩む俺たちに、クリスが資料を指差して言ってきた。

 なるほど。水位が低くなった時に倒す感じか。

 そうなるとある程度長期的にダンジョンに潜る必要がある。


「ま、焦らずに行くしかないな。最悪ボス部屋には、ソラたちパーティー分の魔石を集めればいいみたいだしな」

「そうなのか?」

「ああ、どうもボスの強さはボス部屋に入る人数や、集めた魔石の点数で決まるみたいだしな。点数は高ければ高いほど、どうもボスの難易度は下がるみたいだぞ。と言っても、それが有利に働くかはそのパーティー次第みたいだが。ま、ソラたちのパーティーは物理、魔法、回復とバランスがいいから、そのどれにも対応出来るだろう」


 ギルフォードの言葉に、リックも頷いていた。

 けどボス部屋の耐久は本当に大変みたいで、決められた時間止めどなく現れる魔物を倒し続ける必要があるみたいだ。

 しかも一時間、二時間の話ではなくて、最低でも一〇時間以上ある。とあるが、正確な時間は分かっていないみたいだ。あくまで体感としてと注意書きがあった。

 その後戻った俺たちは、資料で分かったことをまとめて伝え、明日からのダンジョン攻略に備えて早く休んだ。



※)次の話から少し閑話が続きます。

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