第735話 閑話・成長する魔物
目が覚めると違和感を覚えた。
それが何かはすぐに理解した。
手が、足が、体が緑色になっている。
欠損していた右腕にも肉がついていた。
触れると柔らかい感触を覚えた。
何が起こったのか……不思議と混乱しなかった。
私は地面に落ちた杖を手に取り、小さき者が持っていた、刀身が錆びた剣を拾う。
まずするべきことは力を付けること。
それには誰かを殺す必要がある。
それを何故か理解していた。
しかし強者はそう簡単に倒せない。
それに多い。
慎重に動く必要がある。
私はまずは彼ら、ゴブリンを探すことにした。
ゴブリン……それは先日私が殺したものの総称だ。
目覚めた時、体がゴブリンになっていたが、その時に記憶と知識も一緒に得ることが出来た。
それによるとゴブリンは集団で行動することが多いらしい。
今回私に殺されたゴブリンは、たまたま周囲の探索に来ていた中の一人だったみたいだ。
私は手に入れた記憶から、ゴブリンの集落を目指した。
ただ合流しないで場所の確認だけをした。
記憶が正しかったことがそれによって証明されて、今後の方針を決める。
この近辺には複数のゴブリンの集落があり、友好的な集落もあれば、敵対する集落もある。
また森の奥にはオークなど、凶悪なものも存在するということだ。
「どうするべきか……」
考えていることが声となって出た。
それを自身で聞いて驚いた。
まさか自分が声を出せるとは思わなかったからだ。
ならこれを利用する。
まずは殺したゴブリンの集落の者を襲う。
定期的に周囲の探索をする日が分かっているからその日を狙う。
探索ルートもある程度分かっているから、それを利用する。
私はその日がくるのをジッと待った。
ゴブリンの姿になっても変わらないことが二つある。
それは空腹を感じないことと、寝なくてもいいことだ。
それとは別に、日が出ていても苦しくないことは何よりも良かった。
これで行動出来る時間がぐんと増えた。
私は準備をして、探索ルートの一つに待機して、口笛を吹いた。
それはその集落で決められていた合図だ。
音に導かれて現れたゴブリンたちを、罠を利用して殺した。
ある程度数が減ったら別の集落のゴブリンを狙う。
ゴブリンを倒していくと自分が明らかに強くなっていくのが分かった。
そんなある日。私は遭遇した。
それは忘れもしない者たち。
それが人間という生き物であることも今の私は知っている。
私はその人間の動きを見て観察する。
以前戦った者と比べると弱いが、今の私では倒すのが難しいというのも理解した。
せめて一対一で戦うことが出来れば……そこで私はこの森にいる者たちを利用することにした。
ゴブリンだけでは無理そうだが、オークを使えばどうだ?
しかも人間と戦っている隙にオークを倒すチャンスもあるかもしれない。
私は人間が向かう方向を確認して、オークを誘導するために移動を開始する。
オークは力が強いが、素早さに関しては今の私なら勝てる。
木の狭い場所を通れば、その優位性を高めることも出来る。
それに私は睡眠を必要としない体だ。
もちろん寝なくてもいいけど、休憩は必要だからある程度体を休める必要はあるが、それでも以前に比べて体力も上がっている。
私は頭の中で作戦を立てながら、オークの縄張りへと走って行った。
「オークだと⁉」
人間の驚く声が森に響いた。
その声に反応するようにオークも吠えた。
その中でゴブリンたちは戸惑い、混乱していた。
地面には多くのゴブリンが倒れて、この一帯を血の海に変えている。
勿体ないと思ったけど仕方ない。小より大を取る。
ただでさえゴブリンたちは危機的状況にいたのに、そこにオークが現れれば絶望でしかないだろう。オークは強者だ。普通のゴブリンにとっては。
私はそこで口笛を吹いた。
それはゴブリンたちの間には伝わる合図だ。
西に走れ、それが今回口笛で指示した内容だ。
ゴブリンたちは一瞬顔を見合わせたが、すぐに行動に移した。
それを見た人間が追おうとしたが、その前に私は弓で攻撃した。
撃つと同時に素早く移動する。
突然の弓矢による攻撃で人間が木の上を見たが、そこには既に私の姿はない。
「ちっ、とりあえず先にオークだ」
「一〇体もいるんだぞ」
「地形を利用するんだ。ここは比較的間隔が狭い。有利に戦えるはずだ」
その言葉を聞きながら頭が回る奴がいると判断。まずはそいつを叩く必要があると思った。
それと同時に、人間の言葉を理解している自分に驚いた。
けど驚いたのは一瞬で、すぐに体を動かした。
私にとっては、正直どちらが生き残っても関係ない。
どうせこの戦いが終わった後、最後に立っているのは私だけになるのだから。
ただ出来れば両方ともこの手でとどめを刺したいとは思っている。
だからこそそのチャンスをものにするため私は動く。
激しい戦いが繰り広げられ、血飛沫が舞う。
戦況を見る限り人間が有利に立ち回っている。
予想以上に強い。ならオークの援護をするか。
私は弓を構え、放つ。
それがオークにとどめを刺そうとしていた人間を襲う。
間一髪のところで命が助かったオークの反撃が人間を襲った。
人間は剣を盾に防いだが吹き飛ばされた。
それを見た他の人間が助けに行こうとしたが、オークがそれを阻止した。
その様子を見ていた俺は笑みを浮かべた。
さらに一体のオークが吹き飛んだ人間を追っていくのが見えた。
私も静かにその後を追った。
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