第721話 複製体
【名前「――」 職業「――」 Lv「42」 種族「複製体」 状態「――」】
鑑定したのは目の前のオーク。普通なら種族がオークとなっているはずなのに、この個体は違う。
いや、この個体だけじゃない。
もう一体も同じように引き寄せて鑑定してみたが結果は同じだった。
「主、何か分かった?」
眉を顰めたのを見たヒカリが尋ねてきた。
口に出して鑑定すると宣言したわけじゃないのに、ヒカリは俺が鑑定スキルを使ったことに気付いたようだ。
挑発を使ったりして、わざわざ引き寄せたからかもしれない。
それにしても良く見ている。
「魔物であって魔物じゃない? いや、もう少しだけ調べたい。攻撃の方を任せていいか?」
鑑定した二体目の魔物も倒してしまったから、もう一度挑発で引き寄せることにした。
今度はある程度時間をかけたいから、オークとタイガーウルフ以外の敵……いた! ゴブリンを引き寄せてみることにした。
俺は盾を構えると、ゴブリンに対して挑発スキルを使った。
すると冒険者の方に向かおうとしていたゴブリンは、向きを変えて俺の方に突撃してきた。
棍棒による一撃を盾で防ぎながら、俺は鑑定を使う。
【名前「――」 職業「――」 Lv「24」 種族「複製体」 状態「――」】
レベルはそれ程高くないが、ゴブリンとしてみると高い。
ここまでくると駆け出し冒険者が一対一で戦えるレベルではない。
それこそファイターなどの上位種になっていてもおかしくないほどだ。
俺は攻撃を受け止めながらさらに解析で複製体という項目を調べる。
【複製体】スキルで生み出された特殊個体。
スキルによって生み出された?
ということはこの騒動を起こしているのは人かもしれない?
それこそ帝国を混乱させるための工作員の可能性もあるということか?
一番にそんなことをやりそうなのはエレージア王国だけど、今の王国がそんなことをするとは思えない。
絶対にやらないなんて言いきれないけど、他に構っている余裕がないだろう。
帝国を攻撃するという点では共和国も動機はあるけど、それもあまり考えられない。
国と言うよりも個人的な動機で動いているなら分からないけど。
それよりも問題はこの複製体に対する対策だけど、並列思考も使って注意しているけど、スキルをどうやって発動しているのかも分からない。
これだけ多くの魔物を複製しているわけだから、それこそ魔力の動きとかあってもよさそうなのにそれが一切ない。
この複製体は魔力によって作られているわけではないということか?
俺のスキルでもMPを消費して発動するスキルもあれば、SPを消費して使うスキルもある。
後者だと魔力の動きなんてなくスキルを使えるからな。
あとはこの複製体はどのようにして生み出されているかだ。
俺の複製と同じだとすると、一度はその魔物と遭遇して何らかの条件を得ているということになる。
ただそうなるとあの咆撃を行っているタイガーウルフにも遭遇したということか?
鑑定をしていないから正確性にはかけるが、動きを見ると個体差があるように見えるから、そんなに多くの特殊個体がいたということか?
何か考えれば考えるほど、異常なことが起こっていると思い知らされる。
それに目の前の気配も魔力もない魔物の正体は分かったが、この騒動を起こしていると思われる人物に関することは何一つ分かっていない。
スキルの使用に限界があると仮定して、今はひたすら倒し続けるしかないのか?
俺は鑑定が終わると剣を振り抜き、目の前のゴブリンを斬った。
手に確かな手応えを感じたが、倒れていく途中で斬り傷を負ったゴブリンは消えた。
魔物の集団を四回全滅させたところで周囲から魔物が消えた。
集団といっても、あくまで俺たちが戦っていた集団だ。
他ではまだ戦闘が続いている。
しばらくの間警戒していたけど、再度オークたちが現れることはなかった。
「はぁ~~~~」
と息を吐き出して冒険者たちはその場に座り込み、軍人たちはそれを恨めしそうに見ながら移動を開始した。
警備隊の制服に身を包んだ者たちは、冒険者と同じように座り込む者が多いけど、こっちは完全に体力が尽きた感じだ。
「……俺たちも移動しよう。ここからだと……アルゴたちが近いな」
俺はMAPで確認すると、三人と一緒に移動を開始する。
それを見ていた冒険者たちが何かを言いたそうだったけど、俺はあえて無視して先を急ぐ。
何を優先するべきか……それはもちろん仲間たちだ。
それに冒険者なら自分の身は自分で守るべきだ。
俺はアルゴたちのいる方に向かいながら、鑑定して分かった結果をヒカリたちに伝えた。
「ダンジョンで魔物が使ってきた召喚とはまた違うの?」
「数が増えるという点では同じと考えてもいいけど、発動の時に生じる魔力の動きがないんだ。だから誰がスキルを使ってるか分からないんだ」
俺が感じられないだけというのも否定出来ない。
それだけ今の町には色々な反応があり、反応を捉えることが出来ない存在が溢れていた。
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