第720話 襲撃・1

 目を覚まして装備を整え、借家から外に出ると魔物と戦う冒険者たちを目撃した。

 あれはゴブリンか?

 音は至るところから聞こえてきて、怒号も飛び交う。

 魔物の数の方が多いのか、離れた場所で建物を破壊しようとしているやつもいる。

 家の中に人がいるのが分かっての行動?

 普通の魔物なら視界に入った標的に向かっていきそうなのにそれがない。


「とりあえず近場から片付けて行くぞ。この辺りは戦えない住民が多い。手分けしていく」


 アルゴの指示で、三つのグループに分かれて行動することになった。

 俺のところはヒカリにミア、リックの四人での行動になった。


「主、変」


 ヒカリの一撃で倒れたゴブリンは、俺たちの目の前で死体も残さず消えた。

 それはまるでダンジョンで倒した魔物を放置していると消えていくのに似ていた。

 違いは倒して大して時間が経っていないのに、消えるという点だ。

 それともう一つ気になるのはゴブリンの反応だ。

 俺は気配察知と魔力察知を使っているけど、今まで倒してきたゴブリンたちの反応を捉えることが出来ていない。

 付け加えるならMAP上にも表示されない。

 それなのに俺たちがゴブリンを探し当てることが出来ているのはヒカリのお陰だ。

 喧騒と金属の交わる音が響く中、音を聞き分けてヒカリが俺たちを先導して標的の元へと連れていってくれる。

 見つけさえすれば倒すのは容易だ。

 といってもそれはあくまで俺たちにとってはというレベルで、野良で遭遇したら駆け出し冒険者だと一対一で戦うと苦戦するレベルだ。


「ヒカリちゃん、次は何処?」

「……ん、近くにはいない」

「なら一度アルゴたちと合流しよう。だいぶ遠くまできた」


 リックの言う通り、俺たちは借家からかなり離れた場所まで来ていた。


「そうだな……」


 遅れをとることはないと思うが不気味さはある。

 俺たちはリックの意見に従いアルゴたちのもとに向かおうとして、その声を聞いた。


「オ、オークだ! それに……あれはタイガーウルフ⁉」


 俺たちはそれを聞き声のした大通りの方に駆け付けた。

 するとそこには言葉通り、複数のオークとタイガーウルフがいた。

 しかもその時目撃したのは、


「ま、魔法⁉」


 タイガーウルフが咆哮すると同時に、弾き飛ばされた軍の制服を着た者の姿だった。

 その攻撃は一体だけでなく、視界の中にいる六体のタイガーウルフ全員が使ってきた。

 巻き込まれたのは軍人だけでなく、軍人と戦っていたオークたちも巻き込んでいく。

 それを見た冒険者たちが倒そうと向かうが、咆撃の前に近付けない。

 それならと遠距離から魔法を放つが、それを前に出たオークが盾で防ぐ。

 なかには魔法が直撃して倒れるオークもいたが、倒してきたゴブリンと同じようにまるで最初からいなかったかのように消えた。


「どうなっているの?」

「知らん。それよりも攻撃の手を緩めるな!」

「分かっているわよ。けど高火力の魔法は使えないわよ! 被害が大き過ぎるから」


 言い合う声を聞きながら、俺たちも援護をする。

 ヒカリは斬撃を飛ばし、ミアは補助魔法。俺も町への被害に注意しながら魔法を放ち、リックは俺たちを守るために周囲を警戒する。


「くそう。倒してるのに数が減らないぞ」

「どうなっているのよ!」


 俺たちの援護でオークだけでなくタイガーウルフの数も順調に減らしていったのに、それを嘲笑うかのように魔物たちの背後から再びオークとタイガーウルフが現れた。

 そしてこれは俺たちのところだけでなく、他のところでも同様に起こっているみたいだ。

 嘆きの声が聞こえてくる。


「これだとアルゴたちと合流出来そうもないな」


 距離を詰めてきたタイガーウルフの攻撃を受け止めて、押し返しながらリックが言う。

 確かにここで俺たちが抜けると、ここで戦っている冒険者たちでは魔物たちを抑えることが難しいかもしれない。

 倒しても倒しても魔物の数は減らず、しかも魔物は万全の状態で姿を現す。

 それに対してこちらは体力と魔力を削られていく。

 魔法使いたちも間を開けたり、マナポーションを飲んだりしているが、この状況が長く続くようならやがて魔力が尽きて魔法を撃てなくなる。

 軍人と警備隊もオークに対しては善戦しているけど、タイガーウルフの猛攻に苦戦を強いられている。

 四足歩行の敵と戦い慣れていないのか、翻弄されている姿が目立つ。

 この混沌とした状況を打破するには、やはり無限に現れる魔物をどうにかするしかない。

 どのような原理で魔物が湧くのか、これは人為的なのか、原因を除去しない限り続く気がする。

 けどその手掛かりが……そこまで思考を働かせて、その手掛かりとなる存在が目の間にいることに気付いた。

 そう、この魔物自体が手掛かりになるかもしれない。

 そこまで考えた俺は、挑発スキルを使って魔物を引き寄せると、有効範囲内に入った魔物に対して鑑定のスキルを使用していた。

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