第722話 鑑定スキル・1

 俺たちがアルゴたちと合流するまでの間に、いくつかの戦闘があった。

 路地裏で単身動いていたせいなのか、倒した後に追加で魔物が現れることはなかった。

 目立つ場所じゃないからか?

 それとも……。

 理由は分からないが、それ幸いと先を急いで無事アルゴたちのもとに到着出来た。

 その頃にはルリカたちも合流を果たしていた。

 その無事な姿に安堵のため息が思わず漏れた。

 それにここには俺たちだけでなく、ヘルクたち酒と鉄槌のクランメンバーの姿もあった。

 というか、ここは酒と鉄槌のホームだからそれはおかしなことじゃないな。

 先日来た時と違う点は、ここに避難してきたのか、それとも保護したのか町の人たちがいるということだ。


「わしらもここには長いこと住んでおるからな。困っているのを見れば手助けの一つもするわい」


 視線を向けると腕組みしながらプイっとヘルクは顔を逸らした。

 いや、別に何も言っていないが?

 それからそれぞれどんな魔物と戦ったかを話し合ったが、ルリカたちはゴブリンにオーク、オーガと戦い、アルゴたちはウルフの群れと遭遇したと言った。

 特にウルフは数が多いのと、魔法を使う通常ウルフが交ざっていたこともあって、酒と鉄槌の面々や住民に被害が出たみたいだ。

 それを聞いたミアが治療に向かい、俺もその手伝いをした。

 重傷者はポーションで治療したが、それ以外の人たちの治療はしていないと言ったからだ。

 これは別にポーションをケチったわけではなくて、長丁場になるかもしれないと判断して節約することにしたからみたいだ。

 状況がまだはっきりしていないし、それは正しい判断だと思った。

 神聖魔法ならMPさえ回復すればまた使えるが、消耗品は一度使ってしまえばなくなるし、何よりポーションは誰でも使えるからな。

 俺とミアは手分けしてヒールで治療を施したが、全員の治療はしなかった。

 これは単純にMPの問題で、やはり節約の意味合いが大きい。

 治療されなかった人の中には不満そうな人もいたけど、まだ戦いは終わっていないから仕方ない。ここでマナポーションを飲むわけにもいかない。

 それに連続して飲むと、回復の効果が一時的ではあるけどなくなるからな。

 今のところ急を要しているわけじゃないから自然回復に任せる。

 話し合い次第ではまた外に出る必要もあるし、怪我の具合を見て戦える人を優先するのは一人でも多くの人を助けるためだ。


「とりあえず交代で休むぞ。ソラたちは先に休みな。俺たちが先に見張りに立つ。ヘルクたちの方も何人か出してくれ」

「任せるがよい。なんならアルゴたちも先に休んでかまわんぞ」

「それは大丈夫だ。それにヘルクたちは慣れてないだろ」


 アルゴの言葉にヘルクたちは頷いた。

 アルゴたちは見張りと言ったが、クランの建物周辺を歩いて回り魔物を探した。

 幸いなことに周辺には一体もいなかったそうだ。

 ただMAPを見る限り、戦いはまだ続いている。

 町中には複数に固まっている集団がいて、道の真ん中で行ったり来たりを繰り返す反応もある。

 他には酒と鉄槌のように集まり、籠城を考えていると思われる集団もある。

 あくまでMAPを見ての俺の感想だけど。

 休んでいると、これからどうなるんだろうなんて心配する声も聞こえてきた。

 不安に思う気持ちは少しだけ分かる。

 俺はMAPを見ながら考える。

 今回の魔物……複製体は、理由は分からないけど反応が拾えない。

 そうなるとまだいるのか、それとも全て狩ったのか分からない。

 ゴールが見えないと疑心暗鬼に囚われて、体だけでなく精神的な負担も増していく。

 これがまだ町の中の出来事でなかったら違ったんだけどな。

 俺はMAPを閉じると、念のため気配察知と魔力察知を使いながら目を閉じた。


 何時の間にか眠っていたようだ。

 眠っていたのは一時間。その間に多くの情報が集まっていた。

 敵の中にはゾンビがいて、この騒動の始まりは、教会に一時保管されていた死体が動き出したからだった。

 しかもその死体は、ゴブリンの探索にいった兵士たちのものだったそうだ。


「そいつらも出来れば鑑定しておきたかったな」


 ゾンビなのか、複製体なのか……。

 いや、それが分かったところで何かが変わるわけじゃないけどさ。

 そもそもこの襲撃者の狙いが分からない。

 町の人間を殺すこと?

 それともダンジョンから採れる資源を狙っている?

 そもそもこの首謀者は誰だ?

 考えれば考えるほど混乱する。

 会う人全員鑑定しても、結局のところ使えるスキルが分からないから、誰がこんな大それたことをしでかしたのか分からない。

 あとは仮にスキルが分かったとしても、複製というスキル名だとは限らない。

 こんな時イグニスとか、習得スキルが分かる人がいると助かるんだけどな。

 けど習得スキルを視ることが出来るスキルというのは存在していると思う。

 実際イグニスは相手のスキルが分かるみたいだったけど、魔人でも全員が全員分かるわけじゃなかった。

 そう考えると、イグニスが相手のスキルが分かったのは、魔人という種族の特性ではなくてスキルによる力に違いない。

 俺はスキル欄からそれらしきスキルがないか探してみたが、結局スキルが分かるスキルなんてものはなかった。

 そもそも解析よりも上位のスキルがないからな。

 解析スキルは現在七だから。MAXまで上がれば上位スキルとして現れるかもしれないけど。

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