第688話 アヴィド散策
ギルドから借家に戻って料理を作っていると、アルゴたちも戻ってきた。
「かなり質のいい装備が揃ってたぞ」
数軒しか回ってないが、ただの鉄の剣でも良い出来だとアルゴたちは言った。
それを聞き、明日は俺たちも町の中を散策する予定だから何処か装備品を売っている店に寄ってみようかと思った。
俺たちの一番の目的は露店巡りだけど。
明日町の中を見て回り、その翌日にカイナを迎えに行く予定だ。
翌日。俺たちは朝食を済ませるとアルゴたちと一緒に宿を出た。
俺たちについてくるのか聞いたら、俺たちだけで見て回るのは心配だし、少しなら案内出来るということで一緒に行動することになった。
確かにここも帝国内だし、アルゴたちからしたら心配なのかもしれない。
食事を済ませたばかりだから、先に店を回る。
最初に立ち寄ったのはポーションなどを売っている雑貨屋。ポーション類の値段を一応チェックしていく。
少し割高だと思ったが、飛ぶように売れていく。
ギルドに薬草類の買取依頼が出ていたが、ズィリャと比べてもちょっと高かった。
ダンジョン内では薬草類は採れないから、町の外にある森まで採りにいく必要があるようだし需要があるんだろうな。
あとは変わり種としては耐熱ポーションが売っている。
鍛冶をする人用なのかな?
俺は炉を使って鍛冶をしないけど、フクスト村で鍛冶を教わった時は確かに暑かった。
その後も何軒か回って価格調査をしたら、次は装備品を見に武器屋へと向かう。
多くの武器屋には目立つように看板が掛かっていて、看板に刻まれた名前はクラン名だとアルゴが教えてくれた。
「酒と鉄槌の店は今日も大盛況だな」
その中に一際目立つ、長蛇の列を作った店がある。
そこが酒と鉄槌が経営している店だという。
アルゴが言うには他にも複数の店舗があって、店舗ごとに売っている装備のランクが違うようだ。
長蛇の列を作っているのは、低価格の武器で、見習いたちが打った武器だそうだ。
「もっとも見習いって言っても、十分過ぎる出来だったけどな」
アルゴの言葉にギルフォードたちも首を縦に振っている。
それを聞くと実際に手に取って見たい欲求が生まれたが、今は行くべきじゃないな。
俺たちは比較的空いている店をいくつか回ったが、全体的に装備品の値段は安いと思った。
しかも質も悪くない。
鑑定で確認したが、どれも良品だ。
わざわざ商人たちがこの町まで買いにくる理由が分かる。
それに壁には新品購入者は整備無料との貼り紙もある。
冒険者にとっては整備代もばかにならないらしいから、それが無料になるだけでも大きい。
「まあ、これには店側もメリットがあるようだからな」
アルゴが昨日聞いた話だと、どんな使い方をしてそのような状態になったかの調査が出来るから、鍛冶師も勉強になるということだ。
そうやって使い手に寄り添いながら、自身の技術を向上させて究極の一振りを完成していくそうだ。
その点は俺にも理解出来る。
錬金術で俺も武器を作っているが、整備する時に刀身の状態や耐久値を見て、使い手にあうように調整している。
「主、お腹空いた」
三軒目が見終わったところで、ヒカリがお腹に手を添えながら言ってきた。
確かにそろそろお昼時か。
俺たちは屋台の立ち並ぶ一画まで移動すると、とりあえず全商品を購入して少しずつ食べることにした。
購入したものの中に好みの味のものがあれば、大量に買うことになる。
といっても、今回の購入でも人数分以上の量を購入してある。
これは俺たち用というよりも、今度知り合いに会った時に振舞うようだ。
特に料理に夢中なエリザたちは喜ぶに違いない。
ただ全体的に濃い味付けのものが多いと思い屋台の店主に尋ねたら、上客である人用に少し濃い目の味付けにしてあると言った。
「確かに酒に合いそうな味だ」
それを聞いたアルゴたちは納得していた。
上客=酒と鉄槌のクランの人たちみたいだ。
ダンジョンから出てきた時は、そのままクランハウスで宴会をするため、それこそ屋台で売っている品の大半を大人買いしていくそうだ。
全部を買わないのは、他の人に気を使ってみたいだ。
屋台の人たちが好意的なのは、そうやって買い物をしてくれるだけでなく、包丁などの調理器具も武器の製作で忙しい中嫌な顔一つしないで注文すると作ってくれるかららしい。
食事と話が終わると、俺たちは再び装備品を見に戻ってきた。
時間が経ったからか、午前中よりも人の数は少なくなっている。
「お、あそこに入ってみようぜ」
アルゴに引っ張られて入ったのは酒と鉄槌の看板の掛かった店だ。
ただし他の店と違って、ここには客が一人もいなかった。
だからか店番をしているドワーフも暇そうに……はしていなかった。
チラリと一度俺たちの方を見たが、すぐに手元にある短剣に目を落とした。
どうやら出来栄えを確認しているみたいだ。
店内が空いている理由は、店に並ぶ武器を見てすぐに分かった。
値段が今までに見てきた店と比べて格段に高いからだ。
今の俺たちなら一人一つ購入するだけの財力はあるが、一般の人たちではなかなか手を出せない値段になっている。
ルリカもそれが分かっているのか、恐る恐るといった感じで武器を手に取り感嘆の声を上げている。
逆にヒカリは値段なんか気にした様子もなく、無造作に手に取り感触を確かめている。
「ふむ、気になったものがあるかな? 攻略者たちよ」
そんな俺たちに、ふとカウンターに座っていたドワーフが話し掛けてきた。
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