第689話 ヘルク
「攻略者?」
「うむ、ズィリャダンジョンを攻略したのじゃろう? 向こうでは結構な騒ぎになっておるようじゃよ? ああ、わしはヘルク。一応酒と鉄槌の現代表者の一人じゃ」
ヘルクはそう言うとニカッと笑った。
好々爺といった印象を受けたけど、その目は鋭く俺たちの方を観察するように見ている。
「ヘルクのおっちゃん、そんな風に見ると怖がられるぞ?」
「何を言う。こやつらもお主らと一緒にダンジョンに行った攻略者なんじゃろ? このぐらいで怯むたまじゃないじゃろう」
アルゴが窘めようとするけどどこ吹く風だ。
多少の居心地の悪さを覚えるけど、不快なわけではない。
ただ何となく、観察されているような感じを受けた。
そう感じたのは気のせいではなかったことがすぐに分かった。
「ふむ、良い装備品じゃ。武器も良いし、防具も見た目は一般的なものと変わらないのに、使っている素材が凄い! 一体何処で購入したのじゃ? それにアクセサリーも、どれも魔道具じゃないか⁉」
と驚きの言葉が次々と出てきた。
目利き、というレベルではないよな?
もしかして……。
「うむ、わしは鑑定持ちじゃ」
俺が答えに辿り着く前に、ヘルクはあっさりと答えた。
見ず知らずの人間に簡単にスキルを教えるなんて……。
「いや、なかなかいいものを見せてもらった。わざわざ昨日アルゴを捕まえて頼んだ甲斐があったわけじゃ」
アルゴが言うには、昨日アルゴたちもここの店に寄って、色々と聞かれたそうだ。
ダンジョン攻略の話もさることながら、使っている装備や、ダンジョンで入手した魔道具のことなどなど。
ちなみにヘルクが鑑定持ちなのは、アヴィドの住人なら全員が知っていると言われた。
さらには酒の鉄槌のクランには、鑑定持ちが二桁いるとも。
最初から持っていた者もいれば、鉱石を掘っている時に習得した者もいるという。
ただしその鑑定はアイテム限定だということだった。
それでも鍛冶師として鑑定を使えるのはアイテムの状態を視ることが出来るようになるから有利だと言った。
うん、それは分かる。
思わず頷きそうになって堪えた。
下手に動くと俺が鑑定を使えるとバレるかと思ったからだ。
「それより頼まれた?」
「ああ、昨日この店に来た時にアヴィドに来た目的を聞かれてよ。俺たちは装備を見に来たことを伝えて、ソラたちがダンジョンに行くかもしれないって話をしたら、連れて来てくれと頼まれたんだ」
「その通りじゃ。あ、じゃが別にライバル視しておるわけじゃないぞ? わしらは他のクランと違って何かを競ってるわけじゃないからのう。勝手にライバル視する奴らはおるが。わしらは自分たちのために普通に活動してたら、気付いたら五大クランなんてものになっておっただけじゃ。わしらはただただ己の欲求を満たすために活動しておるだけじゃからのう。そう、究極の一振りの武器をこの手で作りたいのじゃ!」
ヘルクの話では、元々は純粋な鍛冶師の集まりだったそうだ。
ただドワーフということもあって、人類至上主義の帝国内では差別を受けていた。
そのため鍛冶をするために必要な素材がなかなか手に入らない。
それは意図的に売ってもらえなかったり、売ってもらえても相場の倍以上の値段だったりと酷かったという。
そこで帝国を去るかどうかの選択に迫られた時に、自分たちで素材を入手すればいいという結論を出した。
そこにはここアヴィドのダンジョンからは、良質な鉱石が採れるという事情もあった。
そこで結成されたのが酒と鉄槌というパーティー。ドワーフ五人だけで始まったパーティーは、やがて志を同じにしたドワーフたちが集まり、一緒に攻略して、鍛冶で腕を磨き合い、徐々にその名が知れわたるようになった。
さらにヘルクたちの打つ武器に魅了された人間や獣人の鍛冶志望の者たちが弟子入りをしたりと人が増え続け、やがてクランを立ち上げて現在に至った。
今では他の国からも弟子入りを希望する者がくるほどだとか。
「えっと、話が逸れたけど、俺たちが連れて来られた理由は?」
話が逸れたので修正する。
まさか俺たちの武器を見たいがために連れて来られたわけじゃないよな? それとも見たいだけだった?
「そうじゃったそうじゃった。まあ、アルゴに頼んだのは、繋がりを得たかったからじゃのう」
「繋がり?」
「うむ、もしお主らがここのダンジョンも攻略する気でおるなら、三階で採れる素材を優先的に売ってもらおうと思ってのう」
「自分たちでも採りにいっているんだよな?」
「もちろんじゃ。じゃがわしらではどうしても行けない場所というのはある。特に三階は、他と違って複雑じゃからのう」
確か三階はフィールド型で、ゴーレムだけでなく水系の魔物も出るらしい。
そのため戦い方も大きく変わって難易度も上がる。という話を昨日聞いた。
そのかわり、ここでしか採れない素材……鉱石も存在するとも言っていた。
「過去にはアダマンタイト、オリハルコンが発見されたなんて記録も残っておる。長年掘っておるが、未だ発見には至ってないがのう」
ヘルクが悔しそうに言った。
そんな貴重な鉱石が手に入れば、鍛冶師としては嬉しいに違いない。
それこそヘルクが満足する、究極の武器を作ることが出来るかもしれない。
「えっと、まあ、たくさん見つけたら売るよ。俺も武器作りはするから、残ったらになるけど」
確約は出来ないけど、ヘルクに優先的に売ることは可能だ。
それを告げると大いに喜び、そのはしゃぎようはまるで子供のようだった。
その後は俺たちの装備品を詳しく見ては意見を述べるなど、生き生きとしていた。
途中ヒカリたちは飽きたようで先に家に帰ったが、俺は最後まで解放されずに、家に戻った時はすっかり日が暮れて夜になっていた。
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