第687話 人気者

 ズィリャの町を発ってから一〇日が過ぎた。

 現在俺たちはレンタルした馬車で帝都を経由してアヴィドの町を目指している。

 やはり知り合いだけで気楽に旅をしたいからだ。帝国は傲慢な人が多いから、絡まれると疲れるからな。特にうちは女性が多いから。

 当初の予定通りなら、ズィリャの町ではダンジョンの一〇階ボスが倒されたことが発表されたに違いない。

 それを受けて町がどうなっているかは分からないけど。

 俺はミアの作ったスープの味見をした。うん、今日も美味しい。

 感想を伝えていると、剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。


「大人気だな」


 視線を向けると、そこにはルリカと模擬戦をするアルゴの姿があった。

 生き生きと剣を振るうルリカに対して、アルゴは汗だくだ。動くたびに汗が飛び散っている。

 ルリカの前にヒカリやセラ、リックたちとも模擬戦をしていたからな。

 一〇階のボスの止めを刺したアルゴの評価は上がり、努力の人ということも知れ渡ったことでルリカたちはアルゴに教えを乞うように模擬戦を挑んでいる。

 俺も何度かアルゴと話して、時々模擬戦をした。

 それで分かったことは、絶妙な力加減の調整だ。

 同じ剣戟なのに、力の入れ方を調整することで威力や速度を微妙に変えてきた。

 そのため受け止めたと思った攻撃が擦り抜けていき、一撃を食らうことが度々あった。

 シンプルにタイミングをずらしているだけなのに、それを意図的に様々な方法で実践することで最大限の効果を出している。

 派手さはないが、学ぶことが多い。


「それでソラ、あの子はどうするんだ?」


 アルゴとの模擬戦のことを考えていたら、ギルフォードが尋ねてきた。

 ギルフォードの言うあの子とはカイナのことだ。


「アヴィドに到着してから考えるよ」


 迎えに行くにしても、転移用の魔道具を設置する場所は必要だからな。

 ズィリャの町を出発する前に呼び出すと目立つと思い控えた。


「お、終わった……」


 ギルフォードと話していると、フラフラとした足取りでアルゴがやってきた。

 辛そうではあるけど、文句一つ言わずに相手にしているんだよな。

 その後交代で見張りをして休んで、朝日が昇って朝食を済ませると馬車を走らせた。



「あれがアヴィドの町……」

 鍛冶の町ということもあって、町に近付くと立ち上る煙が多く見えた。

 道中多くの馬車とすれ違ったのは、ここで武器を仕入れる商人が多いからだ。

 また商人だけでなく冒険者も多くこの町に訪れる。

 目的はダンジョンではなく、鍛冶師に自分に合う武器を作ってもらうためだ。

 量産型と違い高額な料金が発生するが、それでも後を絶たないと言う。

 特に五大クランの一つ『酒と鉄槌』への依頼は、予約待ちが出るほどだとか?

 これはたまたま近くで野営をすることになった商隊の人から教えてもらった。

 そのクランはドワーフを中心に構成されていて、クランのメンバーは皆そのドワーフたちに弟子入りをした人たちだってことだ。

 そのクランのモットーは自給自足。自分の打つ武器の素材は自分で手に入れろという方針で戦う鍛冶師ということだ。

 町に到着すると、まずは商業ギルドが管理している厩舎へ向かった。

 そこでレンタルした馬車の返却手続きをしたら、そのまま商業ギルドへ向かう。

 ズィリャの町の商業ギルドで馬車をレンタルした時にアヴィドに行くことを伝えた時に、長期滞在する場合は宿よりも家を借りた方が安上がりだという話を聞いたからだ。

 いくつかの家を紹介されて、俺たちは一軒の家を借りることになった。

 一一人だと手狭に感じるが、アルゴたちは装備品を見たら共和国に行くということでその家に決定した。

 あとは手頃な価格で泊まれる宿が何処も一杯という事情もあった。


「悪いな」


 アルゴたちは謝ってきたが、もともと部屋にあったベッドをアイテムボックスに一時的に収納すれば、十分スペースは確保出来るから問題ない。

 その後はアルゴたちと別れて、俺たちは冒険者ギルドに向かった。

 アルゴたちはこれから装備品を見に店を回ってくると言っていた。

 冒険者ギルドに入ると、まだ昼間だと言うのに多くの人で溢れていた。

 そのせいかギルドに入った瞬間多くの視線に晒されることになった。

 人が多い理由はダンジョンの説明を受けて分かった。

 アヴィドダンジョンは一、二階は洞窟型、三階はフィールド型で、壁や岩を掘ることで鉱石を入手出来る。

 もちろんその中には何の価値もない石も存在する。

 注意する点は入手した石をそのまま直接地面に置いて放置すると、消えてしまうということだ。

 この点は他のダンジョンと同じだ。

 そのため台車を用意するのが一般的だ。

 またダンジョンであるため魔物も出る。

 出る魔物はゴーレムと……半魚人などの魔物らしい。

 そしてギルドの酒場で昼間から飲んでいる理由は、マジョリカダンジョンでもあった変遷の時期だからだそうだ。

 変遷は定期的に起こり、採掘していた壁や岩が全て修復される。

 修復されるべき場所に人がいた場合はそのままで、壁に呑み込まれるなどして命を落とすことがないらしい。

 ただ変遷直後はダンジョン内に魔物が溢れるため、避難しているそうだ。

 変遷直後は魔物が多いが、通常時の魔物の湧きは比較的少ないということだ。

 もっともその魔物を狙ってダンジョン内にあえて残る者もいると受付の人は教えてくれた。

 必ず出るとは限らないが、ミスリルゴーレムも出るという話でそれを狙う人が多いみたいだ。

 かなり倒すのが難しいという話だが、倒すことが出来れば大金持ち間違いなしだな。

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