第686話 次の目的地

 ベッドに横になると息を吐いた。

 マジョリカやフォルスダンジョンと違い、神様との会話はなかった。

 俺は左手を天井に向けて伸ばし、そこにある腕輪に目を向けた。

 そう、あのような神様との会話……接触はなかったが、一〇階のボス部屋から出る時に神様の力が腕輪の中に流れ込んできた。


『理由は理解した。力を貸そう』


 それがその時に聞こえた声だ。

 クリスたちにそのことを話したら、聞いていないということだったから俺だけに聞こえたようだ。

 だからダンジョン攻略をしたのに何事も起こらずダンジョンから出たため少し戸惑っていたのか。

 一応何度か心の中で会話を試みたけど、それ以上の反応はないため、今度アルテアのダンジョンに行った時にエリアナに報告というか相談するしかないか。

 それにもしかしたら向こうに行けば姿を現すかもしれない。

 声だけだから何の神様なのか分かっていないが、たぶん鬼神なんだと思うが……。



 その翌日。朝食を済ませた時に近いうちにアルテアに行きたいことをクリスたちに伝え、その後俺とクリス、アルゴとギルフォードの四人でギルドを訪れた。

 今回俺たちがギルドに足を運んだのは、宝箱から手に入ったアイテムの鑑定を行うためだ。

 これは資料に掲載するためというのもあるが、本来なら宝箱から入手した魔道具は、どんな効果のものなのかが分からないため、ギルドで鑑定してもらうのが一般的だからだ。


「空気が重いな……」


 アルゴの言う通り町の中は重苦しい雰囲気に包まれている。

 耳を傾ければ漆黒の名前が聞こえてくる。

 盛り上がっていた分、散々な結果での帰還でその反動がきたのかもしれない。

 これがただの一パーティーや規模の小さなクランならここまでのことにはならなかったと思う。

 やはり漆黒がこのダンジョンで一番勢力があって、ダンジョンを攻略するなら漆黒しかいないだろうと多くの人が思っていたというのもあるはずだ。

 ギルドの中に入ると、時間をずらして来たというのにギルド内には二〇人ぐらいの人がいた。

 壁に貼られた依頼票を見ている人もいれば、併設された酒場の席に着いている者もいる。

 俺たちが顔を出すと昨日の受付嬢が視線で奥の通路を指し示した。

 俺たちはそれに従い奥の通路に入って行くと、階段を上ってある部屋に向かった。

 ノックをして部屋に入ると、部屋の中には二人のギルド職員が控えていた。


「それではよろしくお願いします」


 ギルド職員に促されて、俺はアイテムボックスから三つのアイテムを取り出した。

 期待に籠った視線がそのアイテムに注がれる。

 職員はテーブルに置かれたアイテムを恐る恐るといった感じで手に取り、アイテムの仕様を解析する魔道具の上に置いた。

 解析された魔道具の名称、性能をメモしながら職員は興奮している。

 一番喰い付きの良かったのはスキルリングだ。

 話し合った結果、身代わりの指輪に関しては内緒にすると決めたからあれはアイテムボックスの中に収納したままにしてある。

 あの性能だとトラブルの原因になるかもしれないと判断した結果だ。

 それこそ手に入れるために襲われるなんてこともあるかもしれない。

 あとは付きまとわれるとか?


「これらの魔道具をどうしますか?」

「全部使う予定だ」


 質問に対してアルゴは短く答えた。


「……分かりました」


 少し残念そうな声音だったけど、所有権は俺たちにあるからそれ以上口を挟んでくることはなかった。

 それが終わると最後にボスの鬼人がどのような魔眼を使ってきたのかの質問を受けた。

 解析で名称は分かっているが、それをそのまま伝えることが出来ないから、どんな感じなのかを説明して、それが終わると宿に戻った。

 宿に戻ると、今度は皆で今後の話し合いだ。

 ダンジョン攻略中も時々話をしていたが、俺たちはこのまま次のダンジョンに向かう予定だ。

 場所はボースハイル帝国のアヴィドの町だ。

 ここは一風変わったダンジョンで、魔物を倒すというよりも鉱石を掘るのが主流になっているダンジョンだ。

 そのため鉱山ダンジョンと呼ばれたそこは、三階層しかないが、一つの階層がかなり広いということだ。

 下に行くほど貴重な鉱石が入手しやすくなるが、次の階層に行くための条件というのがまた変わっている。

 何でも次の階層に行くには次の階層に続く扉を開くために鉱石の納品をしないといけないそうだ。

 これは自分で掘る必要はなく、別に購入してもいい。

 ただその場合かなりの費用が必要になるという話だ。

 あと納品の品には魔物の魔石もあって、これはダンジョンに出る魔物の魔石らしい。


「アルゴたちはどうするんだ?」

「あー、俺たちもアヴィドに行こうかと話してた。あ、ただ目的はダンジョンじゃなくて装備を新調しようかと思ってな。資金も貯まったし」


 アヴィドはダンジョンの町であると同時に、もう一つの顔がある。

 それは鍛冶の町としての顔だ。

 豊富な鉱石が採れるのもあって、鍛冶師の多くが集まった結果だ。

 その鍛冶師の中には、帝国に残って住み続けているドワーフたちもいるということだ。

 確かそのドワーフたちが作ったクランがあって、そのクランが帝国の五大クランの一つという話だ。


「なら明日は馬車でも探すとするか」


 アヴィドはズィリャの町からちょうど東に位置しているが、行くには一度帝都ハイルを経由する必要がある。

 ズィリャから直接行けなくはないが、行くには森の中を突っ切らないといけないからな。

 俺としては森の中を散策しながら行くのもありと思うが、凶悪な魔物が時々出るという話を聞いたし今回は諦めることにした。

 まあ、今の面子メンツなら問題なく行けそうだとは思ったけど。


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