第685話 攻略者と帰還者

 ダンジョンから戻ってくると、ギルド内は閑散としていた。というか、ギルド職員以外いない。

 まだ昼真っ盛りだし、冒険者たちは狩りに行っている最中なのだろう。

 日帰りで狩りに行く人たちも朝早くダンジョンに入り、日が暮れるか夜中に帰ってくる人が多い。

 この時間で戻って来るのは泊まりでダンジョンに潜っていて、目的を達成した人たちだ。


「人がいなくてよかったな」


 さすがにダンジョンを攻略した以上、その報告は必要だ。

 受付嬢によっては黙々と手続きをしてくれる人もいるが、驚いてつい大声を上げる人もいる。

 エレージア王国のギルドの受付嬢のミカルは後者にあたる。

 アルゴが代表してダンジョンカードを渡すと、その受付嬢は手続きを開始して動きを止めた。

 一度俺たちの方を見て、再び視線を手元に落として手続きを再開した。


「もし、オークションが必要でしたらお声を掛けて下さい。それと攻略の件はどうしますか?」

「そうだな……俺たちは一〇日以内にここを引き上げると思う。発表をするならその後で頼む」


 ダンジョンが踏破されたことはどうせ発表される。

 誰であれ、ダンジョンの攻略者が出れば活気が出るからね。

 公表の差し止めは無理だとアルゴも分かっているから、アルゴも俺たちがズィリャから旅立ったあとにするように頼んだに違いない。

 まあ、本来ならダンジョン攻略は名誉なことだから、普通の冒険者ならむしろ大々的に言ってくれというのが普通なんだろうけど。

 それを聞いた受付嬢は、


「分かりました」


 とだけ言って頭を下げた。


「それとオークションの件は、あまり期待しないでくれ」


 アルゴは最後にそう伝え歩き出したため、俺たちもその後を追った。

 即答出来ないのは仕方ない。

 俺たちの中でもまだどうするかを決めていないのだから。

 ただ性能的に、アルゴの言ったように手放す可能性は極めて低いと思う。

 受付嬢がオークション云々の話をしたのは、一〇階のボス部屋で出る宝箱からはレアなアイテムが高い確率で手に入ることが分かっているからだ。

 これは資料にも過去にどんなアイテムが入手されたかが記載されていた。

 宿に戻ると個室を借りて、そこで話し合うことになった。

 少し早いけど食事をしながらの話し合いは、マジックリングとスキルリングをアルゴたちが、身代わりの指輪と魔導の腕輪は俺たちが手にすることになった。

 アルゴたちもまだまだ冒険者を続けるようだ。


「それでスキルリングに登録するスキルなんだが、二つはミアに頼みたいんだがいいか?」


 アルゴたちはミアのヒールとリカバリーを登録してもらいたいみたいだ。

 確かにミアのヒールとリカバリーがあれば心強い。


「残りの一つの枠はどうするんだ?」


 と尋ねると、


「……少し考えさせてくれ」


 という答えが返ってきた。

 攻撃系の魔法にするか、祝福などの補助魔法がいいかを迷っているそうだ。

 このスキルリングの面白いところというか優れているところは、使用したスキルの効果が単体ではなくて範囲内に効果を及ぼすというところだ。

 だからヒールも、一人ではなくて範囲内の複数人を同時に回復することが可能だ。

 強力な分、各スキルの一日の使用回数が一という制限があるわけだ。

 話し合いが終わり、本格的に食事を頼んで料理を食べる。

 話し合いの間も食べ物をつまんでいたけど、ボスとの戦闘中は休憩をしても何かを食べるということはなかったため夕食は多めに食べたためいつもよりも時間がかかった。

 食事を終えて個室から出た時には、食堂には多くの人たちが集まり、料理とお酒を楽しんでいる姿があった。

 個室は音を完全に遮断してくれるから気付かなかったが、それはここの宿の食堂のいつもの光景だ。

 食堂を利用している多くの人が宿泊客ではなくて食事のみの利用者だ。

 宿泊で利用しているのは俺たち以外だと商人で、冒険者たちは別の宿に泊まっている。

 それだけここの宿の食事が美味しいという証拠だな。

 そこに慌ただしく一人の冒険者が入ってきた。

 その冒険者は胸を大きく上下させ、苦しそうに顔を歪めながら息を整えると口を開いた。


「し、漆黒の連中が帰ってきた!」


 その一言で室内は静まり返った。

 けど言葉を発した冒険者の表情は浮かない。

 それはダンジョンから帰還した人数が、四割も減っていたからだ。

 しかも生存者の多くも満身創痍で、その顔には疲労の色が濃く見えていたそうだ。

 話を黙って聞いていた冒険者は漆黒の有様に困惑している。

 仕方ない。

 俺たち以外の冒険者たちは、漆黒が長い時間ダンジョンに籠っていたのは一〇階での狩りが出来ていたからと思っていたみたいだからな。

 そんな中一〇階で狩りをしていた俺たちに食堂の人たちが気付いたものだから注目を浴びた。

 もちろん一〇階がどんなところかも聞かれたが、それに対してアルゴは曖昧に笑い、逃げるように階段を上っていった。

 鬼人に関してだったら話してもいいと思うが、それでもボスとの戦いで消耗している今は、休みを優先したといったところだ。

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