第682話 ズィリャダンジョン・34
リックたちは見事な連携で鬼人を攻撃していったが、対する鬼人も守り主体でその攻撃を防ぎ切った。
次に戦いを挑んだアルゴたちも、その次のルリカたちも鬼人に一太刀も与えることが結局出来なかった。
俺たちはだいたい三〇分を目安に、あとは疲労具合をみて交代を繰り返してその後も鬼人と戦っていた。
「ミアも一度休んだらどうだ?」
戦闘が始まりそろそろ四時間になる。
その間鬼人は睡魔の魔眼を何度か使ってきたが、影の魔眼と強化の魔眼は使ってきていない。
それだけ鬼人にはまだ余裕があるのかもしれない。
あとは資料にもあった通り、挑戦者を倒すというよりも、守りを主体に戦うというスタイルだからかもしれない。
イメージ的にはこのボス部屋を突破させない、守るといった感じなのだろうか?
それを考えると、マジョリカやフォルスダンジョンの最奥にいたボスとは少し毛色が違う。
ミアは俺の言葉に少し迷いを見せたが、次に俺たちが戦う時に休むと言ってきた。
俺はそれを受けてヒカリに光属性を付与する。
これは万が一影による攻撃をしてきた時の対策だ。
ミアも休む前に祝福を使い離れた位置まで移動した。
鬼人から離れた位置から補助魔法を使っていたとはいえ、ボスと対峙しているから立っているだけでも疲労は溜まる。気を抜くことが出来ないから。
それに影の魔眼を使われてもすぐに対処するため神経を尖らせてもいたからな。
俺はミアを見送り、ルリカたちと交代して三度目の戦いを鬼人に挑んだ。
記憶で鬼人の行動をある程度覚えて予測しながら攻撃しているのに、俺の剣も鬼人に届かない。
それに今までの戦いで鬼人には魔眼以外にも特製……スキルを持っていることもなんとなく分かった。
少なくとも感知系のスキルは確実に持っているはずだ。
俺がそう思う根拠は、ヒカリやルリカ、セラへの対応があったからだ。
ヒカリたちが魔力を運用して攻撃すると、雰囲気が一気に変わった。
思い返せば、鬼人が睡魔の魔眼を使ってきたのもその時だった。
セラの一撃が当たるかと思った瞬間使い、セラの動きが鈍って空を切ったんだった。
そのことを踏まえると、鬼人が魔眼を使う条件というか使う時は自分がピンチになった時だ。
まずは追い詰めてその全てを引き出す。
いや、強化は多分自身を強めることだから知りたいのは影の魔眼だ。
影の魔眼はどんな効果があるのか。
守りだけなら影の障壁による攻撃の妨害と、緊急離脱の影移動が濃厚になるのか?
攻撃に使うなら影を使っての貫き攻撃? になるかもしれないが、これはミアの祝福や光属性の付与で防ぐことは十分可能だと思う。
が、祝福も光属性による保護も耐久力を越えたら効果が切れるから完封出来るとは考えない方がいい。
俺は魔力を全身に巡らせて身体能力を上げる。
ステータス画面を呼び出してMPを見ればゆっくりだけど減っている。
俺は並列思考で時々減り具合を確認しながら剣を振るう。
剣の速度が上がるが、鬼人は剣を巧みに動かし、また足を使ってそれを回避する。
ヒカリもタイミングを合わせて死角から攻撃するけど、それも手甲を使って受け止め、時に足を使う。
俺はMPがそろそろなくなるというタイミングで変換を使ってMPを回復しようとして、止めた。
まだ手札は残しておいた方がいい。
魔力による強化時間は、ここが限界だと鬼人に思わせるためだ。
結局俺たちはそのままリックたちと交代し、アルゴたちの番がきた。
「クリス、お願いね」
そしてルリカたちの番が回ってくる段階になって、ルリカはクリスに声を掛けた。
クリスは頷き杖を構える。
まだ鬼人の近くにはアルゴとギルフォードがいるがクリスは詠唱を開始する。
唱えるのは風の精霊魔法。
魔力がクリスの杖に一度集まり、やがてルリカとセラのもとに流れていく。
魔力が二人を包み込む。
それが終わるとミアが祝福を、俺は光属性を付与する。この時魔力を通常よりも多く使用した。
「ありがとうね」
「……うん、けど無理はしないでね」
額に味を滲ませたクリスがルリカたちを心配する。
杖は構えたままだ。
ルリカは僅かに頷くと、
「アルゴ!」
と声を掛けた。
その言葉を受けてアルゴとギルフォードが慌ててその場から離脱した。
ルリカはそれを見て一歩踏み出すとまるで飛んでいるかのように鬼人との間合いを一気に詰めた。
その動きはまるで疾風を使っている時のように速い。
それはルリカだけじゃない。セラも同じだ。
俺でさえ目で追うのがギリギリ。
練習していた時もそれについていけるようになったのは最後の日だった。
それも純粋に動きを追えたというよりも、記憶スキルで覚えた動きと、これまで何度も剣を交えたことによる経験がそれを可能にしたともいえる。
それなのに、鬼人はその初見のルリカの攻撃を躱し、セラの斧による攻撃を剣で受け……いや、吹き飛ばされた。
ある意味戦い始めて、鬼人が自らの意志ではない後退をした瞬間であった。
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