第681話 ズィリャダンジョン・33

 弾かれた反動を利用して、再度剣を振り下す。

 けど同じようにそれも防がれる。

 ただ今回違うのは剣を弾くのではなく、受け止められた。

 力が強い。

 鍔迫り合いでビクともしない。

 いや、むしろ負けている?

 この差は片手か両手かの差?

 俺は反対の手で盾を持っているが、鬼人は剣を両手で持っている。

 間近で見るその剣は、片手剣にしては大きいが、大剣と呼ぶには少し長さが短い。

 俺は盾をアイテムボックスに収納すると、剣を両手でしっかり握った。

 これで条件は同じ。

 ただ押し返すことは出来ない。

 力は互角か?

 俺はそこで一度後退することを選択した。

 膠着状態になると時間の無駄だし、鬼人の動きを後から戦う人たちに見せる必要がある。

 そこで俺に代わって攻撃をしたのはヒカリだ。

 離れた位置から素早く短剣を振るう。

 それに合わせて風の刃の斬撃が鬼人を襲う。

 対して鬼人は……その場で剣を振り抜いた。

 斬撃はその時に発生した風圧に阻まれて鬼人に届かない。

 斬撃が掻き消された?

 けどその時にはヒカリはもう動き出していた。

 鬼人に近接攻撃をするために。

 俺もヒカリに合わせて前に出て直接攻撃を試みた。

 鬼人はチラリとヒカリの方を見たが、俺の方に視線を向けると俺に対して剣を振ってきた。

 その剣戟を俺は受け止め、その間にヒカリは背後に回り込み斬りかかった。

 ヒカリの短剣が鬼人の背中を捉え……弾かれた。

 鬼人は服こそ着ているが、鎧などの防具は身に着けていない。

 防具らしいものは手甲と臑当すねあてぐらいか?

 服がどうなったかは分からないが、鬼人がヒカリを気にしなかったのは短剣では自分に傷を与えられないことを判断したからか?

 切れ味に関しては、同じミスリルの素材を使い俺が作ったから差異はないはず。

 そうなると単純に力が関係してくるが……。

 そんなことを考えていたら、鬼人が激しく剣を振ってきた。

 まるで自分にもっと集中しろとでも主張するように。

 その攻撃を受けながら、何が守り主体だと叫びそうになったが、今は余計なことを考えずに剣を振るう。

 正確にはその余裕が徐々になくなってきた。

 剣を交える時間が長くなると一撃一撃が重く、速くなる。

 しかもヒカリはその後も攻撃を試みたが、鬼人は完全に無視している。

 先ほどヒカリの斬撃による攻撃には反応したから、あれなら気を引くことは出来るかもしれないが、今は俺がいるためヒカリも使うことが出来ない。

 そこでヒカリが次にとった行動は魔力による攻撃力向上だ。

 するとそれには鬼人は反応を見せた。

 ミスリルの短剣に魔力を流しながらの斬撃を、鬼人は体を捻って躱した。

 いや、躱しただけでなく反撃のため剣を振り下ろす。

 それを俺が防ぎ、そこからは連携して攻撃を繰り返すが鬼人はそれを剣で弾き、手甲で受け止め、時にステップを踏んで躱してと攻撃が当たらない。

 その攻防が一〇分ほど続くと、まずはヒカリが離脱した。

 魔力が尽きかけたからだ。

 短剣だけに魔力を籠めていればここまで減らなかっただろうが、途中から体に魔力を流して身体能力も上げていたのが消耗を早めた原因だ。

 逆にいえば、そこまでしないと鬼人に対抗出来なかったということだ。

 その一番の理由は、鬼人の攻撃をヒカリは受け止めることが出来ないからだ。

 鬼人の力が弱ければ短剣でも斬撃を弾いて軌道をずらすことが出来たが、目の前の相手はそれを許してくれなかった。

 そのためヒカリは攻撃を防ぐには回避行動を取る一択になっていた。


「ヒカリ、少し休め。疲れた状態じゃ捕まる」


 俺の言葉にヒカリは素直に頷き、マナポーションを飲んでいる。

 これで魔力は回復するが、ヒカリはすぐには動かない。

 消耗しているのは体力も一緒だからだ。

 さらにヒカリの名誉のために言っておけば、ここまで体力が消耗しているのは俺のせいでもある。

 どうしても俺が鬼人と斬り合っているため、ヒカリが俺に合わせて動いてくれていたから、その分の負担もあったということだ。

 俺は一人で鬼人の相手をするが、どの攻撃も防がれる。

 そして気付く。

 鬼人は俺の攻撃を防いでいるが、途中から俺に攻撃を仕掛けてきていないことに。

 それに気付いた瞬間。鬼人は口に笑みを浮かべた。

 余裕からなのか……それともこの戦いを楽しんでいる?

 ふとそんなことを考えたからか、脳裏にスティアのことが浮かんだ。


「ソラ、そろそろ交代だ」


 そこで声が掛かった。

 俺は考えるよりも先に鬼人から離れると、入れ替わるようにクリフトが槍を突き出し、左右から斧を持ったリックと、剣を手にしたハロルドが鬼人へとそれぞれの武器を振り下ろした。

 それに対して鬼人の取った行動は実にシンプルだった。

 後ろに下がる。

 ただそれだけだった。

 それだけなのに三人の攻撃が全て空を切る。

 初見の攻撃なのに、まるで三人の武器による範囲が分かっているかのようだった。

 それでもリックたちは慌てることなく次の攻撃に移る。

 第二ランドの始まりだった。

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