第680話 ズィリャダンジョン・32
ボス部屋に入ると、そこには一体の鬼人が座っていた。
正座?
その鬼人の傍らには剣? らしきものが置かれている。
他に武器らしいものはないからあれが鬼人の武器だろう。
俺たちにとって戦いやすい武器なのは嬉しい。
鬼人は目を閉じているが、額にも目があることはここからでも確認出来た。
ただこの位置からだと解析は届かないから何の魔眼を使ってくるかまでは分からない。
ボス部屋の鬼人の魔眼に関しては、資料にも記述があった。
はっきり分かるものもあれば、あやふやな感想みたいな記述まで様々だ。
この辺りは鑑定持ちがいないと正確に判別するのは難しいから仕方ない。
そもそも俺が分かるのもある意味鑑定の上位スキルにあたる解析でやっと分かったぐらいだしな。
一つ眼、二つ眼が使う状態異常と攻撃系の魔眼に関しては、ダンジョンで戦ってきた鬼人が使ってきたものが多い。
三つ眼に関しては俺たちの知らないようなものまであるが、あくまで体感をしての感想だから、はっきりはしていない。
これはやはり解析で確認するしかない。
「それじゃ予定通り、俺たちから行く」
これは解析が出来るのが俺だからというのもあるが、たぶんこの中では一番防御に優れているというのもある。
「任せた。なんならそのまま倒してくれてもいいぞ」
「ん、任せる」
アルゴの冗談半分の言葉に、ヒカリが応じている。
「……ヒカリ、無理は禁物だからな」
「うん、命大事に!」
それが分かっていれば大丈夫だ。
それにまずは俺が前衛で戦い、ヒカリは後ろから斬撃で援護。
ちょっと不満そうだったけど、まずは相手の動きの観察をして、動きを確認してから連携を取って攻撃をする。
もし相手の力量が上で敵わないと判断したら、待機をしてもらうことにはなっている。
ダンジョンに俺たち全員が入り、背後で扉が消えると、鬼人は目を開けて武器を手に取るとゆっくりと立ち上がった。
たったそれだけの動作なのに室内の空気が張り詰めたものへと変化した。
鬼人は立ち上がったがそこからは動かない。
ジッと俺たちの方を見てくるだけだ。
俺は大きく息を吸い込んで吐き出した。
このままただ立っていると時間だけが過ぎていく。
ここでは時間を無駄にすることが出来ない。
俺は盾を構え、ゆっくり歩いて近付いて行く。
ヒカリも一定距離をあけて俺のあとをついてくる。
俺の斜め後方、射線に注意した位置にいる。
一歩、二歩と近付くにつれて、俺の心臓はドキドキと脈打っている。
その時体が温かいものに包まれた。
ミアの神聖魔法による補助だ。
高鳴っていた鼓動が徐々に治まっていく。
鑑定の範囲に入ったからまずは鑑定のスキルを使った。
【名前「——」 職業「——」 Lv「限界突破」 種族「鬼人」 状態「——」】
レベルは限界突破となっている。
そうなると少なくとも一〇〇は超えているということか?
これは心してかからないといけない。いや、もともとそのつもりだけど。
さらに解析可能範囲に入った。
鬼人はそこでゆっくりと剣を構えたが攻撃をしてこない。
守りの姿勢でジッとこちらを見ている。
体格が同じぐらいということもあるが、まるで人と対峙しているような感じを受ける。
俺は解析を使った。
一つ眼【睡魔】二つ眼【影】三つ眼【強化】
三種の魔眼持ちか。
睡魔は眠気を誘うというものだ。
眠らせるというよりも眠気を誘って集中力を低下させる感じだ。
地味な効果だがその一瞬の隙が致命傷となる場合もある。
一応既に体験済みだからそれを防ぐための魔道具は用意してある。
というか一つ眼の魔眼の状態異常に関しては、少なくとも資料に載っている、もしくは体験したものに関しては対策済みだ。
問題はあとの二つか。
影は厄介だ。影から影へ転移する影移動に、影を伸ばしての特殊攻撃。または影を纏うことで防御力を強化する防御方法。
特に影を纏われるとミアの祝福を剣に受けるか、光属性の剣でしか攻撃を当てることが出来なくなる。
銀の剣でも影の防壁を破ることは可能だが、それだと鬼人にダメージを与えられないかもしれない。これは銀の剣そのものの強度の問題だ。
あとは影の魔眼がどのようなルールで使われるかだ。
発動時に一回の効果を出すだけか、それとも制限時間が存在し、その時間内なら影に関する能力を行使出来るかどうか。
それによって難易度がかなり変わる。
前者だと連続使用は無理だけど、比較的発動間隔が短くなるが、後者だと一度使うと少し長めのクールタイムが必要になってくる。
これは使い分けが出来ないみたいだから、どっちのタイプかを探る必要がある。
……ミアの負担が増えそうだ。
最後の強化に関しては俺の強化スキルと同じだ。
至ってシンプルなスキルだが、使い手の能力次第では大きく化ける。
それこそ剣で斬り付けてもビクともしないほどの肉体に出来るかもしれない。
いくら俺でもそこまで高めることは出来ないが、もともと
そもそもその辺の店に売っている安物の剣だと斬り付けても傷一つ付けることは出来ないだろう。
なんてことを考えていたら剣の間合いまであと一歩というところまできていた。
俺はそこで立ち止まらずに一歩踏み込む。
その前に解析した結果を叫んでおいた。
当然叫ぶ俺にも鬼人は反応なし。間合いに入ったはずなのに動きもしない。
俺はそれを見て盾で身体を隠しながら剣を振るう。
速度を上げるためソードスラッシュを使っての一撃だ。
けどその斬撃は途中で弾かれた。
高らかに金属音を響かせながら。
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