第678話 ズィリャダンジョン・31

「残り八体か……それで、あっちはどうなってる?」


 ダンジョンに入るなり、アルゴが尋ねてきた。

 気になっているのはアルゴだけじゃなく、皆も同じのようだ。

 俺は早速ⅯAPを呼び出し、気配察知と魔力察知を使う。

 確かダンジョンに入った漆黒の人数は五四人だったはずだが……。

 まずは位置を確認すると、MAPの端の方に反応があった。

 これはかなり階段から離れた位置にいるということになる。

 魔力を流して範囲を広げて息を呑んだ。

 反応の数が減っている。

 何度確認しても四五しかない。

 それが現す意味は九人が命を落としたということだ。


「そうか……」


 それを聞いたアルゴは静かに言った。

 クリスは沈痛な面持ちで話を聞いている。

 ここがダンジョンである以上、リスクは間違いなく存在する。

 それを回避するために、色々な工夫を施し、対策を練っていく。


「それで残った連中は大丈夫なのか?」

「……今のところは、かな?」


 俺は漆黒の人たちを中心に、周囲の反応を見る。

 特に注視するのは、漆黒と階段の間にある鬼人の反応だ。

 勝手な思い込みであるが、漆黒ほどの経験のあるクランなら、ダンジョンに入ったらMAPの作製をしても不思議ではない。

 にもかかわらず今現在階段からかなり離れた位置にいる。

 もちろん今が戻る途中なのかもしれないが、三日前にダンジョンから出る時に見た漆黒の位置を考えるとその可能性は低いような気がする。

 鬼人と戦い、逃げた結果今いる位置まで移動したと言われたら納得がいく。

 もっともこれはあくまで俺の感想であって、実際のところはどうかは本人たちにしか分からない。


「それでどうするの?」


 ルリカが俺とアルゴを見て尋ねてきた。

 助けに行くかどうかを聞いてきているのかもしれない。


「ま、どうしようもねえな。ここは自分たちでどうにかするしかない」


 アルゴは言いきった。

 冷たいかもしれないが、ダンジョンに自分の意思で入った以上そこは自己責任だ。


「それにもし漆黒を追い詰めた存在がいるとしたら、それは間違いなく強い個体だろう。そのリスクを負ってまで助ける義務と義理はないだろう?」


 それこそアルゴの言う通りだ。

 曲がりなりにも鬼人を倒していたパーティーだ。

 もちろん今数が減っているのは、ただ単に俺たちが外に出ていた三日間で、鬼人と戦う最中で運悪く命を落としただけかもしれない。

 あくまでアルゴは俺が告げたMAPからそのように仮定して話しているだけ、なのだから。


「それにソラやクリスの能力があるとはいえ、他のことに気に取られてる余裕はないはずだぞ」


 それにはルリカも頷いている。


「それでソラ、俺たちはどっちに行けばいいと思う?」

「……まずはクリス、頼めるか?」


 結論を出すのはクリスの感知魔法の結果を聞いてからだ。

 見えない存在を感知出来るとはいえ、三つ眼の個体である以上可能なら戦いを回避したい。

 その結果。俺たちが進むべき方向が決まった。

 漆黒……の連中がいる方ではない。

 漆黒というか、帝国の人間に対する心証が悪いと思っているのは認めるが、あくまで進む方向を選んだのは鬼人の数や位置を考慮した結果だ。

 実際それは正しく、俺たちは遭遇した鬼人八体を問題なく狩っていった。

 三つ眼の鬼人と一度戦い苦戦を強いられたが、被害を出すことなく倒すことが出来た。


「これであとは帰るだけだな……」


 アルゴは安堵のため息を吐きながらチラチラと俺の方を見てきた。

 今回通ってきた道をそのまま戻ると、一回だけだが戦闘をすることになる。

 ということは少し遠回りになるが、それを避けるために迂回した方が良さそうだ。

 俺がそのことを告げると反対は特に出なかった。

 それとMAPで見た漆黒のことも告げた。

 もっと俺たちが鬼人を追っている間、漆黒には特に動きがなかった。

 人数もそのままだ。


「食料に関しては余裕を持って挑んでいるはずだ。どれぐらいの期間を想定して潜っていたかにもよるけどな。それでも動かないのは体力か、もしくは負傷者の回復を待っているのかもしれないな」

「あとは身動きが取れないか、だな。ソラの話を聞くと、どの方向に向かっても鬼人がいるみたいだしな」


 アルゴに続きギルフォードが口を開く。

 相手がいることを察知出来るだけの力量があると、囲まれていると思うかもしれない。

 実際に囲まれているが、鬼人は率先して漆黒の方に行こうという動きではない。

 それこそ今いる場所から動かなければ、鬼人は攻めてこない。少なくとも俺が見ていた間の鬼人の動きからはそんな感じを受けた。

 もっともそんなことを知らない漆黒の面々としては生きた心地がしないかもしれない。

 すぐ近くに敵がいるわけだから。


「ま、どうするかは結局今いる奴らの判断だな。あとは漆黒にどれぐらいの戦力が残っているかだ。ダンジョン内にいる奴ら以外のな」


 元々決まっていた探索日数で戻らなかった時に、町に残った漆黒のメンバーが助けにいけるかどうかだとアルゴは言いたいんだろうな。

 そして俺たちがダンジョンに出るまでの間、漆黒に動きは見られなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る