第677話 ズィリャダンジョン・30
「ヒカリちゃん、助かったさ」
「そうね。二人が援護にきてくれてから急に動きが悪くなったわよね」
お礼を言うセラとルリカに対して、
「まったく、もっと早く援護に来てくれてもよかったんだぞ」
とアルゴはギルフォードに呼吸を整えながら文句を言っている。
冗談半分の口調からは、責めているような雰囲気ではなくて、どちらかというと愚痴に近いかもしれない。
「いやいや、アルゴたちならすぐに終わると思ってたからよ」
そんなアルゴに対して、ギルフォードは扱い方を熟知しているのか肩を叩きながらそんな言葉を返していた。
他のメンバーであるリックたちは、遠距離攻撃によって鬼人の攻守のバランスが崩れたことから、あの鬼人は近接戦闘特化型で、遠距離に弱い個体だったのかもしれないと考察している。
ヒカリとギルフォードも遠距離攻撃は出来るけど本職ではないからな。
その白熱しそうになった議論をアルゴが収めると、俺たちは再び探索に戻った。
結局この日はさらに追加で四体倒し、これで討伐数が四〇体になった。
これで残り一〇体。
クリスの感知魔法のお陰で順調ではあるが、これからは時間がかかりそうだ。
「どうしたのソラ、浮かない顔をして」
「ああ、鬼人のいる場所がな」
俺はミアに答えながらMAPに目を向ける。
魔物の反応を追って階段からはかなり離れた場所まで来ていた。
周囲を見ると鬼人の反応はそれなりにあるが、偏りが酷い。
例えばここから一番近い反応まで、だいたい歩いて三時間といった距離だ。
ただ問題は、その反応の近くに、他に五体の反応がある。
反応が固まっているのは極めて珍しく、今まで遭遇したことがない。
MAPを広げてみると、このように一カ所に集まっている場所は他にもう一カ所あるだけだ。
ではこれを避けて別の反応の方に向かうとなると、歩いて半日以上はかかりそうな位置にいる。
「リスクを回避するなら離れた場所一択だな」
「それならいっそ階段の方に引き返しつつ別の方に足を向けるのもありじゃないか?」
俺の話を聞いていたアルゴとギルフォードが互いに意見を出し合っている。
「戻るルートに鬼人の反応は?」
「……二体いるな」
「ならそれを倒して一度戻りましょう。クリスも大変でしょ?」
「ルリカちゃん、私なら大丈夫だよ?」
「んー、無理はしてなさそうだけど、やっぱ疲れがみえるかな?」
俺には分からないが、ルリカにはクリスの状態が分かるみたいだ。
あ、セラも頷いている。
「なら少し早いが今日はもう休んで、明日からは階段を目指すか?」
俺の言葉に皆が頷くと、早速アイテムボックスから料理を出していく。
「戻ったらまた作らないとかな?」
「まだまだ余裕はあるぞ?」
「けどダンジョン内だと料理しにくいし、何が起こるか分からないじゃない」
ミアの言うことは分かるが、俺のアイテムボックス内には二ヵ月は余裕でもつだけの料理がまだある。
料理していない食材を含めたら半年近く、そこにまだ解体していない魔物を入れればさらに日数は延びることだろう。
これは減ったらその都度食材を購入し、ダンジョンで魔物を狩ればさらに魔物肉が補充されていく結果だ。
町の中を歩いて美味しい屋台の店を見つけたら、お土産にまとめ買いしているというのもある。
食事が終わると、クリスは感知魔法を使い、感じ取った魔物の位置を俺に伝えてきた。
俺はそれをMAPと照らし合わせると、通路に罠を設置して、前回の探索から使用している板の壁を設置する。
今回寝床に選んだのはT字路で、そこに板を並べることで通路がないと錯覚させる。
この辺は鬼人が道を知っていれば違和感に気付くかもしれないが、冒険者だと気付くのは難しいと思う。
地図でもあれば別だけど。
こうして俺たちは交代で見張りをして夜? を過ごすと、その翌日階段に向けて出発した。
その帰路で予定通り二体の鬼人と戦うことになったが、今回の戦闘ではリックたちが鬼人と戦い倒した。
うち一体は幻惑の魔眼を使ってきたが、既に人数分の無幻の瞳を作ってあるため俺たちには効かない。
「素材はどうする?」
「んー、とりあえずソラが持っていてくれればいいぞ。何かに使う時があるかもしれないだろう?」
「けどそうなると……」
「あー、金のことは気にするな。食事やら消耗品やらはソラたちが出してくれてるもんだしな。それにここまでで十分過ぎるほど稼いでるからな」
アルゴに同意するようにギルフォードたちも頷く。
ここで問答してもアルゴたちの答えは変わらないだろうし、とりあえずこの話はここのダンジョン攻略が終わってから話した方が良さそうだ。
食事や消耗品とアルゴたちは言うが、ダンジョン攻略の労力を考えると安すぎると思う。
結局ダンジョンから戻って三日。俺たちは宿で体を休めながら過ごした。
さすがに三日間籠っていることをしないで、町にも出た。
その時は相変わらずアルゴたちのパーティーから誰かが付き添ってくれた。
その間も町の話に耳を傾けていたが、その間漆黒の面々が戻ってくることはなかった。
そのためさすが漆黒と叫ぶ声もあれば、もしかして全滅したのではと心配する声も上がっていた。
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