第676話 ズィリャダンジョン・29
ダンジョンに入って五日が経った。
これで前回来た時よりも長くいたことになる。
「クリス、大丈夫か?」
「はい、もう魔力は完全回復しています」
答えるクリスはやる気に満ちている。
ダンジョンに入って四日目。昨日になるわけだけど、クリスの魔法が消えている鬼人を捉えた。
それにより奇襲を受けることなく、戦うことが出来た。
この鬼人が発見されるまでの間、日に日にクリスは俯きがちになっていたけど、それも今はない。
一応俺のMAPと照らし合わせて反応を拾えていたけど、見えない個体を本当に感知魔法で捉えることが出来るかは不安だったみたいだ。
「ただ単に姿を消す魔眼持ちが珍しいだけだったのかもしれないな」
俺は昨日の戦闘を思い出しながら言った。
あんなのがそこかしこにいたら、まっとうにここで狩りをするなんてことは不可能だ。
手に持つ武器次第では一撃死もありえる。
それを思うと、最初に遭遇した時にシールドで防げたのは幸運だといえる。
「そうね。ここまで二〇体近い鬼人を倒しているし、そもそも三つ眼の鬼人自体が珍しい感じ?」
「ルリカの言う通りさ。確か今回倒したので二体目だったさ」
セラの言う二体倒したというのは今回の探索で、倒した数だ。
先の探索で倒した三つ眼の鬼人は一体だけだったから、今回の探索と合わせて三五体中で三つ眼は三体しかいなかったことになる。
一つ眼と二つ眼を比べると、一つ眼と戦った数の方が多かった。
たまたま俺たちが向かった方向が一つ眼の鬼人が多かっただけの可能性もあるが。
「それでソラ、向こうの様子はどうだ?」
「順調、かどうかは分からないけど、被害は出ていないな」
その全てを把握しているわけではないが、一回の戦闘時間が長いせいか、五日経った今も階段からそれ程離れていない。
それこそ戻ろうと思えば、一日もかからず戻れる位置にいる。
戦闘が長引く原因の一つとして、引き寄せられた鬼人が追加で現れているからだろう。
そのせいか鬼人を倒した後も、すぐには移動を開始しないで結構な時間休憩を取っている。
少なくとも俺が把握している漆黒が倒した鬼人の数は七体だ。
三つ眼の鬼人と遭遇して、苦戦した可能性もゼロではない。
俺たちの方にいない代わりに、漆黒が相手している可能性がある。
「それじゃ行くか。クリス頼んだ」
クリスは頷くと、魔力を解放した。
「どうだ?」
俺が問い掛けると、クリスは魔力に引っ掛かった存在のいる方向を口頭で、時に指差しながら伝えてくる。
俺はそれを聞きながらMAPと照らし合わせていく。
「うん、今回は消えてる反応はないな。また感じたら言ってくれな」
クリスが頷くのを見て、俺は一番近くの反応に向かって歩き出す。
その足取りは軽い。
これは間違いなくクリスのお陰だ。
決して警戒は怠っていないが。
それは俺だけでなく、他の面々もそうだ。
「……止まってくれ。この角を曲がった先に鬼人一体の反応がある」
「今回はどうやって戦うの?」
「場所的には角を曲がったところから近い位置に反応があるが……とりあえず角まで移動して、何の魔眼か確認してみる。それ次第かな?」
俺はルリカを見て言うと、ルリカは頷いた。
足音を殺して素早く移動したら、俺は飛び出し挑発を使う。
こちらを振り向いたタイミングで転移を使い、鬼人の背後に回ると剣を振り下す。
その一撃を鬼人は躱し、反転して即座に反撃をしてきた。
鬼人は無手で、ガントレットとレッグガードを装着している。
格闘を主体に戦う個体のようだ。
顔を合わせた鬼人の目は二つ。
解析を使うと魔眼が使えないことが分かった。
「なしだ!」
俺は攻撃しながら短く告げる。
瞬間、鬼人の背後に三つの反応が生まれた。
そこにはいたのはルリカにセラ、アルゴの三人。
ルリカは一度止まると、セラとアルゴの二人は左右に分かれた。
そのままルリカは双剣を振るったが、鬼人は半身になって躱し裏拳を放った。
それをルリカの代わりにアルゴが剣で弾くと、体の流れたところにセラが斧を振り下したが、その攻撃を鬼人は躱した。
まるで背中に目でもあるように、安全地帯の左後方へと飛び退いた。
そこから俺たちは四人で協力して絶えず攻撃したが、鬼人は壁を背にすると、そこに留まり俺たちと戦い始めた。
壁を背にすることで一度に戦う人数を制限させ、尚且つ攻撃の選択肢を減らすことで守りの負担を減らしている。
格闘スタイルとその戦法の相性が良かったのもあるが、戦闘時間が長くなるにつれて感じていたことがある。
それはこの個体自体の身体能力が高いということだ。
レベル的には今まで戦っていた鬼人と差がないのに、力も速度も上に感じた。
魔眼が使えない分、身体強化されている?
魔眼がない個体とは今までにも戦ってきたが、ここまで
けどそれも、ヒカリとギルフォードが参戦したことで動きに変化が現れた。
ヒカリは斬撃で、ギルフォードは弓矢による遠距離攻撃で援護してきた。
それにより鬼人のリズムが崩れたのか、急に俺たちの攻撃でダメージが入り出した。
徐々に傷が増えていき、鬼人の肌は血に染まる。
血を流した影響か動きも悪くなっていく。
動きが悪くなればさらに攻撃が通りやすくなり、終わってみれば俺たち四人だけで三〇分以上戦っていたのに、ヒカリたちが加わると五分も経たずに決着がついた。
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