第675話 感知魔法?

 アルゴの予想は的中し、俺たちが一〇階から戻った二日後に、漆黒が一〇階へと狩りにいったという話がズィリャの町中に流れた。


「もしかしたら、準備はしていたのかもね」

「一〇階へ行く?」

「うん。私たちが攻略を目指してるってことは、冒険者の多くが知ってるだろうからね」

「私もそうだと思います。一〇階は勢いだけで行けるようなところではありませんから」


 ルリカの言葉をクリスが補足した。

 アルゴたちも同意を示すように頷いている。


「ま、ある意味俺たちが背中を押したのかもしれねえ。この選択がどういう結果をもたらすかは分からねえが、その辺は自己責任だからな。もっとも今まで入念に準備を進めていたが、行くきっかけがなかなかなかっただけかもだけどな」


 一度立ち止まると、次に一歩踏み出すのを躊躇してしまうような感じか?


「……俺たちはどうするんだ?」

「別に予定通り出発すればいい。どうせ進む方向は別になるだろうしよ」


 俺の問い掛けに、アルゴはあっさり答えた。

 確かにⅯAPを確認して、いない方向に進むからダンジョン内でかち合うことはないだろう。

 俺たちは出発するまでの間、宿でしっかりと体を休めた。

 ミアは相変わらず調理場を借りて料理をしていたが、クリスは部屋に残って一人瞑想していた。

 何をしているか気になったが、ルリカに背中を押されて部屋から追い出された。というか、ルリカたちに誘われて俺も料理を作った。

 女将さんが新作料理がないか楽しみにしているということだ。

 そして予定通り、準備を整えた俺たちは宿を出発した。

 その間漆黒が戻ってきたという話は聞いていないから、まだ狩りをしているのだろう。

 一〇階に下りてMAPを確認すると、鬼人とは別の反応が確認出来た。

 その数五四人。四パーティーには届かない中途半端な人数だけど、ダンジョンに入る前に耳にした数とは一致している。

 それはダンジョンに入ってから今まで一人も欠けることなく滞在しているということだ。

 確かに鬼人の魔眼は脅威ではあるが、少なくともダンジョンの九階を突破出来るだけの力量はあるわけだから、魔眼にさえ対処出来れば十分狩れるはずだ。

 それにダンジョンの中で人数を確保出来るのは、長期間滞在するのに有利に働く。

 休憩を交代で取ることが出来るから、ゆっくり体を休めることが出来る。

 ただ数が多いと弊害もある。

 複数パーティーで狩りを行うため連携が難しいというところと、野営をする時は有利になるが、通常の移動では通路の幅から数の優位を取るのが難しいというところだ。


「ま、下層では大人数でダンジョンを回っていたみたいだし、その辺りのことは十分連携が取れるように訓練されてるだろうけどな」


 というのがアルゴの意見だったがその通りだと俺も思った。


「それでソラ、俺たちはどっちに行けばいい?」

「少し数は少ないけど南西の方がいいかな? 北西の方も階段に近い場所なら数は同じような感じだけど、ちょっと鬼人たちの距離が近い」

「分かった。なら南西方向に行こう。何処まで進むかは、狩りをしながら考えるか」

「あの、それですけど、一つ試したいことがあります。いいですか?」


 いざ歩き出そうとした瞬間、クリスが口を開いた。

 ギュッと杖を握り、真剣な表情を浮かべている。


「えっと、何を試すんだ?」

「精霊の力を借りた魔法です。その、上手くいくかは分かりませんが……」


 自信はないのか、徐々に声が小さくなっていった。


「いいんじゃない? やってみなよ。ううん、やるべきだよ」


 そんなクリスにルリカが声を掛けた。

 クリスはそれを聞いて皆の顔を見て、小さく頷くと大きく息を吐き出して杖を構えた。

 クリスの小さな口が動き、声が聞こえてくる。

 それと同時にクリスの周囲に魔力が集まってくる。

 それは普通の魔力とは違う、精霊による魔力だ。

 魔力は杖の先端に集まり……クリスの声が止まった瞬間に周囲に広がっていった。


「クリス、これは?」

「空間を魔力で満たして、異物を探す魔法、になるのでしょうか? その、見えない鬼人も、これならどこにいるか分かるかもしれないと思って……」


 戦闘では活躍出来そうもないため、何か役に立てないかと考えていたそうだ。

 ただしこれはあくまで実験段階のため、上手くいくかはまだ分からないということだ。

 他にも放たれた魔力は時間の経過とともに弱まるからその都度更新する必要もあるし、このフロア全体を覆うことは出来ないため、ある程度進んだら使う必要がある。


「それでも見えない奴が分かるだけでもかなり違うよな」


 アルゴの言葉に俺は頷く。

 ギルフォードたちも頷く。


「あ、あの、まだはっきり分かるかは分かりません。その、魔眼の力がどのように働いているかは不明ですので」


 それは確かにその通りだ。

 少なくとも気配察知や魔力察知では捉えられず、ⅯAPの監視網にも引っ掛からない相手だ。


「それじゃそれを踏まえて、警戒しながら行くか?」


 アルゴの言葉を受けて、俺たちのダンジョン探索は始まった。

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異世界ウォーキング あるくひと @jwalk

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