第673話 ズィリャダンジョン・28

 次に戦ったのは一つ眼の鬼人で、この鬼人は魔眼を使ってこなかった。

 ただ槍を右手に、左手に盾を持ったその鬼人は守りに長けていて倒すのに時間がかかり、戦っている間に援軍が到着した。

 魔眼を警戒していたのが戦いが長引いた原因だ。

 そして援軍に現れた鬼人は二つ眼で、装備していた武器は弓。さらに使ってきた魔眼は炎を発生させるもので、弓矢の回避行動を取った先に突然炎が生まれるなどして苦戦を強いられた。

 炎攻撃を躱すことが出来たのは、連続使用が出来ないのと、炎の発生場所に魔力の反応を感じることが出来たからだ。

 もちろん魔力反応を感じてから発生までのタイムラグは殆どなかったが、それでも躱すことが出来たのはパーティーメンバーが高い身体能力を持っていたからだ。

 誰の近くに炎による攻撃がくるかは分かったから、名前を呼んだ瞬間その場から離れてくれた。

 その反射神経はさすがとしかいいようがない。


「しかし魔眼がなくても厄介だな。結局いつ使ってくるのかって警戒して、踏み込めない場面が多かったからな」

「確かに。それなら使う魔眼が分かった方がある意味それを警戒すればいいから戦いやすいな。まあ、そこはソラがいるから分かるんだけど」


 アルゴとギルフォードの会話に、他のパーティーメンバーたちも頷く。

 一つ眼の使う状態異常なら、鑑定すれば分かるからな。

 ただ本来ならそれを受けるのは危険な場合もあるから、その点は治療することが出来るミアがいてこそだ。


「? ヒカリ。どうしたんだ?」


 アルゴたちの話を聞いてそんなことを考えていたら、ヒカリが目の周りをほぐしていた。


「ん、目の揺らぎを見分けるため眼に集中していたら目が疲れた」

「そんなに集中してたのか? あまり注視すると逆に危険じゃないのか?」


 目に集中するあまり、他がおざなりになるなんてこともあり得る。

 俺は二体が相手ということで、目の揺らぎを見ることを諦めたんだよな、途中で。余裕がなかった。


「大丈夫。目を中心に身体全体を見るようにしてたから動きは把握してた!」


 それはそれで凄いことじゃないのか?

 思ったことを口にしたら、昔そのような訓練を受けたから出来ると、こともなげに言われてしまった。

 ヒカリのいう訓練とは、王国での幼少期のことを言っているのだろう。

 もしかしたら既に体に染みついているのかもしれない。

 俺も同じように出来ればもっと魔眼に対して有利な立ち回りをすることが出来るだろうけど、一朝一夕で出来るようなことじゃないからな。例えスキルがあったとしても。

 鑑定や解析を使っても魔眼の効果は分からないけど、どんなスキル持ちかを調べることは一応可能ではあるんだよな。

 実際マジョリカの冒険者ギルドのギルドマスターのレーゼや、イグニスは対象がどんなスキルを持っているか分かるみたいだったからな。

 これならどんなスキルで視ているかを聞いておけばよかった……あれ? 以前もそんなことを考えたことがなかったか?

 けど目を注意していたか……いっそ目に焦点を当てて解析を使ってみるとか?

 解析を使う時は、鑑定の後に使う時もあれば、鑑定して分からない項目に注目して使う時が多い。

 だから目を集中して解析してみれば、それこそ魔眼の特性を視ることが出来るかもしれないとヒカリと会話して思ったのだ。


「主、何かいいことあった?」

「どうだろうな? ただ試してみたいと思ったことが一つあるかな?」


 詳しく言わないのは変に期待させないためだ。

 ヒカリもそれが分かっているのか、それ以上は聞いてこなかった。

 ただ目が辛そうだったから、温かいタオルを目元に充てるように言って渡した。

 ふーと息を漏らして、肩から力が抜けていくのが見えた。



 結論から言うと、解析で魔眼の効果を調べることは出来た。

 その中で問題があるとすれば、それは近付かないと解析が出来ないということだ。

 もともと鑑定も離れていると分からないが、解析で探ろうとするとさらに近付く必要がある。およそ三メートル以内?

 そこで活躍したのは転移だ。

 転移で飛んで解析を使って魔眼の効果が分かると転移で戻る。

 その時自分で対処出来そうだと思った時と魔眼なしの鬼人の場合は戻らないでそのまま戦った。

 戦闘を開始すると近くにいる鬼人が寄って来るという習性があるため、時間をかけたくないという気持ちがあった。

 あとはシールドや時空魔法で、皆が来るまで耐えられると思ったのも大きい。


「ソラの負担が大きいが、大丈夫なのか?」


 一一体目の鬼人を倒した時に、アルゴが尋ねてきた。


「休憩も挟んでいるし大丈夫だよ」

「そうか?」

「ただ、一度街に戻ることになりそうかな? この周辺の鬼人はあらかた倒したから」


 別の方向に向かえば鬼人はいるが、出来るだけ野営は避けた方がいいだろう。

 気配を完全に消す魔眼持ちのことが、どうしても頭から離れない。

 それは皆も同じようで、一応罠などの対策をしているが、いつも以上に警戒を強めているから疲労も溜まっている。

 結局今回は五日間ダンジョンを探索し、倒した鬼人の数は一三体だった。

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