第671話 三つ眼・2
ふと、一瞬仲間たちの姿が崩れたことを思い出した。
あの時何かしらの魔眼を使ったのは確かだと思うが、それが何だったのか効果は不明だ。
そして明らかにルリカとセラの動きが変わった。
戸惑いの表情を浮かべている。
俺はそれを見て、嫌な予感がしてルリカとセラを鑑定していた。
【状態「認識阻害」】
それが二人の状態だった。
「ミア、ルリカとセラだ!」
それを視たと同時に叫んでいた。
それを聞いたミアがリカバリーを使えば状態の項目から認識阻害が消えている。
俺自身でリカバリーを使わなかったのは、距離があったためだ。
転移を使ってリカバリーを使った方が早かったかもしれないが、鬼人に手札を見せないことを優先した。
リカバリーを受けたルリカとセラは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに武器を構え直し、そのまま動き出した。
最初に攻撃を仕掛けたのはルリカ。疾風を使い風となった。
残像を残してルリカの姿が消えた。
と同時に金属音が鳴り響き、鬼人の体が浮かび上がった。
どうやらルリカの一撃を、斧で防いだようだ。
どんな反射神経をしているんだ。
それとも偶然?
ただダメージこそ入らなかったが、その衝撃で鬼人の姿が完全に見えるようになった。
そこに続いてセラが攻撃を仕掛けた。
左右の手に握られた斧による連続攻撃を、鬼人は斧で受け止め、またステップを踏んで躱し距離を取る。
けど逃げた先には回り込んでいたアルゴたちがいて、鬼人を休ませない。
鬼人も卓越した身体能力で躱していたが、徐々に傷が増えていく。
それでも致命傷を与えられないのは、俺たち自身も何処かで鬼人の魔眼を警戒していたというのがあったと思う。
あと一歩が踏み込めないでいた。
事実一度だけ例の水の防壁で攻撃を防がれた。
ただそれ以降、鬼人は魔眼を使ってこなかったため、そこで俺たちは一気に攻勢に入った。
一気にといっても攻撃出来る者は限られるため、俺、アルゴ、セラの三人が前に出て集中して攻撃した。
その結果、鬼人は徐々に追い詰められていき、最後魔眼を使用する兆候が見えたが、発動する前にアルゴの剣が鬼人の体を貫き、ゆっくりと光の粒子となって消えていった。
鬼人の体が消えたあと、地面に残ったのは眼だった。それも二つ。
ただそれを拾いに行く者は誰もいなかった。
どうせ俺のアイテムボックスに保管するから俺が取ればいいと思っているのもあるが、それ以上に疲れているからだ。
事実、今まともに立っているのは俺とクリスしかいない。
身体的な疲労というよりも、魔眼を警戒しての精神的な疲労の方が大きいのだと思う。
俺も戦いながら結構神経質になっていて、何度も確認のため鑑定を使っていた。
「ソラ、周囲に敵の反応は?」
「……少なくともⅯAP上にはないよ」
「……そうか……」
それを聞いたアルゴ大きく息を吐くと立ち上がった。
そう、ⅯAPに反応はなくても、周囲に本当に敵がいないという確証はない。
事実さっきまで戦っていた三つ眼の鬼人は、ⅯAPから反応を拾うことが出来なかったわけだし。
「ギルフォードたちはあれの接近に気付いたか?」
「いや、まったくだ。目の前に現れて初めて反応を捉えた」
「私もそうね」
俺の問い掛けにギルフォードとルリカが答える。ヒカリも同意するように頷いている。
そうなるとおちおち休憩することも出来ない。
野営なんてもってのほかと思うが、ただ今反応のある鬼人を倒すためには、どうしても日帰りでは無理だ。
「……休む時はウォール系の魔法で周囲を囲むしかないか?」
「そんな長時間維持することが可能なのか?」
「魔力を多めに籠めれば大丈夫だと思います」
アルゴの疑問にクリスが答えている。
ただアースウォールはいいけど、ファイアーウォールにアイスウォール、ウインドウォールに囲まれ続けるのはちょっと落ち着かないかもしれないな。
命がかかっている以上そんなことは言ってられないけど。
「ん? どうしたヒカリ」
俺たちが話していると、腕を組んで難しい顔をしたヒカリがいた。
「罠を仕掛ければいいと思った。けど、使えるものがない」
ヒカリのいう罠は相手の動きを止めるというよりも、接近を知らせる鳴子のようなものを言っているみたいだ。
「罠か……」
罠スキルがあるな。
罠の作製、設置の仕方が分かるようになるか……。
習得してみるか?
NEW
【罠Lv1】
なるほど。錬金術にも罠で使えるアイテムがあるのが分かった。
これはスキルを取ったことで、罠に関する知識を得たからか?
「クリス、念のため魔法で周囲を囲ってもらっていいか?」
「ソラ、何をするんだ?」
「ヒカリが罠を設置すればいいんじゃないかって言ったからさ。少し錬金術で作ろうと思って。ただ何処まで有効かは分からないから、気休め程度になるかもだけど」
習得したばかりでスキルのレベルも低いし、頼り過ぎるのも危険だと思う。
それがあれば安心だと気を緩めるような者はここにはいないだろうけど。
こうして皆には休憩してもらい、俺は早速罠を作り始めた。
一度ダンジョンから出ればよかったんじゃないかと気付いたのは、罠を作って設置した後だったけど……。
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