第669話 無幻の瞳
今回入手した素材は鬼人の眼だった。
俺はそれを受け取るとアイテムボックスに収納した。
MAPを見ると近くに反応がないため、まずは鬼人と戦ってみての振り返りをすることになった。
「ソラ、あの鬼人の魔眼は麻痺の効果だったんだよね?」
「ああ、それは間違いない」
ルリカの問い掛けに俺は確信をもって頷く。
そこは鑑定でしっかり状態を確認したからだ。
ついでにあの戦闘で誰が何回麻痺状態になったかも伝えた。といってもそんなに数は多くない。
二つ眼の鬼人と違って戦闘時間が短かったのもあるけど、連続で使用してこなかったのか誰かが麻痺になって次に麻痺になるまでの間隔が長かった。
「全然分からなかったさ」
「うん、気付かなかった」
セラとヒカリはそれを聞いて麻痺になったと全く気付かなかったと言う。これはルリカも同様だ。
三人の言葉から、鬼人の魔眼による麻痺の付与は、即効性でないということが推察出来た。あくまで今回が、だけど。
すぐにミアがリカバリーで治療したというのもあるけど、三人なら体に異常を感じたら、違和感を覚えたらすぐに分かると思うから。
たぶん麻痺の効果としてはヒカリの使う短剣と同じ気がする。
ヒカリの短剣も遅効性で、じわじわと麻痺の効果があらわれる。
いや、あれは麻痺としての効果が弱くて、斬り付けるごとに上乗せされていって初めて麻痺の効果に気付いたのか?
まあ、とにかくあの時は気付いた時には体が碌に動かなくなって、危機的状況に陥ったものだ。
状態異常耐性を習得出来なかったらあそこで俺のこの世界での冒険は終わっていたかもしれない。
「実際に戦ってみた感想はどうだ?」
「多対一なら問題ないかな? 鬼人の使う武器が剣だったのもあるかもだけど。あとソラのいう瞳の揺らぎ? あれは少し分かりにくかったかな」
ルリカたちの感覚としてはゴブリンロードよりは強いけど、オークロードやオーガロードよりは弱いという。
ただ耐久力に関してはそれ以上ではないかとも言った。
実際クリスの精霊魔法の直撃を受けてもほぼダメージはなかったわけだから、耐久力の高さはあると思う。
あと揺らぎに関しては常に分かったわけではないようだ。
俺の場合は並列思考と記憶スキルがあったから分かったが、実際に剣を交えながらの確認は、余裕がないから出来ないのかもしれない。
そうなると先読みというか、備えは難しいか?
「その辺りは戦いながら慣れていくしかないな。もしかしたら別の癖みたいのも今後見つかるかもしれないしよ。あとは使用頻度とかな。ま、何にせよ焦る必要はない。じっくりいこうぜ。それに魔眼っていうだけあって、鬼人が向いている方向にしか効果はないみたいだしよ」
アルゴが俺の肩を軽く叩きながら言った。
確かに魔眼の効果が出ていたのは、鬼人が見ていた方の人だけだった。
その視界から外れている時は、一度も状態が麻痺になることはなかった。
これは先に戦った二つ眼の鬼人も同じだった。向こうは剣の軌道ではあったけど。
「それじゃ幻惑耐性の魔道具を作るから、少し休憩してもらっていいか?」
「ああ、頼む」
俺は鬼人の眼に魔石、さらに万能薬を用意すると創造を発動する。
魔力を籠めながら作れば、魔道具はそれほど時間がかからず完成した。
【無幻の瞳】幻惑から身を守ってくれる。
「……誰がこれを付けるの?」
完成した魔道具を見たミアの第一声がこれだった。
うん、まんま瞳でちょっとグロテスクな感じだから、これを身に付けるのは気持ち悪いかもしれない。
瞳に赤い線が入っていて、まるで血走っているようにも見えるし。
皆の視線はミアとセラ、アルゴに集中する。
ミアは回復手段があるから、セラとアルゴは腕が立つからだろう。
「……とりあえず最初はアルゴでいいんじゃないか? 一番暴れられたら困るし」
「それもそうだな。こいつを押さえ付けるとなると骨だしな」
俺の意見にうんうんとギルフォードたちも頷く。
アルゴは俺から無幻の瞳を受け取ると、それを首から掛けた。
「それじゃ十分休んだことだし、探索を再開するか? ソラ、次はどっちに進めばいい?」
アルゴの言葉に俺はⅯAPを確認する。
鬼人は戦闘が始まると、近くにいる仲間を呼ぶ習性があるのかもしれない。
それを考えるとある程度他と離れている個体を狙いたいところだが……微妙に周囲に反応があるな。
素早く倒せればいいけど、時間がかかると複数体と同時に戦うことになる。
ただそこは考えても仕方ない。
ようはそれを見越して準備をするだけだ。
俺がⅯAPでの情報を伝えると、早速移動を開始した。
俺を先頭にルリカたちが続き、後方はアルゴたちで固めている。
カツカツという硬質な足音が響き、一歩進むごとに緊張感が増すような錯覚を覚えた。
見た目は九階までと同じなのに、空気が全く別物だ。重苦しく感じる。
ここがダンジョンの最終階だから? とも思ったが、マジョリカダンジョンではこんな風にならなかった。
その時だった。
俺の体を覆っていたシールドが消えたのは。
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