第668話 鬼人・4

 倒れた鬼人は粒子となって消えた。

 替わりにそこにあったのは一つの魔石。

 これが今回の報酬のようだ。

 俺はそれを拾ってアイテムボックスに入れると一度皆の元に戻った。

 MAPでは変わらず一つの反応がこちらに向かって移動してきている。


「ソラ、鬼人と戦ってみてどうだった?」

「やっぱり魔眼による能力は厄介かな? ただ普通に戦う分ならヒカリたちなら苦も無く倒せるかもしれない」


 正直対人戦だとヒカリやルリカは俺よりも上手く立ち回れる。

 その点はアルゴたちにも言えることだ。

 ただそこに魔眼の存在が入ると事情は変わる。


「まだはっきりしてないが……」


 俺は魔眼発動時の鬼人の様子……瞳の揺らぎについて話した。揺らぎというか、震えるといった方がいいのか表現が難しい。


「魔眼発動時の癖か? 確かに確認する価値はありそうだな」

「ああ、それで次が近付いてきてるがどうする?」

「なら私たちで戦うよ。さすがにソラも連戦だと辛いだろうしね」


 アルゴと俺の言葉を受けて、ルリカたちが今度は戦うと言った。

 進んで戦うと言ったのはミアがいるからだ。

 ミアと連携を取るという点では、ルリカたちと組んだ方が呼吸が合う。


「なら最初は私とヒカリちゃんで遠距離から攻撃しますね」

「そうね。その後はミアを頼りつつ戦う感じかな?」

「補助は任せて! あと一つ眼だったら私も注意するけど、何処か体の調子がおかしいと感じたら声をかけてね。すぐにリカバリーをかけるから」


 ルリカの話を聞きながら、俺も相手が一つ眼だったら鑑定でフォローしようと思った。

 鑑定なら状態異常に掛かったらすぐに分かる。


「この戦いで魔眼の有効範囲が分かればいいんだけどね」

「さっきと同じぐらい広いと厄介だけどな」


 ルリカの言葉に俺は先ほどの戦いを思い出す。

 少なくとも三〇メートル以上離れていたにもかかわらず、攻撃は俺まで届いていた。

 あの魔眼の効果が遠距離向きだからだったのか、それとも他の魔眼も同じように広いかはまだ分からない。

 もっともあれを魔眼の能力と言っていいかはちょっと疑問だ。

 剣を振るわないと発動出来ないという点では、分かりやすくて助かるけど。

 あれが瞳の揺らぎだけとなるとどのように飛んでくるか分からないからあそこまで回避出来なかったはずだ。


「それじゃクリス、準備をお願い」


 ルリカの言葉を受けて、クリスが魔法の準備に入った。

 クリスを中心に魔力が集まっていく。

 どうやら精霊魔法で先制攻撃を仕掛けるつもりだ。

 ヒカリもいつでも斬撃を放てるように構えている。

 ルリカとセラ、ミアは三人で固まっている。

 状況と相手次第で疾風で距離を詰めるつもりなのかもしれない。

 やがて通路の角から姿を現したのは、一つ眼の鬼人だった。手に持つのは剣だ。

 一歩、二歩と鬼人は歩みを止めずこちらに向かってくる。

 既に俺たちを視界に捉えているのに、速度は変わらない。

 それは余裕のあらわれなのか、警戒しているからなのかは俺には分からない。

 そして通路の半ばまで来た時に、クリスが魔法を放った。その距離およそ三〇メートルか?

 注意していたが特に瞳の揺らぎはなかったし、皆の状態を視ていたが特に変化もなかった。

 クリスがすぐに魔法を撃たなかったのは、引き返して通路脇に逃げ込まれないようにするためと、魔眼の有効範囲を探るためかもしれない。

 クリスの杖から放たれた炎は、魔人に間違いなく直撃した。

 炎が大きく燃え上がる。

 けど反応は変わらない。

 やがて炎が消えて視界が戻ると、そこにはほぼ無傷の鬼人が佇んでいた。

 それを見たヒカリは素早く短剣を三度振り抜いた。

 斬撃が鬼人を襲うが、それを鬼人はまるで見えているかのように鮮やかに躱した。

 ヒカリが再度斬撃を放つが、今度は手に持つ剣で弾いた。


「クリスはここで待機。何かあったら援護をお願い。私たちは前に出るよ」


 疾風で一気に行くかと思ったけど、ルリカたちは通路の幅を一杯に使って進んでいく。

 ルリカ、セラ、ヒカリが横一列に並び、少し離れてミアがそれを追う。

 たぶん幻惑を受けた場合を考えて距離を取ったのだと思う。

 あとは魔眼の範囲を推し量るためかな?

 それに対して鬼人は足を止めた。

 首を動かさないで視線だけでこちらを見てくる。

 距離が徐々に詰まっていき、二〇メートル……一五メートルを切った。


「あっ」


 その時クリスが声をあげた。

 うん、今確かに鬼人の瞳が揺らいだ。

 四人を鑑定で視ると、中央を歩くセラの状態が麻痺になった。

 他の三人は無事だ。

 もちろん鬼人の視界の中に入っているクリスも無事だ。

 アルゴたちは鬼人の視界に入らないように通路脇で待機中だ。

 俺が声を掛けるよりも先に、ミアがリカバリーを自身を含めた四人にかけた。

 そこでミアは立ち止まり、ルリカたち三人がさらに距離をつめていく。

 それぞれの間合いに入ると、三人は鬼人を囲むように攻撃を開始した。

 その間鬼人は魔眼を使わなかったが、状態異常を引き起こす魔眼は連続使用が出来ない?

 そう思ったが、それは間違いだった。

 戦いながら鬼人が魔眼を使ってきた。

 ただそれは瞳の揺らぎを見たから分かったのではなくて、鑑定して分かったからだ。

 ミアも気付けなかったのは、ちょうど鬼人がこちらを向いていない時に魔眼を使ったからだ。

 もっとも俺が注意を促せば、ミアがすぐに回復してくれた。

 俺だと一〇メートル以上離れた相手にリカバリーを使うと効果が出ないが、ミアだとそれだけ離れていても十分治療出来る。

 それから戦闘が終了するまでこちらを向いてセラが状態異常にかかったことがあったが、最終的にミアが麻痺することはなかった。

 射程範囲外だったからなのか、それとも状態異常は複数人に同時にかけられないか……その件に関しては残念ながら確証を得ることは出来なかった。

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