第667話 鬼人・3
ファイアーストームの炎が鬼人を呑み込んでいくのを見ながら、俺は気配察知を使う。
反応は健在。
こちらも魔法一つで倒せるとは思っていないが、使った後で後悔した。
これでは自分で視界を悪くしただけだと気付いたからだ。
それならいっそ風の魔法で炎を吹き飛ばして、追撃の攻撃を放とうとして目の前の炎が切り裂かれていくのが見えた。
俺はそれに対して盾を構えてオーラシールドを使った。
半円形に広がるシールドが俺を囲い、二度、三度と衝撃を受けて震えた。
一度目の衝撃を受けたあとに俺は強化を使いオーラシールドの強度を上げた。
「今のは斬撃か?」
ヒカリが使う斬撃に酷似していた。
炎が消え去ると、そこには剣を構えた一体の鬼人が立っていた。二つ眼だ。
その鬼人が剣を振るうと、再びオーラシールドが震えた。
間違いない。
この鬼人は斬撃に似た攻撃をしている。
これが魔眼の特殊能力か。
厄介なのは斬撃が目に見えないところだ。
俺の目の前で、再び鬼人が剣を振るう。
距離を詰めないで同じ攻撃を繰り返している。
強化したオーラシールドを展開しながら接近することは可能だと思うけど、あまり時間をかけたくない。
MAPを見ると、こちらに近付いて来る反応があったからだ。
それを分かってか、それともこれが戦闘スタイルなのかは分からないが、鬼人は同じ場所から剣を振るう。
俺はそこでファイアーウォールを使った。
ファイアーストームを切り裂いた斬撃はファイアーウォールでも防ぐことは出来なかった。
斬撃が再びオーラシールドに衝撃を与えたが、俺はその場でウインドカッターを放った。
それを鬼人は軽快なステップで躱すと、剣を振るう。
それに対して俺はもう一度ファイアーウォールを使ったが、鬼人の飛ばした斬撃はいとも簡単にそれを切り裂く。
それでもオーラシールドを破ることは出来ないから、俺の方もダメージは負わない。
けど俺はそこで盾をしまうと駆け出した。
鬼人はそんな俺の行動を見ても、焦った様子を見せないで変わらず剣を振るう。
俺はその剣の軌道を見ながら横に一歩ズレる。
すると俺のすぐ横を何かが通り抜けたような風圧を感じた。
鬼人はそれを見て再び剣を振るうが、再び横に移動してそれを躱す。
斬撃の幅は約二メートル。剣の軌道でそれが縦にくるか、横にくるか、斜めにくるかが決まる。
また剣を振るってから到達するまでの時間も一定。もしかしたら剣を振るう速度で変わることはあるかもしれないが、今のところ鬼人の剣を振る速度に変わりはない。
それを踏まえたうえで、俺は回避行動を取っていた。
二度ファイアーウォールを使ったのは、それを確認するためだった。
これは記憶スキルと、あとは結界術のシールドで、一度の攻撃なら防いでくれるという保険があったからだ。
俺は接近しながら魔法を放つが、鬼人はその魔法をやはり躱す。
そして一定距離を詰めると、鬼人もこれ以上遠距離で攻撃をしても意味がないと思ったのか、間合いを詰めて襲い掛かってきた。
その速度は早く、俺が近付いていたこともあって一気に間合いを詰めて勢いそのままに剣を振り下してきた。
俺はそれに対して剣を合わせようとして、咄嗟に避けた。
俺のすぐ横を風圧が通り過ぎ、地面にぶつかった。
普通の剣戟の中にも斬撃を混ぜてくるとは厄介だ。
一瞬転移で仕切り直そうと思ったが、すぐに考えを改める。
どちらにしろ俺の遠距離攻撃も効かないならこの距離で戦う必要がある。
それにこの厄介な敵に、追加でもう一体と戦うとなると苦戦は必須だ。
ならここでこいつを倒す必要がある。
俺はそのように頭の中を切り替えると剣を振るう。
注意深く相手を観察しながら、時に自分の勘を信じて回避行動を取る。
そして剣の間合いで戦い続けること十分。あることに気付いた。
それは鬼人の眼だ。
斬撃を放つ時に片方の瞳が不自然に揺らいだ。
これが二つ眼の鬼人だからなのか、それとも全ての鬼人に共通するかは分からないが、これは検証する価値があるかもしれない。
俺はとりあえずこの個体に関しては何度か確認してその揺らぎがある場合のみ斬撃を放ってきたため、それに注意しながら戦う。
それからあとは時間との戦いだ
いかに援軍が到着する前に倒すかだが、俺は焦らずに決して慌てないように心掛けた。
焦りはミスを生み、手痛い攻撃を受けるリスクが増す。
それに長く戦うことで俺にも有利に働く要素はある。
それは記憶スキルによって鬼人の動きを覚えることだ。
全ての鬼人がそうではないと思うが、少なくともこの鬼人に関しては動きのパターンが分かってきた。
振り下しから次に繋げる攻撃。その時にどう動くか。
斬撃の魔眼を使って斬り付けた後は、そのまま流れるように攻撃する時と、一時退いて体勢を整える時がある等々だ。
だから俺はその動きを先読みして攻撃を仕掛けるタイミングを探る。
すぐに仕掛けないのは、一度反撃したら鬼人の行動パターンが変わるかもしれないと思っているからだ。
……そろそろ頃合いだ。
待ち望んだその時がついにやってきた。
鬼人は斬撃を放つと同時に、懐深くに踏み込んで剣を振るってきた。
それに対して俺は剣を打ち付けるように振るう。
剣のぶつかり合いで火花が散り、鬼人の持つ剣が折れた。
鬼人の二つ眼が大きく見開かれて、動きが一瞬止まった。
そこに俺が追撃の刃を放てば、鬼人の左肩から右脇に向かって斜めの線が入り、鬼人は床へと崩れ落ちた。
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